召喚式
日本国憲法 第3条
第1項 何人も、自己の精神の具現たる召喚獣を保有し、及びこれを帯同する自由は、侵されない。
第2項 前項の自由は、公共の福祉に反しない限り、最大限に尊重されなければならない。
召喚獣管理法 第3条(保有の制限及び許可の取消し)
1. 前条の規定にかかわらず、召喚獣が他者の生命、身体又は財産に著しい害を加えるおそれがあると認められる場合、又は著しく公共の安全を害する場合においては、その保有及び帯同を制限することができる。
2. 召喚獣管理大臣は、召喚獣を保有する者が、精神的又は身体的な障害により、その召喚獣を十全に制御する能力を欠くと認めるべき相当な理由があるときは、政令で定めるところにより、指定行政機関による鑑定を経て、当該召喚獣の保有許可を取り消し、又は一時的にその身体を拘束することができる。
なお、その補填として召喚主は政府が管理している召喚獣から相性の良い召喚獣を選び契約する権利を行使できる。
ーーー召喚式。
それは齢10歳を迎え召喚印が発言した子供が、通っている学校のグラウンドもしくは同様施設において行われる初召喚の儀式である。
体制としては、学校に常駐している召喚獣との関係構築や操法指南のカリキュラムを仕切っている召喚獣管理官6人のうち3人に加え、所轄地域の警察官が数名が立会い実施される。
グラウンドの中央に敷かれた召喚された召喚獣の混乱を防ぐための鎮静効果のあるマットを囲うように、デバフと捕縛に長けた召喚獣管理官と、近接格闘で押さえつける警察官が待機している。
召喚された召喚獣と召喚した者との契約を完了させるための、触れ合い程度の軽いコミュニケーションを無事に終えた後は、一旦、召喚獣は元の世界に戻される。
また、その際、コミュニケーションが上手くいかず、相性が良くなかった場合は待機している管理官などが捕縛し保護施設へと移送され、後日、保護施設内での監督下で関係構築のためのトレーニングカリキュラムを行う。
また、召喚印による召喚獣の召喚と光戻をマスターした後に、通っている学校での小学4年生から高校3年生までの8年程の召喚獣訓練カリキュラムが始まる。
8年程のカリキュラムの最中、基礎過程を修了した高校生相当の者は召喚獣免許センターでの筆記試験と実技試験をクリアして初めて、召喚獣帯同免許証を得て、監督者なしでの召喚と帯同を許可される。
それまでは両親及び、召喚獣帯同免許証を保持している大人の監督下において、召喚獣の召喚と帯同が許可される。
なお、喫急の事態に相当しない限り、監督者なしでの高校生未満の子供が召喚獣を召喚するのは原則禁止となっている。
と、召喚式から召喚獣帯同許可証を得るまでの道のりは長くが、補助講習や追試制度が充実しているため、20歳以上80歳以下の日本国民の召喚獣帯同免許証保有率は90%以上を記録している。
古くは村や街の行事の一つとして、行われていた召喚式であったが、当初から発足された召喚獣管理省と全寮学区制が浸透していくにつれて、召喚式での事故は今日に至るまで最小限に抑えられていた。
それは一重に、偉大な先人たちが血まみれになりながらアップデートし続けてきた召喚獣の管理システムと、召喚獣との良好な関係性構築の教育体系の確立が寄与していた。
そのため、召喚式で相性が良くなかった場合でも、保護施設内でのトレーニングカリキュラムを終えれば、9割以上の確率で良い関係性を構築できる。
ただ、その1割未満になってしまった場合は、たとえ主が召喚獣と離れる意志がなくとも、保護区への更迭もしくは召喚禁止令が発令され、主の召喚印の上に数年で消えるシールを貼られて召喚自体が禁止になる。
その場合、政府からの補償として代わりの召喚獣との契約出来、他召喚獣からの脅威に対抗する権利を補填するとされている。
ーーーパパの召喚獣シバタニちゃんとママの召喚獣フルホースとは、お庭でいつもくっついて日向ごっこをしながら一緒にお昼寝してくれる。
「ーーー・・へへへ...くすぐったいよぉ..」
『グルゥ...ゥゥゥ』
『...フルっふぅー』
シバタニちゃんは体がおっきいせいか怖がられる事もしばしばあったけど、公園で体調悪そうな召喚獣がいたら、その子に近づいて助けを呼ぼうとしたり、迷子の子や困ってそうな人を見つけては、その解決法を知ってそうな大人に助けを求めたり、どこまでも優しい子。
フルホースはフクロウ型っていうのもあって普段は夜の方が元気だけど、眠れない夜とかずっと枕元か、お布団の側で私が寝付けるまで近くにいてくれる良い子。
「...どんな召喚獣が私に来るのかなぁー」
「ふふっ、それは当日になってみないとわからないわね。」
「はははっ、また家が賑やかになるねぇ」
どんな子がお家に来るのか、私の一生のパートナーになるのか10歳の誕生日を迎える前からずっと楽しみにしていた。
同級生の衣笠ちゃんはお空も飛べて、お陸でも生きれる両生類のお魚召喚獣だったし、堀内ちゃんはぬいぐるみみたいなオレンジのうさぎさんの召喚獣で、毎日一緒に寝てるらしく、召喚式の日が来るまで楽しみで仕方なかった。
そして、シバタニちゃんとフルホースと一緒に寝ながらどんな子が召喚されるか夢想する夜は明け
、召喚式の日が訪れた。
その日は10数人ちょっとが召喚式に参加し、グラウンドに集まった。
2人程、召喚した召喚獣が召喚酔いで混乱して管理官の人に捕縛されて移送されていたが、それ以外の子達は問題なく召喚獣とのファーストインプレッションを終えて、召喚印が光って戻されていた。
戻っていく様子は、光の粒子となって消えていくような様で、同級生の子達は泣いてしまう子もいた。
「...確かに君らが思ったように、次に召喚される保証はない。が、基本的に私たちの体に刻まれている召喚印が消えない限り、召喚されない事はない。」
そこで、管理官のおじさんが喉仏に刻まれている砂時計のような印を指差しながら、召喚と光戻を繰り返してそのように見せてくれた。
「はい!...印が消える時ってどんな時ですか?」
「良い質問だ。数ヶ月、数年、期間は明確ではないが、長期間召喚しないと、印が薄くなって最終的には消える。」
額と目元に傷を持つ壮年の召喚獣管理官は彼らを子供扱いせずに、これから召喚獣を扱う一人の日本人として対等に説明していた。
「はい!じゃあ、召喚させたままにするとどうなるんですか?」
「うむ、個体差はされども、対人関係でも同じように一緒にいる時間が増えるにつれて、良い関係性を維持できる。こんな風にな」
「「「うぉぉぉー!」」」
またもや鋭い質問に対し、壮年の管理官は肩に乗っけている甲殻類召喚獣に目配せして、バスケ選手のボール回しのように召喚獣が彼のリズムに合わせて腕から腕へとジャンプして見せた。
「はい、最後の人だね。じゃ、白いマットの前に立ってね。」
「は、はい!」
そして、残り数人を無事に終わった後、名前順で一番最後だった私の番が来た。
「じゃ、いつでもどうぞ」
「はい!........っ!!」
何度も練習した10歳になったあの日に出来た腕の紋章に召喚の念を込めて、目を瞑ると向こうの世界なのか草原にポツンと生えている木々の上で、木の幹を抱き枕にしながら寝ているおっきい黒い猫ちゃんが見えた。
(...あの子が、私の召喚獣っ!!)
視点がどんどん黒ねこちゃんに近づき、触れられそうなところまで近づく。
(あ....虎ちゃん?でも、おっきい猫ちゃんみたい..)
近づくと体長3メートル程の虎型の召喚獣であったが、その子の寝顔は猫ちゃんにしか見えなかった。
(...よろしくね。)
(....!!)
「....はっ!」
軽い挨拶を呟くと虎型召喚獣は目を見開き彼女と目が合い、彼女の意識はこっちの世界へと戻された。
すると、召喚陣が現れ光の輪に包まれながら、目の前にはさっきまで間近で見ていた念願の召喚獣が召喚された。
「わぁ.....」
太陽の光を反射しないほど、真っ黒の漆黒の蒸気か何かを纏った黒い虎型の召喚獣に目を奪われた。
「っ!....おいっ!下がれ!!」
召喚陣を囲っていた雨とんぼのような管理官の召喚獣が、召喚主の彼女に近づこうとした黒虎の動きをスローモーションにした。
『グラゥゥゥ...』
「スゥ...」
黒虎を覆う蒸気が増す中、召喚主の彼女と黒虎の間に入った壮年の管理官は喉元の印にカニ型召喚獣を当てて甲殻類のアーマーを展開させた。
「....伊倉っ!この子を」
「はい!」
「....シッ!!」
まだ召喚陣の中で動きを抑えられている間に、壮年の管理官は他の管理官に彼女を任せて、黒虎と相対し黒虎の首元にそのはさみを突き刺した。
「っ!...どこへ..」
が、黒い蒸気を通って空を切り、体長三メートルはあるであろうそいつを探すが気配ごと空に消えてしまった。
『...グルゥ...』
「....え」
他管理官に連れられたはずの召喚主の彼女は黒虎の懐に呼び寄せられ、彼女の背を囲うように歩いている黒虎は、黒い蒸気を渦巻き加速してその管理官に突進した。
ーーーー..ズゴックッ!!
「が...っはぁっ!!」
旗を掲げる鉄塔に背中を打ち付けた彼は肺の空気を全部吐き出した。
『ガルぅぅぅ..』
「ツゥ...ふぅ...こいよ、猫公」
肉食獣特有の重低の唸り声を前にして、首元に埋め込まれた召喚獣を何度かタップして、半端な装甲になっていたアーマーをフルに起動し展開された両手ハサミを研ぎながら、おそらく言葉が通じている黒虎にそう言い放った。
「みんなっ!建物に!!」
その間に、他の管理官と警官が彼女と生徒達を滅多なことでは決して壊れない学校内に避難させていた。
「...ぁ....」
管理官のおばさんに抱えられながら、甲殻類の召喚獣を身に纏ってアーマー化した壮年の管理官と相対している召喚獣を見つめ、背に触れた黒毛の触り心地と体温を忘れられずにいた。




