召喚獣管理省 関東庁本部ツアー 前半
初っ端新人に無理をさせてたリョウシネズミ事案から数日経った頃、即応科の門戸を叩いたのは、件の彼女だった。
「ーーー・・えー..改めまして、時雨 千智です。不束者ですが、これからよろしくお願い致します。」
「よろしくー、やっと女の子が来ましたよー」
「....うむ」
お見舞いに来ていた黒髪ロング長身女は時雨の意志を聞いていたのと、大男はあれだけの適性がある中で来ないのはないとわかっていたのか、そこまで予想外なことではなかった。
「.....」
ただ、健気に希望の科のメールを待っていた金髪ホストは普通に驚いており、温かいお茶を飲みかけたまま止まっていた。
「ふふ、予想外でしたか?才亮さん」
「あー....まぁ、五分だとは思ってた。」
黒髪ロングに気付かされた金髪ホストこと才亮は飲みかけたお茶を飲み始めた。
「俺は玄道 尽頼。召喚獣はウロコノムシ。半寄生型だ。よろしく頼む。」
窓枠に窓を取り付け終えた大男は手を拭いて、自身の両腕に装着された緑色の小手を指差しながら軽く紹介して握手を求めた。
「あ、はい!よろしくお願いします!」
ファーストインプレッションは鱗盾の縁で頭をペシャンコにしようとしてきたのを鮮明に覚えているが、今は彼のおっきな手の温かさから、無骨な優しさを感じた。
「ふふっ、改めてになるけど、私は汐留 美玲。召喚獣はバンヨースライムのシゲモチさん。回復、防御、打撃、一通りできるから、困ったらおねぇさんに任せてね」
「は、はい!お願いします!汐留さん。ははっ、シゲモチさんもよろしくお願いします」
センター分け黒髪ロング長身女こと汐留はサングラスをおでこにかけて、グットサインしながら自己紹介し、また新人が可愛いのか、前回要所で頼られて少し仲良くなっているシゲモチがほっぺをツンツンして、受付にあったスライムぬいぐるみのようなグッドサインを作っていた。
「....あー、そういえば俺もしてなかったか....俺は即応科科長の才亮 勝馬。召喚獣はイッタンモンメン。糸で捕獲、貫通、情報収集、諸々できるが、基本は対召喚獣装備で打開していくスタイルだ。」
ちゃんとした自己紹介がまだだった金髪ホストこと才亮は、袖から妖怪アニメなどでよく見る縮小したイッタンモンメンが出てきて、彼女に手を振っていた。また、才亮は一方の袖に仕込んでいた携帯型の槍を手品のように取り出し、展開して大体のスタイルを話した。
「!....ほへぇー...これが対召喚獣装備。」
「持ってみるか?」
「...はい!」
研修で捕縛用のは触ったことはあるが、シンプルな戦闘が肌に合っている彼女は早々に別カリキュラムに飛ばされ、彼が持っている殺傷用のものは見たことがなかった。
「っと...」
槍の持ち手は彼用に調整されていると思ったが、センサーが内蔵されているためか持つ人によって持ち手の円周が調整された。
「....結構、重いですね。」
「あぁ、これは特注だからな...正規品はもっと重心も扱いやすいように設計されてる。」
「...っと、返します。得物系は良い思い出ないので...」
「そ、そうか...」
逃げ足には自信があったり、親父に安否連絡をした際も開口一番に『鍛錬が足らん。』と言われていたりなど、初っ端あれだけの動きが出来る証左はちょくちょく滲み出ており、才亮は目を細めた。
「....ところで、武田さんには会いましたか?」
「?....いえ、会ってないです。即応科の人ですか?」
一瞬、受付に置かれているスライム人形の事かと思ったが、そのイメージをかき消した。
「あぁ、一階にいるから....会ってみるか?」
「え、まぁ...一応挨拶くらいは...」
若干、目を逸らしながら才亮がそう言ったのを不思議に思いながら、同じ科の同僚のため挨拶は早めに済ますかと才亮の後をついていった。
(...どんな人なのかな、渋い感じの匂いがするけど...)
武田という名前から、勝手に勇ましい感じの昭和俳優の男前な風貌を想像していた。
しかし、まるっきり期待していたのとは異なっていた。
「....ぐがぁぁ....スゥ....ぐがぁぁぁ...スゥ...ぐがぁぁぁ...スゥゥ....」
「えぇ.....」
「こいつは武田 武蔵。召喚獣は...まぁ、滅多に使わねぇし暇な時に当人に聞いてくれ。戦闘スタイルは刀と弓で万力ゴリ押し制圧するスタイルだ。」
いつも通りの光景に特に何も思ってない才亮と汐留は淡々と、道場の角隅で怪獣みたいな寝方をしている、のばっしぱなしの髭と長い髪で顔が隠れて目隠しになっている男の紹介をした。
「ん、それならリョウシネズミの時、武田さん?に囮役してもらえばよかったのでは....」
「あー....武田さんは、その....戦い甲斐がある召喚獣にしか興味ないですから....」
聞いている限りでは素早さもかなりのものであると言えたため、もっともなことを聞いたが、汐留は芳しくない様子で気分で出動に応じるかを判断している男であるとマイルドにそう補足した。
「えぇ....なんですか、それ....」
即応科自体、必然的に現場責任者の裁量が大きい一方で、その棟が関東庁本部敷地内の端っこの隅に追いやられている点からも、情報が少ない中で鉄砲玉として最前線で出張らないといけないという責務から、血税で賄われている中でメンバー内でも自由な特権を持っているとはいえ、それが許されるのはいかがなものかと思った。
「一応、あの時も出動ブザーで起きたには起きたでしょうが...」
「あらかた、ネズミなんざで出張らん。って具合でふて寝しただろうな。」
「「うんうん」」
才亮の物真似のクオリティが高いのもあって、武田の心情は実際と近似しているようで汐留と玄道は揃って首肯していた。
「えぇ...そんなの許されるんですか」
「あぁ、大体の事案は警察が処理するが、前回の特異なケースと、管理官からの協力が必要と判断された場合は即応科が出動するが、その時全員行くわけにはいかない。その時、武田がいると都合が良い。」
「あー、そういえばそんなの聞きましたね。消防士みたいですよね」
学期テスト限定の記憶領域の底で、消防士とほぼ同じ勤務体制で一勤一休が採用されているというのを研修中の講義でさらっとそんなのをやったのをぼんやり思い出していた。
「.....そこまで規則的じゃぁないな、一週間警察で対応できるなら、即応科棟か関東庁の敷地内で待機してるだけで終わる週もあれば、2、3週間昼夜問わず毎日出動というのもある。」
道場上の畳に呼吸をさせるために、才亮は窓を開けながらそう補足した。
「確か、強目の召喚獣が続いた時は、この人ほとんど寝ずに最高12連勤とかしてましたから、」
「色々、無茶苦茶ですね....」
誰かがやらなくてはならない仕事とは言え、過酷な勤務体制とそれをこなせてしまう超人がいるのも含め、即応科はネジがぶっ飛んでいた。
「あー、あん時は事務方のお局に怒られたなぁ....手当どんだけ払えばええねんって具合で」
即応という特性上現場の者の権限が強く、関東庁長官ですら現場介入する権限は持っていない。それゆえ、無茶な方策や作戦が通ってしまうものであるが、一応公務員という立場上、手当が加算され続けるのは民意が納得しているにしてもやり過ぎはよろしゅうなく、特例手当として処理をするための書類整理と作業量は総合事務部は悲鳴を上げていた。
ーーーードバッ!!
「ぐがっ.....っ!出動か?」
「いや、違う。」
「そか....スゥ....ぐがぁぁ...スゥゥ...」
何に気付かされたのか、わけわからんタイミングで起きた武田はちょうど良いところにいた才亮にそう聞くが、そうではないとわかった途端、すぐに眠りについてしまった。
(あーこういう行ききったマイペースな人が即応科に向いてるんだなぁ....)
と納得してると、才亮は新人へまず初めにする必要のある事を思い出した。
「あ、そういや関東庁内は案内してなかったな、玄道。タケ見張っといてくれ」
「了解。」
「え、離れて大丈夫なんですか?」
「ん、あぁ...庁内ならがプラプトルが迎えにくるから、問題ない。」
リョウシネズミの時も陸路移動用召喚獣・プラプトルが即応科棟に迎えに来ており、てっきり即応科棟に向かうように訓練されているかと思えば、才亮が手に持っている携帯ストラップの中に入っている枯れ木みたいなのが、プラプトルのトリガーの匂いとなっているらしかった。
「原則は即応科棟内にいないとですけど、形骸化してますし」
一応は原則、即応科棟に待機している必要らしいが即応科棟に絶対いないといけないそうではないらしい。
「ほへぇー...」
「初めに行くのは...研究棟は俺らも入れないから、それ以外からになるな....本棟は行ったことあるか?」
時雨は現場でしかわからない実情を聞いて面白いなーと思っていると、才亮は実は初めてな新人への案内を進めようとした。
「はい、一応。受付ロビーくらいでしたが...」
「あそこは....俺が厳重注意される時くらいだから、飛ばすとして....」
場所も関東庁の正門を通って目の前にあるというのと、大体は科長である才亮が一身に責任とか始末とかをつけに行く所であったため、副科長の玄道でも滅多に行くことのない場所だった。
そして、何より、即応科棟から遠いため庁内を縦断してまで行くのが面倒だった。
「えぇ....」
「とりあえず、B棟から回ってくか...」
そうして、才亮についていくと、母校の大学図書館よりも立派というか、建築菌糸とは別外の頑丈めの素材で作られている資料館へと、あらかじめ登録されている顔認証システムで入った。
「.....わぁー...これは....」
中に入ると、壁面だけでなく天井にまで本が敷き詰められており、一人用のゴンドラに付随されているアナログボタンにコードを打ち込むと目当ての本まで連れて行ってくれるような仕組みで、白衣を着た人や移動用の召喚獣を管理している繋ぎを着た人など、関東庁の敷地内で働く管理官の人らが調べ物に耽っていた。
「一応、ここは管理官であればいつでも使えるので、待機中、暇な時はここにくると良いですよ。」
「んっ...は、はい...」
小声で耳元で囁いてくるの汐留のフェロモンが鼻腔に通じ、色気のある低い掠れ声もあってか、時雨は若干変な気分になりかけていた。
「ここでは、管理官に使用が限定されてる故、召喚獣の歴史、生態、特性、権能など、召喚獣に関する知識体系は最新研究まで追える。」
一方で、才亮は簡潔にここの施設について説明していた。
「ん、管理官だけってことは貸し出しはやってないんですか?」
「あぁ、電子機器もこの中じゃ物理的に使えない。」
この資料館で得られる情報は、西側諸国が喉から血眼のマリア様が手を伸ばす程欲する代物であり、小中高大での成績と蓄積された個人情報、管理官選抜試験、合格後の研修期間と幾重にも検証された結果、確白を日本国から保証された者しか関東庁本部に配属されないのであった。
「その...神格関連も読めるんですか?」
先から小声で話していたが、さらに小声で汐留に寄って宮内庁案件のそれについて聞いた。
「!....私もちょっと...それは...」
「....権限パスのランクと後は司書からの許可次第だな。」
汐留は正確に答えられないと思い才亮に目配せすると、地獄耳の彼には全部聞こえていたようで、一考した上でこの資料館内の人であればおおよそ知っている答えられる範囲での事を話した。
「...ん、即応科って....いや、流石に、それには関わりませんよね?
神格召喚獣に関連する情報は宮内庁が管理、保全した上適宜運用しており、宮内庁が創設された建国当初から介在する召喚獣管理省は、今現在はその辺りの事案については一切関わらないというのが通常のスタンスであった。
「...ん?んんー??」
そう、その筈だが、心臓を後ろから逆撫でされるかのような感覚を覚えた時雨は金髪と黒髪ロングの先輩方に小声で詰め寄った。
「「......」」
聞こえているはずの金髪野郎と黒髪ロングデカ女は...スンとした澄ました表情で先へ急いだ。




