ウッシー。
そして、迎えの飛行特化の移動用召喚獣、体長三メートル以上のテラツバメが即応科長の屋上へと到着し、立川駅徒歩15分の所にある関東庁即応科から、千葉の幕張貨物専IC中継地点へと向かった。
そして、中継地点上空へと到達した時点で、テラツバメのモフモフの胸毛に包まれていた即応科の管理官たち一行は、シートベルト兼クッション材になっていた胸毛から離され、上空数百メートルから自由落下した。
「ーーーー・・わあぁぁぁぁぁーー!......っ、うぅ....え、生きてますか?!私生きてますか?!」
「はい、大丈夫ですよー」
「.....っ...む」
一番最初に落ちて、シゲモチさんでクッション材を展開していた汐留は髪の毛が逆立って猫耳をたてている時雨を持ち上げ、回収し一拍した後、若干緑鱗で無い衝撃を吸収した玄道が落っこちてきた。
「あら、玄道さん。信用なりませんか?」
「....念にはなんとやら」
シンプルに高い所が苦手なだけだったのだが、汐留への信頼がないみたいになっていた。
「......っ、スゥ....で、状況は?」
最後に落ちてきた才亮は慣れた感じでシゲモチの上で受け身をとって、そのまま事案を初動認知した警察官の方へと向かった。
「木更津署の佐藤です!牧場から家畜の召喚獣が突然逃げ出して、今現在、無人貨物道路にて、ここ幕張へと北上してます。」
「生け取りの方針か」
対召喚獣武器で脳天を撃てばそれで済む話であるが、そうはせずに幕張中継地点で先回りしている辺り、待ち構えて捕獲するようだった。
「はい!原因究明のため、生け取りで行きます。」
「....妥当であるな」
水を飲んで落ち着いた玄道は、日本国の輸出産業の大きな柱の一つでもある家畜召喚獣の生産体制に、ヒビを入れる原因が顕在化しているため、天秤計算は正確だと理解した。
「作戦は?」
「....貨物道路の封鎖を上申してるのですが、国交省からの許可が滞ってまして...」
「時間は、持って数十分か...」
携帯画面に映る地図上で、加速しながら北上して来ている召喚獣の到着時間は24分であり、予測時刻はもっと早まりそうだった。
「...ここから責任は俺が取る....ん...ふっ...今から他の戦略へ舵を取るぞ」
「っ...了解しました!」
携帯から今一度、今回の召喚獣の風貌を一瞥し、髪型を整えながら汐留と話している時雨を見据え、才亮はニヤリと口角を上げた。
ーーーー京葉総合貨物運搬専用道路。
元来、ここは陸上での貨物運搬を担っていた貨物用召喚獣リクウビ(蛇型で全長数百メートルに及ぶ個体もいる、背中の逆鱗が線のように連なっている)専用の道路であり、貨物列車のような運用がされていた。
しかし、タービンとピストンの登場から、化石燃料を燃やしたエネルギーで稼働する自動紡績機などが登場する中で、大型貨物の運搬を担っていたリクウビは仕分け作業の短縮や、稼働時間の短さからそれらに置き換えられ、現在ではエネルギー導体を変化させ、道路から供給される電気で24時間365日稼働し続ける全自動貨物車専用の道路となっていた。
「よし..佐藤っ!分岐線をシャットアウトしろ!」
「はいっ!」
佐藤は才亮からの指示から猛進している召喚獣が通ったのを確認し、本線からの幕張中継地点まで分岐点を閉じた。
『...モォォヒヒィィィー!!!』
「...いやぁぁぁーっ!!」
どちらも前へ進むしかない中、完全に性欲に一途になっているウッシーは、赤いフェロモン液でビシャビシャになりながら踊り狂っている時雨に数メートルまで迫っていた。
そして、完璧なタイミングで才亮は合図を出した。
「....やれ、玄道。」
「了解.....ぬんっ!!!」
彼の合図を信じて、赤いフェロモン液でビシャビシャになりながら踊り狂っている時雨の前の地面に擬態し、緑鱗を全身に纏ったフルアーマー玄道は、ウッシーの重心に鱗の盾を据えて空へとぶちあげた。
『...ムヒィィっ?!』
フェロモンだくだくの番に後一歩で会えそうだったウッシーの視界は黄昏初めている空に切り替わった。
生まれてこの方、だだっ広い牧場でのんびり牧草食べたり、たまにミネラルたっぷりのおやつを食べて、だいたいその数日後に雌牛と交尾する平和な日常を過ごしていた、ウッシーは経験したことのないこの浮遊感に困惑していた。
『...む...ムォ...』
『.....自由になりたいか?』
ただ、それでも、突然牛舎に現れたあの人間から変な注射を打たれ、何十世代にもわたって押さえつけられてきた本能のままに、牧場の芝生よりも硬くとも真っ直ぐな道を思うのままに走った。
その爽快感は、いいものだったなぁ....
本来なら言葉にして考えられる筈のないウッシーは、走馬灯のように今日の自由を振り返り終えた、その時ウッシーのの位置エネルギーが頂点に達し、空中で静止した。
「.....捉えた。」
ーーーー.....シュンっ!
その針の穴を通すように瞬速の槍がウッシーの腹部に接着し、展開される糸に巻きつかれながら薄黄緑色のクッション材の元へと自由落下した。
そうして、ウッシーを捕獲した後、建設召喚獣と建設作業員による無人貨物道路の復旧整備が開始され、才亮と玄道は念の為、佐藤とともに牧場への事情聴取と調査の同行した。
また、汐留と武田だけになっている即応科棟へと戻る事となったのだが、主に一人だけが捕獲成功の代償を負い、そのせいで迎えに来たテラツバメさんは踵を返して帰ってしまった。
そのため、公共機関で立川まで帰らないといけなくなったため幕張駅へと行く道中、汐留が4回ほどシャワーを浴びた時雨の首元を匂っていた。
「....スンスン...全然変な匂いしますね」
汐留は顔色ひとつ変えずに、ありのまま嗅いで得た事実を伝えた。
「いやぁぁぁぁー!」
作戦成功後の現場収拾に手一杯だった作戦立案者である才亮は、時雨と汐留に帰還令を行って牧場へと向かってしまったため、彼女の悲痛の叫びは明日まで届く事はなかった。
「クゥさんも、そのせいで呼んでも出てきてくれませんしぃ!!モォォォー!」
「あら....少し、ウッシーさんが感染してますね。」
「いやぁぁーー!!」
(((...一体、なんの話をしてるんだ...)))
時刻は19時30分を回ったところで、時雨の取り乱し具合と汐留の会話内容から、周囲の人たちは変に興味を持っていた。
「まぁまぁ....お詫びかわかりませんが、私たちは明日全休ですし、才亮さんから焼肉優待券もらったので、美味しいお肉食べ行きましょ」
「っ....お肉...牛...やぁぁぁー!」
才亮から詫び品として貰い受けたアメは、時としてムチになるのであった。
玄道フルアーマーver
ドテツマグロ。
茨城沖でよくとれる鉄の強度を持つ鱗に覆われたマグロ。
進路上の対象がなんであれ貫通してでも通る。ただ、真っ直ぐにしか進めないため、放置罠の網で簡単に獲れる。ただ、群集化してると網ごと突破する
ウッシー(オス)
赤身が多く、筋肉質。しかし、家畜化されているため大人しい個体が殆ど。
ブランド化された家畜召喚獣であり、病気に強く餌もなんでも食べるため量産しやすく、古くから人々や召喚獣の腹を満たしていた。
ウッシー(メス)
体高はウッシーよりも大きく、尺度的には成人男性から見た八尺様くらいの高さ。
ただ、実際は首が上に少し伸びているためオスと体長はそこまで変わらないが、オスから見たら大きく見えている。
赤い液体について
雌牛のフェロモン、時雨をメス牛としてみて彼女のダンスを求愛行動だと思った雄牛は、バチばちに興奮して直進してきた。




