タンカクウサギ
「ーーー・・なぁ...やめようぜ...」
「お前にも分け前やるから安心しろよ」
「いや、そういうのじゃなくてな....」
「かはぁ...ふぅ、さっさと終わらそうぜ」
時刻は夜中の12時を過ぎており、声変わりが終わりたての高校生たちが地下の隠し通路を通ってどこかへ向かっていた。
「てか、どうやってこんな道....」
「ほんとな、普通すぐ塞がれそうだけどな。」
前髪長めのすらっとした彼こと向井 仁は、本来なら隙間が無い配管横に大人二人程通れる空間ができていることを疑問に思っており、ほぼ無理矢理連れてこられた黒縁メガネの坊主こと前田 俊介はそれ同調した。
「あー、親父がこの配管点検してる時に、出来た通路でな。今週中には塞がれる」
すると、発端人のガッチリ目の体をした彼こと郷田泰示がそれに答えた。
「配管工だっけか、にしてもこの配管まじでスライム出てきてるんだな..」
大体の経緯は分かったものの、本来なら配管工と技術者しか立ち入れない空間にて、大蛇のようにどこまでも続いている配管はわずかな光を発しているスライムで出来ており、少し触ると押し返してきた。
「おい!あんま触るなよ、外敵だと思われたらそのまま飲み込んで消化するらしいからな...」
「「?!」」
郷田が焦ったようにそういうと、他二人の顔は血の気を引いていた。
「お前、そういうのはもっと早く言えよ。」
「危ねぇ、俺たちまで経験値にされるとこだった....」
向井がそういうと前田はミイラ取りがミイラになる所だったと肝を冷やしていた。
「...お、着いたぞ。」
工事の関係で特設で作られた地上へと続くはしごの前についた郷田らは、順々にハシゴを登って地上のパネルに暗証番号を押して開け、地上へと出た。
「....おぉ」
「ん....おー」
「....ぁ」
地上に最初についた郷田は夜空を見上げており、次に上がってきた向井は彼が見ている先を見て、同じく感嘆を吐いていた。
夜空には真っ白な満月が浮かび、その月下には夜行性の召喚獣たちが活発に木々を伝い、フクロウ
型召喚獣が夜空を群れで闊歩していた。
彼らがリスクを冒してまで来たこの場所の名はーーー
ーーー西八王子第一レベルアップ場である。
「....っし、4体目!」
『ジュウっ!』
郷田は召喚した力士っぽい見た目をした三頭身程の体長一メートル程の熊型召喚獣ジュウリョウと、ウサギ型やカエル型などをテンポよく狩っていた。
「そこだ!よしっ...ナイス」
『...ブロゥ!』
前髪長めのすらっとした向井はパンクチックのブルドックの見た目をした召喚獣ブルブロウと共に、池の中で待ち伏せしていた亀型召喚獣を噛み砕いていた。
「.....」
「どうした、お前はやらねぇのか?」
「なんか....昼間とは違くないか?」
坊主メガネのインテリだかスポーツマンだかわからない見た目をしている前田は、右肩に二頭身ほどの索敵特化のコウモリ型召喚獣を乗せながら、初めから乗り気じゃなかったのを抜きにして、これまでのレベルアップ用の放逐されている召喚獣たちの挙動に違和感を感じていた。
「ん、それは夜行性のやつが...」
「いや、郷田が倒したそのウサギ型は、昼間も活動してた。」
「.....」
向井は学校のカリキュラムで初めに出てくる実践訓練用でも起用されているウサギ型が、このレベルアップ場で初めに戦った相手であったため色濃く覚えており、前田の違和感が伝染した。
「おいっなんだよ....せっかく上がってきた所なのによぉ」
『ジュジュウ!!』
さらに飛びかかってきたウサギ型召喚獣通称タンカクウサギを数体地面に叩き潰した、力士っぽい見た目をした熊型召喚獣ジュウリョウと郷田は共に彼らの会話に不満げだった。
「てか、お前のコウモリ型も夜行性のくせして、眠ってんじゃねぇか」
郷田は夜行性のはずの前田の肩に乗って彼の首元を枕にして穏やかな表情で寝ていたコウモリ型召喚獣エコーバットの方を指差した。
「....エコは暇だから寝てるだけだ。いつもはこの時間は寝てない。」
「おまっ....そんなんで索敵役務まるんかぁ?!」
「あぁ、ただエコのセンサーは独特でな....ん?この辺わかってて連れてきたんだろ?」
「おい!向井!話しがちゲェじゃねぇか!」
「まぁまぁ...人間探知には効くんだろ?」
前田を初めに誘ってきた向井の方に矛先が行くが、向井は今回の場合はレベルアップ場の警備員にさえ見つからなければよかったため、再度誘った時に確認したことを前田に聞いた。
「あぁ、人間は基本的には誤魔化しきかないからな。問題ない。」
スライム持ちや特異な寄生型、または完全に音も気配も熱も消し去るような装備は支給されていない限りは、召喚獣よりも融通が効かない人間の索敵は寝てても可能だった。
「けっ...」
「それより、郷田。ジュウリョウがウサギ型を倒した時、なんか...変な所なかったか?」
「お前もかよ?ビビってんのか?」
「いいから」
「んーそうだな......あっ、ボーナスステージ発見!」
彼も何回も倒している中で、夜のウサギ型の違和感について思い当たる節を思案していたが、その途中でとあるものに目移りした。
「あ?」
「.....!」
向井や前田が彼が向かった方へ行くと、そこには木の根っこあたりに出来たほら穴で、その中にはウサギの子供たちがスヤスヤと寝ていた。
「お前..まじかよ...」
「....そんなのしたら、これから一生安眠できなくなる。いいのか?」
たまたま今学期同じクラスになっただけの前田はドン引きしており、そこそこ付き合いの長い向井は郷田に整然と諭した。
「っ...ウルセェ、ここでやんなきゃリスクに見合わねぇだろ!」
「おいっ!よせっ!!」
向井は召喚獣と郷田を止めようと間に入るが、彼も彼の召喚獣も聞く耳を持たなかった。
「...ジュウリョウっ!ブッ潰っ....っ?!」
『ジュウぅ!....カッ..ゥ』
ジュウリョウが振り下ろそうとしたその時、月の光に照らされた別個体のウサギ型召喚獣タンカクウサギが音もなくジュウリョウの脇腹にめりこんだ。
「ジュウっ...」
ジュウリョウに駆け寄ろうとした郷田だったが、そんな間も無く、タンカクウサギは地面を蹴り上げて開き切ったジュウリョウのみぞおちに、去勢されたオスのように品種改良された短く殺傷性のない先端を折られたツノでガン突した。
『グァっ...ッ....ゥ...』
弱点のみぞおちにモロに一発貰ったジュウリョウはカウントを待たずにその場に倒れた。
「お、おいっ!...立て!ジュウリョウ!」
『ッ....ゥ...ス....ゥ』
倒れたところを初めてみた郷田はジュウリョウに駆け寄ったが、息はあるものの完全に意識を失っていた。
そんな中、前田は先の違和感の元凶の方を向いていた。
「...なんか、あいつ....違くね..」
昼で見たタンカクウサギはぼちぼち向かってくる程度のアクティブさであったが、枯れ木の上で月の光を浴びながら、こちらを見下ろしているそれは、これまでのタンカクウサギと同個体であれども確かに月の光を纏っていた。
「おい!話しがちゲェじゃねぇか!索敵はお前に任せただろ!!」
気絶しているジュウリョウを担ごうとしながら、前田のエコの索敵に引っ掛からなかったことを責めていた。
「やば....俺、抜けるわ....っ!」
遅れてコウモリがビビっているのを肌に感じた前田は、そんな彼の追求を無視してその場から逃げた。
「ちょ、おいっ!!」
「....スゥ....こいつら倒してから、ジュウリョウを担いで逃げるぞ。」
残った向井は、ワークマァン製の頑丈なジャケットを脱いでブルブロウと共に戦闘態勢になった。
電子機器を持ち込むとすぐに侵入したのがバレるため助けを呼ぶにも呼べないのを承知の上、向井は次々と同個体が集まっているのを前にして、使うとは思わなかった鉄を仕込ませた木刀を抜き郷田にも渡した。
「っ....あ、あぁ!!」
ちっちゃいマンモスくらいの体重のジュウリョウを運ぶには全員が動ける状態で生き残る必要があるため、動転していた郷田は気を持ち直して木刀を金属バットの要領で持ち替えた。
「....っシ!!」
『...ゥキィ?!』
枯れ木の下で待機していたウサギがファーストペンギンで彼に突進するが、向井は手前で木刀を振り下ろして地面に叩きつけた。
『『『キキィー!!』』』
「....ツゥ...ハァ!!」
『ブロウッ!!ブルゥ...』
今度は側の茂みから1体、真正面から2体彼らに突進してきたが、ブルブロウが正面の二匹を食い殺し、茂みの一体は向井に頭をかち割られ体を震わせながら命尽きていた。
少し強くなっているとはいえ、ウサギ型召喚獣タンカクウサギ(バフ増し?)は召喚獣帯同免許証を取った初心者が簡単に倒せるレベルの召喚獣であったため、初めは人間の彼らとブルブロウでもなんとかジュウリョウを守りながら牽制できていた。
しかし、徹底抗戦を決心した時点で、彼らは枯れ木の上で佇むタンカクウサギの術中にハマっていた。
地下のほら穴などから次々と彼らを囲うタンカクウサギが集まってきており、倒したウサギ以上のウサギたちが増えてきていた。
「はぁ...はぁ...何体目だ...」
「スゥ...はぁ....さっきよりも増えてる...な」
『ブロゥ....ブ...ゥ....』
時刻は3時を過ぎ、すでに1時間以上戦いっぱなしの彼らは立っているだけでやっとの状態だった。
そして、そんなのは彼らには関係がなかった。
『...キイ!!』
「ブッ....か"はぁ!?」
地中に穴を掘り進めていたタンカクウサギが地中から向井の右脇腹に突進し、彼はその場に倒れた。
『...クキィ!』
「向井っ!...っぅ?!」
向井のフォローへ行こうとした郷田であったが、近くの木の上でずっと待機していたタンカクウサギは枯れ木の上の長ウサギから合図を受けて、彼の背中に突進しようとした。
「...オラァ!!....っぅ..」
が寸前で、気合いで立ち上がった向井が郷田に向かってきたウサギを叩き潰したが、そこで力尽きてしまった。
「向井っ!」
「...悪い、お前だけでも....逃げろ...」
「っ....」
血反吐を吐きながら郷田だけでも逃がそうとする向井を前にして、郷田は彼との記憶がフラッシュバックする。
『....また、やらかしたのかよ。しゃーねぇな』
『強くなる方法?....うーん、どうだろうな』
『レベルアップ場か、いいね。行こう』
『管理官か警察、自衛隊か....お前が行かない方に行くかな』
何度バカなことをやっても、向井は俺の嫌な部分を全部知っても、それでも俺を見捨てないでくれた。
そんな友をここで見捨てて、生き残るくらいなら....
「置いてけるかよ...」
持っていた木刀を握り直し、ジュウリョウと向井を背にタンカクウサギ達の群れの前に立つ。
「っ!....すまない...」
自然に慈悲などはなく、月光を纏っている群れの長であるタンカクウサギを中心にバフを受けた10体以上のタンカクウサギが一斉に彼らに飛びかかった。
(多分死ぬのだろう、格下だと思っていた初級のタンカクウサギに食い殺されるなんて思ってなかった。)
スローモーションでコマ送りのようにタンカクウサギらが視界を埋め尽くす。
(弱点のみぞおちさえ抜かれなければ、肉弾戦において負けた事がなかったが、その驕りがこいつをこんな死に目にさせてしまった。)
(次があるのなら、また....お前らと....)
3人の友を背に、最後にウサギ共に一発喰らわせようとしたその時、視界に埋め尽くされたウサギらは空中で静止した。
「.....え」
頬を伝う風からも、目の前の光景はスローモーションではなく、時間が止まったわけでもなかった。
ーーーーーー....ったく、砂利ボーイ共。お前らを捕まえに来たわけじゃぁねぇんだが....
低い割にはよく通るその声の方を向くと、月下、満ちた月光に輝く金髪を靡かせ、黒いスーツを纏いし男が白い布で覆われている右手をそいつらに伸ばしていた。




