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第六章 ミス隠蔽より軌道修正が大切!(事務作業はお手の物)

夜更け。

ユーリアたちはシューレに呼ばれ、談話室にいた。

暗い談話室でシューレの顔は、月光を受けて硬くこわばっていた。


「ユーリア。……俺がパートナー候補に手を挙げたのは、聖女を支えるためだけじゃない」


「え?」


「最初は君を“調べるため”だった。

俺の師匠が呪いに飲まれ、人体実験にまで手を出しているかもしれない、と知って…。

止めるには聖女の力が要る。

……だから利用するつもりで近づいた」


重い告白に全員の空気が凍る。


でも私は、にこりと笑った。


「なるほど! 要件定義ありがとうございます! つまり、プロジェクトのゴールは“師匠の暴走停止”ですね!」


「……怒らないのか?」


「怒る理由はありません。利用目的? 仕様が明確になるだけですから!」


朗らかに笑う私に、シューレは思わず顔を覆った。


(……本当に、この聖女は……)


その後は誰も追及せず、ユーリアに促され早目に眠ることとなった。



翌朝。


「……え?シューレがいない!?」

アルベルトが叫ぶ。


「杖もローブもないんだ!一人で向かったんじゃないかな??」

サティが焦る。

「彼は魔術師。転移魔法を使ったのでしょう」

エルドラドの声が鋭い。

「馬じゃ間に合わないぞ。一人では危険すぎる!!隣国から飛竜を借りるか……!?」


三人が慌てふためく中、私はすっと手を挙げた。


「大丈夫です。ショートカットキーを設定済みですから!」


「しょ、ショート……何?」


「Ctrl+Shift+T!」


手を真っ直ぐにかかげ、光陣が床に走り、私たちは一瞬で飲み込まれた。


「うわっ!?」

「は、速すぎる!」

「心臓に悪い!」


「業務効率化です!」

私は真顔で答えた。



転移した先は灰色の塔の前。


人と獣を縫い合わせたキメラが蠢いていた。


流石に絶句してしまう。


「こんなものが…人と獣を組み合わせたんだ!」

サティが叫ぶ。


「これほど深く混ざれば解く術はないだろうね……」

エルドラドが顔を歪める。


「このままでは倒すしか……!」

アルベルトが剣を握る。


「なぜ来た!師匠はもう…自分自身もキメラに。俺は全てを焼き尽くす…!」

シューレが悲壮な声で叫んだ。


私は一歩前に出た。寝癖がぴよっと動いた。


「無理、ですか?

大丈夫です。すぐ終わりますよ。

――仕事の基本、少し戻る!です!」


その瞬間、私の影が膨らみ、

小さな光の少女が立ち上がる。


セイジョウ。女神サーバに接続する分身だ。


《女神サーバと接続。データベース同期開始します》  


「わあ……」

サティがその美しい光景に声を漏らした。


光の糸が塔全体を包み、縫い目をひとつひとつ浮かび上がらせる。

層が重なり、祈りの合唱のように荘厳な響きが広がった。


《ディープラーニング起動――過去のパターンを多層解析》


仲間たちの目が見開かれる。


「……なんだ、この神秘は」

「奇跡……?」

「……か、かいせきって……」


私は微笑んで指を掲げた。


「奇跡じゃありません。聖女業務基本知識です!!

時よ!戻れ!――Ctrl+Z!」


光が奔流となり、塔を覆う。


縫い合わされたキメラの肉体がほどけ、獣の咆哮が人の嗚咽へと変わり、呻きが安堵の息に変わった。


ひとり、またひとりと、元の姿へ。


倒れていた老人――シューレの師が目を開け、荒い息を吐いた。


カッと最後に大きな光が周囲を覆い、柔らかな花のような光のかけらがパラパラと舞っていた。


「……私は……?」


沈黙ののち、すすり泣きと歓喜の声が広がった。




外に出ると、夜明けが空を淡く染めていた。


私は石段に腰を下ろし、帳票を広げてさらさらと


「事後処理報告」を書き始める。

誤字は一つもない。


「……こんな時に帳票」 

シューレの呟きに、アルベルトが苦笑する。


「それが彼女らしいと思ってしまっている私たちもどうかなと」

エルドラドが小さくつぶやいた。


私は顔を上げ、シャーレに微笑んだ。


「ミスは、早めに報告して即修正。上は『報告してくれてありがとう』って思うものです。隠す方が一番の不具合ですから!」


シャーレが初めて崩れるようにしゃがみ込んで涙し、私は大いに焦った。


(パワハラしちゃった…!?)


朝の光が差し込み、微かな笑い声を残し、セイジョウが静かに消えた。

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