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ネジ

 少年マンガみたいな話を書いてみたいなと思って書きました。

 シナリオチックな形式で書くよりは小説形式で書きたいと思い、少し硬めの文章で書かせていただいています。

 刺さる人に刺さればいいな、と思います。

 よろしくお願いします。

 少年はその日、ただ息を殺して見ていた。

 親友が体から何かを抜かれて倒れる様子を。

 黒いパーカーに深くフードを被った男は、その何かを見て笑っていた。

 少年はその出来事を未だに覚えていた。小2の春。放課後。路地裏。

 彼は恐怖心に逆らえず、親友を見捨てたのだ。


「はッ.........!」

 暗い部屋で青年がひとり飛び起きる。悪夢から目を覚ました彼の目の下には酷い隈ができていた。

 荒い呼吸を幾度か繰り返して、それから震える手で頭を抑え、ため息を吐く。

 彼はいつだってこうして現実へと引き戻されるのである。




西暦・2030年 6月


 窓の外で新緑がゆらめく。

 昼休みの最中、生徒たちは数人のグループに別れ、黄色い声を上げては手を叩いていた。そんな喧騒の輪から外れ、机にうつ伏せになって寝ている男子生徒がいた。

 都立新宿東高等学校2年5組の教室内では生徒たちの楽しそうな声が響いている。食事をしていたり、ゲームをしていたり、友人たちと各々過ごす彼ら彼女らの中で、机に突っ伏して1人寝ている如月六角の周りは静寂に包まれていた。

 急に、ぼんっと六角の頭に、何かが当たる。

 急な衝撃に頭を動かす六角の動きと共に橙色の髪がふわりと動き、瞼からは薄く空色の瞳が覗く。

「わりぃわりぃ」

 そう言って六角に声をかける男子の顔は全く悪いと思っていないように笑っていた。

「......別に」

 それだけを小さく零してまた机に突っ伏す六角。男子はそんな六角を鼻で笑い、床に落ちた消しゴムを拾って仲間のもとへ戻っていった。

「暗っ」

「てか無視かよ」

「あいつまじ喋んんねぇよな」

「口ないんじゃねぇの?」

 ギャハハと汚く笑うクラスメイトに、六角は何か反応を示すことはなかった。

「やめろよ、そういうこと言うの」

「おーい、ノリ悪いって」

「相変わらず三宅は優等生だなあ」

 三宅と呼ばれた金髪の優しげな風貌の男子が止めに入るも、それは何の意味も成さない。彼らはただいつものように汚く笑う。

 六角が顔の角度を変え、窓の外へと視線を向ける。ただそれだけで、やはり彼らの言葉に何か反応を示すことはない。

 六角にとっては「暗い」のも「しゃべらない」のも事実であったため、それをどう揶揄されようと興味がなかった。それに対して誰がどう反応しようとも、それは全く変わらなかった。


 放課後。空が橙色に染まり、街は楽しそうに笑う子供の声で溢れている。そんな中、六角は1人通学路を歩いていた。

 と、六角の目に映ったのは、珍しく紙の地図を持ち、辺りを見回している老婆であった。

「......おばあさん!」

 六角が声をかけると、彼女も六角を見上げる。

「こんにちは。この辺、道分かりづらいですよね」

 そう言って小さく笑う六角に、彼女もにこりと微笑んだ。

「こんにちは。そうなのよ、久々に孫に会いに来たんだけど、覚えてなくてねぇ」

「もし良ければ、俺が案内しましょうか?」

「あら、いいの?悪いわねぇ」

 六角は地図を見てすぐに場所を理解すると「こっちです」と指を指して、彼女の歩幅と合わせるように歩き出した。

 暫く進んで行くと、老婆は「あっ」と声を上げて、スタスタと路地裏の方へと進んで行く。

「あっ、ちょっ、おばあさん!そっちは裏道だから危ないですよ!」

 六角の声など聞こえていないかのように、彼女は裏道へと入る。六角が慌ててそれを追いかけると、すでに角を曲がっている後ろ姿がちらと見えただけだった。

「あー、もう」

 六角はそう零して老婆を追いかけ、角を曲がって彼女に声をかけようとした。しかし、そこに立っていたのは老婆ではなく妙齢の女性であった。老婆の姿はどこにもなく、六角は焦ったように女性へ声をかけた。

「あ、あの、すみません、おばあさんを見ませんでしたか?」

 そう問う六角に、女性はにこりと微笑んだ。そして、勢いよく六角へ襲いかかる。驚き何もできない六角の首を絞める女性に、六角は数秒遅れて抵抗を示す。

「おばあさん?見なかったねぇ。だってそれ、私だし」

 恍惚とした笑みを浮かべる彼女の放つ言葉を六角は何一つ理解できなかった。身長から年齢から、何もかもが違う女性が老婆と同一人物とは思えず、そしてそれよりも、抵抗することに手一杯だった。

「あは、殺す気はないから安心しなよ」

 女性は笑顔だ。その様子に六角は初めてではないことを悟る。そしてその様子がさらに六角に焦りを生ませた。彼女の言葉など到底信用に値しなかった。

 六角の振りかぶった手の甲が女の顔に当たる。その衝撃で女が手から力を抜いてしまった拍子に、六角は女の下から抜け出し必死で足を走らせる。

(逃げなきゃ、早く...早く...!)

 辿々しいその動きのまま、六角は逃げることだけを考えた。

 その時だった。

 六角の耳に届いたのは、子供たちの笑い声だった。小さくも、確かに聞こえたそれに六角の足が止まる。

 このまま表に出れば、子供たちが被害に遭う。そう思うと、六角の足は動かなくなってしまった。

 と、後ろに引き倒され、先ほどよりも強い力で首を絞められる。六角はまた抵抗しようとしたが、その瞬間、頭に浮かんだのは子供達と、自身が見捨てた親友のことだった。体から力を抜く。

(もう、いいや。俺ひとりで済むなら、もう......)

 親友の顔を思い浮かべる。

(これで、お前も許してくれるかな...)

 瞼を閉じる。



 その時だった。建物の上から降りてきた女が、着地と共に2人へ近づき女の胴体に回し蹴りを喰らわせる。六角の首を絞めていた女は吹っ飛び、六角は咳き込みながらも荒く呼吸を繰り返した。

 体を起き上がらせ、薄く目を開けた六角の目に映ったのは、自身を庇うように立つ、黒服と琥珀色の長髪が風に靡く後ろ姿だった。

「動ける?」

 優しくも鋭いその声が彼女のものであることに、六角は一瞬気が付かなかった。

「...ぁ、は、はい......」

「下がってて」

 六角に短くそう返した彼女の言葉に従い、六角は後ろへとずり下がる。

 黒服の女が女性へと向かっていくと、女性は焦ったように黒服へと何かを投げる。黒服はそれを身軽に避けてしまう。

 金属音を鳴らし地面へと落ちたのは色とりどりのネジだった。

(ネジ......?)

 地面に転がるネジを見て六角が思い出したのは、親友のことだった。たしか、“あの時”親友が抜かれたものは“ネジ”だった。

 焦ったような表情で黒服へ足払いをかける女の足を軽々と避け、黒服は脇から出した()()を女の顳顬に叩きつける。どさりと地面へ倒れる女を見て、黒服は安堵の息を漏らした。

(つ、強えぇ......)

 黒服の強さに六角は感嘆の息を漏らした。

 黒服は拳銃を仕舞い女を素早く拘束すると、辺りを見渡し女が投げたネジを手探りで回収していく。2本目を回収した黒服へ六角が残りのネジを差し出す。

「これですか?」

 黒服の女は六角の手元をじっと見つめ、それから六角へ目を向ける。

「......見えるの?」

「はい」

 黒服は六角の渡したネジを受け取り、自身の回収したネジとともにポケットへ仕舞う。

「...それ、どうするんですか?」

「聞いてどうするの?」

「え、どうも、しないですけど......」

 気まずそうに目を逸らす六角に、黒服が小さくため息を吐く。

「......持ち主に返す」

「!......それって、俺にもできますか?」

 意を決して言う六角を、女はじっと見つめる。そして口を開く彼女の言葉を遮るように、コール音が鳴り響いた。

 黒服は電話に出ると「はい」と業務的な声を上げる。そして拘束した女を見やり「えぇ、無事確保しました。回収よろしくお願いします」とだけ言うと、何か言いたげな電話の向こうなど認識していないかのように電話を切った。

 スマホから自身へと向けられた月のように輝く瞳に、六角は一種の緊張を覚えるも負けじと見つめ返す。

 2人の間を風が通り抜け、黒服が再び口を開く。その数秒が、六角には長く感じられた。

「ムリ」

 彼女の口から放たれた2文字に、六角は呆然と立ち尽くすばかりだった。

 「頭のネジが一本足りない」とか「頭のネジがゆるい」とか、日本だとちょいちょい使われる言葉に「人間みんなネジは足りてないんじゃないか」「ちゃんと全部ネジが刺さってて、かつ締まってるのなんて神様くらいでは?」と考えたのが始まりで、「ネジ」をテーマに書いてみました。

 結構構想が進んでいるので、少しづつ書き進めたいと思っています。

 面白いと感じてくださる方がいらっしゃれば幸いです。

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