ー中編ー総合訓練棟。召喚獣操法科棟。
お昼前、朝食で得たカロリーが目減りする中、雲一つ無い青空のもと初春の穏やかな風が、芝生の上で小休憩する三人の管理官を温めていた。
「ーーー・・うぅーん、美味しいぃかもー」
「あぁ、操法科が加工を改良したらしい。うん、うまいな」
「へぇーそうなんですか、時雨さん。一口食べます?」
「はぃー!...って...誤魔化されませんよ!」
急に天気の話をし始めた才亮と汐留だったが、途中通った食堂横のアイス売り場で操法科発のアイスクリームで時雨を見事に宥めていた。
「....まぁ、どんな状況になっても、誰も死なせねぇから安心しろ。」
春風に薄い金色の髪を靡かせながら、コーンを齧っている才亮は時雨に伝う不安をマシにさせる事を呟いた。
「「......」」
それを聞いた彼女らは時雨のみならず、才亮との関わりがある汐留さえもキツネに摘まれたような顔をしていた。
「....ん、なんだよ」
「...いえ、今の言葉、信じます。」
「ふふっ....」
「?....とにかく、食ったら...C棟行くぞ」
ーーーー関東庁本部 C棟 訓練場Bブロック。
「ーーー・・ユビナシっ!峰打ち叩き込めっ!」
『チュイッ!!』
「俺はいい!避けろ!シノノメっ!!」
サッカーのハーフコート程のフィールド内において、いかつい顔をしたでっぶりしたビーバーよりのネズミっぽい召喚獣ユビナシが、懐から鋭利な刃物を出して峰の方で、相手の東雲色の額当てをつけた亀召喚獣の額当てを突き抜いた。
ーーーーズドンっ!!
『...ぐ..ガァ....』
主を守るためつかれた衝撃を額当てに一身に受けたシノノメは、ダメージの余波に耐えきれずその場で倒れた。
「....勝者。ユビナシっ!!」
主が気絶したシノノメに回復薬が流し込まれ、少し欠けた額当てが再生していくのを見て、一安心していた時雨は目の前で行われた召喚獣バトルに舌を巻いていた。
「うわー...これは、賭けたくなりますね。」
「あら、悪い子ですね。その辺りに行ったことがあるのですか?」
通常の召喚獣免許証とは別に、召喚獣バトルプロライセンスを取得した者たちによる召喚獣バトルは公営ギャンブルとして運営されているが、汐留が言っているのは公営よりもより高レート帯で行われる地下での召喚獣バトルのギャンブルの方であった。
が、時雨にとってそういうのは生理的な関係で遠いようだった。
「..なっ、ないですよ!21時には眠くなっちゃうので、行きたくとも行けないですし!」
「...ふふっ...偉いですねー、ヨシヨシしましょう」
もう一人の方とは違って諸々可愛い後輩と言うのもあり、どうしても時雨を愛でてしまいたくなっていた。
「あっ..ちょ...えへへ...」
「?....見ての通り、ここは、各々の召喚獣の能力を実践を通して訓練する場だ。」
ない尻尾をフリフリさせながら満更でもない感じで、頭を撫でられている時雨を訝しげに一瞥しながら、才亮は一応の説明を挟んだ。
「おっと....あー大体は、よそのバトル場と同じ感じですかね」
彼女にとっては、学校で通常修了必須の10歳からの高校卒業までの召喚獣操法カリキュラムだけでなく、実践的に自衛する力を養うための管理官管轄下のバトル場との比較の方がしっくりきていた。
「あぁ、てか...時雨はバトル場は行くのか?」
時雨の召喚獣は"深淵"と勝手に呼んでいる黒い粒か円を通して、移動したり、姿を消して意識外から当人がぶん殴るスタイルである。
それを踏まえ、時雨の場合、フィールドに人が立つ条件の召喚獣バトルにおいても、基本は召喚獣同士の戦いになるなかで、スタイル的に決着がどのようにつくイメージが明確でなかった。
「あー、一回だけですが...その時は時間切れまでクゥさんが深淵に入っちゃって、試合になりませんでした....あんま戦いたく無いもんねークゥさん。」
『...ンナァー』
さっきのバトルにも一切興味を示さず、クゥさんは汐留と時雨の膝に陣取りながら、欠伸ついでに
返事した。
「.....バトル場以外は、外のグラウンドで訓練か、後は水泳施設で対海洋召喚獣への訓練くらいだな。」
この棟では管理官の研修を受けた彼女であれば大体知っているような機能ばかりであったため、才亮は立ち上がって次の棟へ移動しながらサラッと紹介したが、時雨は最後に早口で捲し立てられたその単語を聞き逃さなかった。
「....ん、海洋系は海上保安庁の領域じゃ....」
「「.....」」
「ん、いや、即応科は陸だけですよね?え、そうですよね!」
時雨の必死の詰問とバトル場の熱気を背に、汐留と才亮は髪を靡かせて次の召喚獣一時管理棟へと向かったが、他の棟とはガラッと雰囲気が変わった建物で、警備の数も他の数倍はいてピリピリした空気が漂っていた。
「・・ここが召喚獣管理科棟だ。捕獲した召喚獣を移送する前に一旦管理保管する場所だ。ここも、許可がねぇと入れないな。多分、リョウシネズミもここにいる、はず。」
「え、なんでその辺ふんわりしてるんですか?」
時雨からしたら基本質問したら何でも答えてくれる才亮だったが、最近の事でかつがっつり捕獲に関わっていた彼が捕まえた召喚獣の所在を知らないと言うのは引っかかった。
「...どこに何の召喚獣がいるかを管理してるのもこの科の機能ですからね、そういう漏洩したらまずい情報はクラウドにも保存されずにアナログに管理してるとか、してないとか」
「あー、なるほど...」
汐留がそう補足すると、データベースのローカル化でアナログな認証方法を介してのみアクセスできるというシステムは、効率性を抜きにすれば情報の保全に合理的だと納得していた。
「....ちなみに、才亮さんが最近で一番やばい召喚獣はどんなのですか?」
一時管理棟のピリついた空気から離れた所で、時雨は一度聞いてみたかった事を彼に投げかけた。
「そうだな....目を合わせた、あるいは存在を認知した時点で洗脳してくるやつだな。まぁ、タケが目を瞑って対処したから何とかなったが..」
「....えぇ...やばすぎますよ...それ....」
「その時は、私と玄道さんが居ませんでしたから、絡め手も使えかったそうで...」
攻撃や捕獲をするしようとする気配というのは召喚獣からしたら、かなり感知されやすいものであるが、もってスライムにおいてはあらゆる動きに予備動作と付随する雑念がなく、かつシゲモチさんに関しては操作系、洗脳系への耐性も備わっているためまさにそういった事態に適していた。
「あぁ...まぁ、次は大丈夫だろうな。」
顔だけ半分こちらに向けて話ていた才亮は、進行方向へとフイっと顔を向き直して、ぼそっとそう呟いた。
そして、彼ら一行は召喚獣操法科へ到着した。
「ーーーー・・にゃお....」
「「「にゃーぉ、にゃにゃ」」」
ここは時雨が元々希望していた科であり、説明しなくとも大体全部知っているだろうと、科棟の場所を確認する程度に収めたかったが、ちょうどその時、操法科の管理官が多種多様の色をした子猫たちと戯れながら、飼育室に行進しているのを目撃したのが不味かった。
「あぁぁー!!!やっぱこっちにします!やっぱこっちにしますぅぅぅぅーー!」
「おい....おま....朝サインしたばっかだろ、流石に今更覆せねぇって」
「はいはい...いい子ですから、いきましょうねー」
時雨は目を真っ赤にさせて血の涙を流し、シゲモチにがんじがらめにされながら、召喚獣総合装備整備科へと強制的に連れられた。
「...シマエネコに、シシネコ、ジャバラネコ...ウミハラネコ、コラネコ、サツキネコ.....うぅ....」
「お前、あの一瞬で全部わかったのか」
「ほら、猫さんならここにもいますから」
『....んなぁ?』
すっかり心を許した汐留に抱えられながら、クゥさんの肉球を時雨の肩にツンツンした。
「....うぅ...ありがとうございます。やっぱり、クゥさんしか勝ちませんよ」
『.....(^ΦωΦ^)』
「ははっ....シゲモチさんもですね。」
気を持ち直した彼女に、シゲモチさんも耳を生やして形を猫に寄せて頬ずりし、彼女のHPは6割くらい回復した。




