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本間 月葉 10歳。

生まれた時から、私の周りはムカつくことばかりだった。


『....我々は守られている。それに報いるため...』

『....強大な召喚獣から民を守るために...』

『...数百年と続く、寺院の存続のため』


くだらない説法に、教えやらなやら、どれも自分たちにとって都合の良いものばかり並べて、それを信じた人たちが寺にお布施をする。


それがたまらなく気に入らなかった。


物心つくまでは、それらに強制的に付き合わされていたけど、そのアコギな商売を辞めさせる方法があったわけでもなく、そのイラつきを発散するのには私が生まれた寺は小さすぎた。


あぐら座りしている仏様のあぐらの中でお昼寝したり、高いらしい壺を的にして石を投げたり、葬式中に付人のシゲシゲの召喚獣にのって、縦横無尽に駆け回ったりして好き放題、ひろくとも狭い寺を掻き回していた。


そして、学校へ通える年になった時に、その代償を支払う事となった。


『ーー・・お前は、寺内のホームスクールで学べ。』


寺は隠し事が多い事は知っていた。


けど、付人シゲシゲの子供は普通に小学校に通えていたから、自分も学校に通わせてくれると思っていた。

後から付人のシゲシゲを問い詰めると、召喚獣を扱える小学4年生以上の生徒たちとも同じ所にいる中で、これまでの諸行を起こすような人は保護者の判断でホームスクールに変更できるという事であった。


『ーー・・蒔いた種は自分に返ってくる。』


耳にタコができるくらい聞いた教義の一文が、自分に降りかかった。何かが壊れる音がして、この寺ごと焼き尽くしてやりたかった。


が、その辺を見かねたシゲシゲは普通に外面だけでも良くすれば、召喚式あたりで学校に通えるかもしれないよ。と彼女に言い何とか踏み止まった。


その日から、私は心を入れ替えたふりをして、朝から寺内の掃除や、意味があるかわからない修行をこなした。

勉強はシゲシゲが付きっきりで教えてくれ、ついでに体育や美術、工作なども行ってくれた。


また、生まれてからずっと共に生きてきたシゲシゲの狼型の召喚獣シバンスキーに協力してもらい、召喚獣に関する操法、関係構築方法、知識体系も学んだ。


毎日新しい知識や経験を積めて、契約していなくともシバンスキーや寺内の従業員のいろんな召喚獣とも仲良くなり、心身ともに充実していた日々を送っていた。


けれど、たまに外に出かけるときに、普通の学校に通って、友達と楽しそうに話しながら下校している子を見ると、どうしても心が空いた。


反抗して、親父の意向を覆したい気持ちは大いにあったが、グッと抑えて心身の研鑽に注力した。


そして、10歳になった私は召喚式の日を迎えた。


やっとのこと、この寺から一時でも離れて学校に通えると思い、何やら諸々の説明を受けて、よく聞かずに首肯し続け、召喚印が刻まれた左手首の裏をさすりながら、寺の敷地内での召喚式へ向かった。


召喚獣管理官と警察官数人が待機しており、物々しい空気が流れている中、管理官の人に促され、召喚陣のマットが敷かれた所の前に立つ。


寝る前も、起きた後も徹底的にシュミレーションしたように、静かに目を閉じて左手首に刻まれた二つの葉っぱを添え、満天の花々が咲く召喚印に召喚の念を込める。


『ーーーーー・・.....ッー』


意識が肉体から解脱し空へと向かった先には、雲の上で綺麗な青白いお花を後頭部に蓄え、青白く光る鹿のような角が2本生やした、夜空の色をした龍が優雅に月光浴をしていた。


『.....ぁ』


その光景を前にして、抗えず感嘆の息を吐く。


『?....ッ.....』


こちらに気づいた夜空の龍はゆったり体をしならせながら、こちらに向かってきた。


『...あっ...っ......』


一瞬逃げようとしたが、ゆっくりと龍が近づくにつれてその必要はないと何故か理解した。


『......クゥ』


鼻先まで近づいてきた夜空の龍は、目を瞑って第三の目の位置に光を放つ自らの額を差し出してきた。


『....っ』


それに呼応して、考える余地などなく初めからそうなる事が決まっていたかのように、私は龍の額に自らの額で優しく添えた。

毛細血管一本一本が融和するように、全身が龍と神経接続したような感覚に身を委ねた。



「ーーーー・・...っ?!」


意識はこの世界へと戻り、優しいお花の匂いが残る中、目を開けると先まで目の前にいた夜空の龍が召喚された。


「...あ、あなたが...」


もう一度近づいて、手で触れて、本当に私の召喚獣なのか確認しようと近づくと、汚い大人たちの声でかき消される。


「おぉっーーー!!」

「念願の...ですな」

「よしよしよしっ!!...これで、ワシの寺は一生安泰じゃぁ」


「...っ??」


大人たちの不快な歓声を浴びた彼女は困惑した。


(え、何...これ、私....これから...)


ただ一つ分かったのは、また同じように確証のない褒美を吊るされて、一生カス坊主どもに隷属する未来しか見えなかった事であった。


『....ッ』


「....っ!」


初めからただ一点に自分を見つめていた龍と目が合い、その方向へと駆け出した。


「....ぁ...ちょっと!」


彼女に気づいた管理官は彼女を呼び止めるが、彼女はすでに龍の首後ろに乗っていた。


「...行こう!」


『....ッ!!』


彼女の掛け声に龍はこくりと頷き、彼らは空へと昇った。


龍の角にしがみ上昇加速が落ち着いたところで、下を見ると私を閉じ込めていた寺はミジンコみたいに小さくなっており、街が一望できる高さまできた。


「っ....もっともっとーっ!!」

『....!』


ずっと感じ背負い続けていた閉塞感と、勝手に課せられた重荷は上昇風と共に霧散し、彼女はどこまでも行けるだろうと龍に促し、龍は仕方ないなぁと言った様子で雲を突っ切った。


「わぁ...っ...」


初めて経験した雲の水滴でびしょびしょになりながら目を開けると、そこには一面太陽の光に照らされた雲の海が広がっていた。


「...っ!りゅ...」


私を連れ出してくれた感謝の前に、まだ名前が決まっていなかったのを思い出した。


「うん。ツキヨノ!!私は本間 月葉。よろしくね!」


『...クゥー!』


一考する間もなく、ずっと前から知っていたかのようにその名を呼ぶと、ツキヨノは角や花々を煌めかせて喜んでいた。




そこから、飛べるだけ空泳し、月が昇る頃には、龍の背中で夜を明けた。

夜の空は寒いはずなのだが、ツキヨノのお花がお布団代わりになって、その寒さを忘れるほど熟睡できた。


そのあとは、結構腹持ちの良いツキヨノのお花を食べたり、ツキヨノ自身は月光浴をして、栄養を補完している様だった。けど、YES・NOで答えられる質問をいくつか聞いていると、出来れば月光浴以外でも栄養を補給する必要があるらしい。


やはり流石に、ずっと飛んでいるためか、流石に互いにお腹が空いてきてしまい、雲に隠れなが

ら、近くの山で休憩することにした。


その道中、ソースの美味しい匂いと召喚獣用のお肉が焼ける匂いに連れられて、空腹と疲労に富んだ私たちはその方向に導かれた。


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