溶け合う雨宿りボックス
突然降られた雨を避けるために庇の下に逃げ込んだ先で、という出会いが運命的である確率が天文学的数字ほどにありえないことでもゼロでないなら、無理でも合意でも心中完遂を要望する声の高まりを受けて、雨宿りボックスが出来上がるまでの苦労話は涙がなくても聞ける。
理性的な心中希望者が危惧するのは後始末の問題である。刃物や紐を用いた場合、凄惨さを極める。練炭の活用だと無関係な人を巻き込んでしまいかねない。当人たち以外については人畜無害という、要望に応えるには、外界と遮断できるボックス上のものが望ましい。
一度入ってしまえば、内側からは開けられない。
屠殺場に送られる家畜たちが、己の運命を悟ってか泣き叫べるように、事情を知らずに連れ込まれたなら察しの悪さが絶望的な水準でなければ、壁を叩き続けるに違いない。
心中の目的が永遠の融合であるなら、雨宿りのつもりで誘い込まれた先で、雨が入って来ないはずなのに、無数の穴から射出される超高圧のミストでは、ミンチになって跡形もなくなるだけだと景表法違反になりかねない。そこで、雨粒自体に浸潤性を持たせるアイデアだ。高圧のミストの射出は二回に分けて、最初は従来通りのミンチにしながら浸潤性を付加し、二度目には強酸性系で、字義通り溶け合わせる。人二人が穴開きチーズや蜂の巣さながらになろうが、それは通過点だ。
身も蓋もないことだが、あの世で一緒になれるか確たることが証明できなくても、この世でならそれが叶えられる。
溶け合えてしまえば、高エントロピーのせいで再び分かつことはできない。
ボックスから排出される液体は灰にはなれない。
引き取り手がいなければ、廃液として処理される。
後戻りができないという説明を正確に百万回聞いて、使用感の想像を十分させられた後でなければ、利用不可という制約は、常人にとって抑止力として有効である。
残された課題は、雨宿りのためのボックスの中で人工雨に当たるという矛盾の解決だ。




