Ⅹ醜い忌み子
見ないで
私達の記憶を荒らさないで
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おねがい
おねがい
おねがい
おねがい
おねが
東方に幾つもある跡地
あるところは一室が赤く染まっていて
あるところは死体しか見つからないらしい
全く、恐ろしいものだ。
看板に書いてある文字は東方の言葉で
《藤原陰陽師家跡》
と、書いてある。
一見見ると普通の屋敷だが、
なにか不気味な空気を漂わせていた。
その敷地に足を踏みいれてみる。
すると、ぼんやりとした光が見えたかと思うと、辺りが神聖な空気に包まれた。
「まるで魔法のようだ、、、、、」
外交官は呆気に取られた様子で呟いた。
魂のような小さな光の塊が楽しそうに空中を旋回していた。
その様子を眺めながら、屋敷内に足を踏みいれる。
屋敷内にも、その神聖な空気は漂っていた。
ただ1つ、おかしいところと言えば、
日の光しかライトのない屋敷に、日の光が何時になっても当たらないような所に血の跡が見えたことだった。
涼太朗が、気になったのかその血の跡を指でなぞった。
指に血の跡は、、、、、
付いた。
「っ!?」
その血は真っ黒に染まった後に崩れて消えた。
まるで、日に灼けたかのように
その様子を眺めながらも、地下室らしき扉があったので開ける。
一瞬抵抗が生まれた気がしたが、気にせずに開けた。
階段が続いている。
薄暗い階段を、魔法の光だけを頼りに進む。
地下牢獄のような場所に着いた。
鼻が曲がりそうなほどの強烈な死臭に顔を歪ませながら、奥に進んでみる。
《拷問部屋》
東方の言葉で書かれたその看板に
少し、恐怖を感じるところがあったが、
気にせずに部屋の重い扉を開けて
中へと足を運んだ。
鉄臭い匂いを無視して
「っ、、、、、」
辺り一面に散らばる肉塊
赤黒い床、壁、天井
骸骨、腐敗した腕、足、胴体、内臓
それらが散らばり、吐き気を感じるような腐臭を漂わせている。
ここに入ったのが私でよかったと思っている。
百瀬や涼太朗が入ったら、間違いなく吐いていただろう。
ましてや、あの外交官も、、、、、
見ていても、気味の悪い光景で、見ていられなくなってきたのでその部屋から退出した。
この地下にはもう用は無かった。
、、、、、はずだ。
藤原陰陽師家跡にはほかにめぼしいものがなかったため、藤原陰陽師家に勤めていた者の家に向かう。
彼女は、事前に誰かしらに言われていたのか、すんなりと通してくれた。
「まだ、あの家のことについて知ろうとしていた人がいたなんて驚きです。」
彼女の一番最初に放った言葉はそれだった。
どうやら、あの家は気味の悪い現象が続くといわれている言わばホラースポットらしい
そのため、滅多に近づくような人はいなかったという。
「正直言って、私もあまり思い出したくはありませんが、、、、」
そういって苦笑いする女性
彼女の名前は源亜矢子
源氏の血筋だが、まぁ、本家よりは弱いもので、
嫁ぎ先もなかったゆえに、藤原陰陽師家で働くことにしたらしい。
「あの家は勿論、名前の通り陰陽師を育成する家なのです。そのため、魔力を持って生まれてしまった人は、まるで人じゃないような扱いを受けます。」
「魔力を持って生まれただけでか?」
「はい、魔力は怨念を生み出す最大の原因です。まあ、本当かどうかはよくわかりませんが」
少なくとも、私は見たことがありませんけどね。と付け足す。
確かに、魔法の中には闇属性の魔法も存在している。
しかし、陰陽の術式の中にも、祟りや呪いを引き起こすような術式もあったような気がするが、
魔法よりは、弱いのだろうか
「そして、およそ100年ほど前に、その魔力持ちが生まれてしまったのです。」
淡々と語っていく亜矢子に驚いた。
「100年?まて、今お前何歳だ?」
「涼太郎様?女子に年齢を聞くのは不躾でございますわ。」
百瀬がお得意の上目遣いで涼太郎に注意する。
その件にしては、否定はしないがな。
まぁ、百瀬のぶりっ子に関しては、頭を悩ませている。
「構いませんよ、もう聞きなれておりますし、今年で136歳になります。」
「それにしては、若々しい、、、、」
亜矢子は、白髪交じりの黒髪をしていたが、顔は20代半ばの女性に見える。
「藤原陰陽師家に仕えたものは、寿命が延びるのでございます。不死、とまではいきませんが、、、、」
そういってまた苦笑いをする。
「神様の御礼だと、家では言っておりましたけどね。」
その言い方で考えると、信じている気はなさそうだ。
「さて、話を戻しましょうか、」
そういって、飲んでいた茶を机の上に置く。
ふうっと、一息ついたときにまた話し始めた。
「魔力持ちと呼ばれたのは、藤原陰陽師家次女の、靈呪様でした。しかし、彼女には魔力は存在していませんでした。それは、後の祈祷で分かったことです。普通、陰陽師は生まれながらにして、光属性を持って生まれるはずが、靈呪様だけ、闇属性で生まれてしまったのです。」
「ほう、、、、、」
「勿論、そうなってしまうと、魔力持ちと対応は変わらなくなります。人じゃ無いように扱われ、あるときは体を弄ばれる事もありました。」
いったん一息つくかのように彼女はちらりと窓の外を見た。
「、、、、、そのあと、靈呪様は鬼龍家に嫁ぐことが決まりました。」
「ほう?厄介払いをするためか?」
「もちろん当主様はそのためもありました。しかし、目的はもう一つあって、、、、」
少し、亜矢子は息をのんだ。
「鬼龍家は鬼の一族です。」
「っ!?」
ひゅっと息をのむ外交官
中央魔法界では、鬼人は魔法が殆ど効かない異常種
日々日々対策に追われている。
「私たち藤原陰陽師家とは、もちろん対立していました。そのため、厄介払いのついでに、同盟という定義で、嫁を渡して、いい感じの仲を取ろうとしたわけです。」
「えぇ、それ、大丈夫だったんですかぁ?」
「鬼龍家次期当主様の許嫁として、通されました。その鬼龍次期当主様はいたく靈呪様をお気に召したようで、私達藤原陰陽師家と、仲の良い関係が取り持たれました。、、、、まあ、一応ともいわんばかりのバチバチ感がありましたけど」
そういって、苦笑いをする。
その目の奥は苦しそうにも見えた。
「そうして、靈呪様が嫁いで半年後に、子供ができたことが伝えられました。」
「!おめでた、ということか?」
「まぁ、そうですね。その後に、無事に出産も済んで、靈呪様もとても幸せそうにしていました。とても、微笑ましかったです。ですが、、、、、」
間に一呼吸入れると、つらそうな表情でこう話した。
「藤原陰陽師家当主様は、その赤子を殺すように命じたのです。」
「!、嘘だろ、、、」
唖然とする涼太郎、
まぁ、私も人のことは言えないが、、、、
「その赤子は、両者のためにも必要なものだったのでは?」
開いた口が塞がらず、何も話せない涼太郎の言いたいことを代弁した。
「えぇ、私もそう思いましたよ。ですが、まぁ、生まれたのが女子だからというのもありますし、なにせ、人外として扱っていた忌み子の靈呪様が幸せそうにしているのを見るのが嫌だったのでしょう。そのため、当主様は赤子を井戸の中に沈めて、死体は森の中に捨てました。」
まるで恐ろしいものを見ているかのような震え声
いや、恐ろしいことを言っているのだ。
生まれたばかりの赤子を殺してしまうなど
「靈呪様は一日中泣いておりました。私は、せめてもの慰めとして、その場にいないようにしていました。靈呪様にとって、私たちは恨むべき相手になってしまいますので、それに、当時の私は奥様の3つほどの年齢の三女の乳母を任せられていまして、靈呪様は、三女様ととても仲良くおられていましたので、思い出してしまうと、可哀そうだと思いました。
、、、、私にできるのはそれだけしかありませんでした。」
悲しそうな目、口元は笑おうとしているのか、口角をうっすらと上げたまま震えている。
「いつも弱った様子を見せない鬼龍家次期当主様もその日は靈呪様と共に泣いていました。鬼龍家は怒りに狂いましたが、鬼は陰陽の力には逆らうことはできません。そのため、何もできず、一週間ほどが経ちました。」
「その日は、当時、神と祀られていた妖鬼美羅様を迎え入れました。」
「まて、なぜ妖鬼次期当主が神として祀られているのだ?」
少し焦った。
あの女狐が神として称えられていることに
「美羅様はとても美しい容姿と神と名高い能力を持っていまして、そのため、当主様が神として祀ることにしたのです。」
「、、、、、能力は?」
外交官が訪ねる。
「触れたものをすべて破壊してしまう能力と、信仰の高いものを必ず守護し、力を授ける能力です。」
強敵すぎる能力に驚きを隠せなかった。
触れたものをすべて破壊してしまう、それならば、彼女に勝てる者は急激に減ってしまう。
制限がないのなら、なおさらだ。
「美羅様は藤原陰陽師家にとって、邪魔な人たちをすべて破壊してくれました。そのため、今度は靈呪様と、鬼龍家を破壊してもらおうとしたのです。ですが、、、、その計画は失敗に終わりました。」
「なぜだ?」
間を入れずに質問をする。
私の悪い癖だ。致し方ない
「美羅様は、靈呪様をお気に召していたのです。そのため、その願いは聞くことはできませんでした。」
「忌み子を?」
「はい、そうして、美羅様はこう言いました。」
「あなたの願いをなんでも一つ叶えてあげる。その代わり、あなたは私に一生の忠誠を誓う。さて、あなたはどうする?」
「靈呪様は、それを了承しました。願い事が何かは覚えていませんが、靈呪様は、恐ろしい化け物へとなり替わり、私以外の藤原陰陽師家の関係者を全員抹殺してしまいました。誰一人とて、残らず。」
分かりやすいほどに震え声になっていく、それほど、怖かったのだろうか
「私は、靈呪様に、私を殺してくださいと言いました。靈呪様を化け物に豹変させてしまったのは私の責任で、私が靈呪様のお子を守ることができなかったから、靈呪様はそれに対して、「あなたは殺さない。あなたがいなければ、私は途中で死んでいたから」と言って、その場から消えました。そして、その日のうちに、鬼龍家のお屋敷も、靈呪様のお荷物も、すべてまるで何事もなかったかのように消え去りました。」
「まて、靈呪とやらの荷物が消えるのはわかるが、なぜ鬼龍家も?」
「靈呪様がそう望んだからだと思われます。詳しくは、分かりませんが、、、、」
そういって、目を伏せる。
「、、、、分かった。情報提供感謝する。」
「はい、こちらこそ、」
「長居してしまったな、失礼する。」
そう言って、その家から出た。
果たしてこれが役に立つのか、そう言いたげな外交官を無視し、
次の跡地へと向かった。
場所は
龍の住む里だ。
帰って頂戴




