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プロローグ

 聖国コウゼリカには不思議な鏡がある。建国に貢献した初代王妃が持っていたとされている。

 建国に至る数十年前、大陸には国と呼んで良いか惑う程の弱小国家がひしめき合っていた。コウゼリカ初代王妃はその一国の姫であったが、偶然その鏡の前で自身を見つめながら呟いた。


「ああ、相変わらずわたくしは美しいわね」


 すると鏡が答えた。


「そうだな。女神の如き美しさだ」


 姫は飛び上がった。言葉を話す鏡など聞いたこともない。姫は好奇心を抑えられず鏡に様々な質問をしたが、その全てに鏡は答えた。

 鏡には明確な意思があり、いつしか気軽に話し合える友となった。鬱屈とした日々の中で、唯一本音を語ることの出来る鏡に、姫は完全に心を許した。

 そしてある日、鏡の前で呟いたのだ。


「ああ、わたくしの美しさを理解し尊重してくれる有能な男は居ないのかしら」


 鏡はあっさり答えた。


「勿論居る」


 姫は喜んだ。そしてその男に早速会いに行った。男は平民だったが、姫にとって身分は重要ではなく、男と共に生きる約束をする。

 しかし、それを周辺諸国の王の跡継ぎ達が許さなかった。美姫がどこの馬の骨とも知れぬ輩と婚姻するなど信じられなかったからだ。我こそは美姫にふさわしい男であると名乗り出たが、姫の想いは変わらない。

 業を煮やした男達はとうとう挙兵し、武力でもって美姫を手に入れようとする。しかし、姫の国は武力の強い国であり、そして鏡が仲介したその男は平民ながらも強者であり、あらゆる武器を使いこなす負け知らずだった。王は「己の失態は己で解決せよ」と告げ、姫と男に軍を指揮する権限を与えて戦を任せた。

 男が待ち受ける戦場にやってきた侵略者は所詮有象無象の弱小国。大した戦略が有る訳もなく、単純な武力の衝突であれば男に敵う者はない。

 姫を守らんと返り討ちにした国々を支配し、どんどんと勢力を拡大させて広大な土地を支配するに至り、大国となった。

 そして、そのきっかけとなった鏡を聖なる物として崇め、聖国コウゼリカと改めた。


 以来、その鏡は英雄を見つけ出す神器として語り継がれ、国の宝として厳重に守られた城の奥深くで眠りについていると言われている。









 ところがその鏡、実は気分でいろんな場所に現れる。

 自我を持ったモノが、宝物庫等という滅多に何も起こることのない、つまらない場所に居る筈がない。納められはしたが、鏡にとっては家と呼べる場所が出来たという程度のことだった。退屈と感じれば出掛け、満足すれば帰る。運悪く出掛けている時に人が来たとしても、鏡の場所は一番奥の半個室である上に、国一番の宝だからとご丁寧に帳で隠されている。無くても気付かれない。見廻りだけは厄介だったが。

 その日も気紛れで勝手に掛かっていた壁の前を通りかかった者に声を掛ける。基本的に話し好きなのだ。鏡の声を聞くことの出来る人間は希少だから知られていないだけで、鏡は結構話しかけている。大体は独り言となってしまうのだが、その者は違った。珍しく鏡の声を聞く事が出来た。

 話をしてみると、この者も未婚らしい。鏡は知っていた。10代中頃以降の未婚者の関心事は、結婚相手だと。だから教えてやった。鏡が知っている中で、一番強く逞しく格好いい男を。まだ原石だが、とても有能な男を。

 その者が喜ぶだろうと思ってのことだったが、期待とは違いその者は蒼白になった。そして走り去ってしまった。

 残念に思ったが、それでも永い年月を過ごしてきた鏡は有り余る時間を使って、その者と男を見守る事にしたのだった。

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