まりちゃんと おばあちゃん
まりちゃんはおばあちゃんが大好きです。
二人はいつも一緒です。
おばあちゃんの背中は太陽のにおいがするので、まりちゃんは好きでした。
「おばあちゃん」
まりちゃんはその小さな体を、おばあちゃんの背中に押し当てて言いました。
「お庭に咲いているひまわりの花、しぼんじゃったね」
「そうだねえ」
おばあちゃんは庭で枯れているひまわりの花を見ながら、背中のまりちゃんにそう言いました。
「お空を見上げて、あんなに大きく黄色だったのに、どうしてしぼんじゃったの?」
まりちゃんがおばあちゃんに言いました。
おばあちゃんは、「きっと眠っているんだよ」と、まりちゃんに言いました。
「いっぱい元気に咲いたから、今はお昼寝しているんだねえ。
また来年にでもなれば、おはよって咲いてくれるよ」
おばあちゃんのひざの上は、まりちゃんのお気に入りの場所です。
「おばあちゃん」 まりちゃんが言いました。
「アリさんたちが、一列に並んで何か運んでる」
まりちゃんは庭にいるアリをながめています。
「一本につながってるよ!」
「そうだねえ」 おばあちゃんは言います。
「あれはおやつを運んでいるんだねえ。
みんなで力を合わせて、おうちに運んで、三時になったら食べるんだよ。
まりちゃんもおやつが好きだろう?」
「うん!」 まりちゃんは元気よく言いました。
おばあちゃんに頭をなでられるのが、まりちゃんはとても好きです。
「おばあちゃん」 まりちゃんは気持ち良さそうに言います。
「おばあちゃんに頭をなでられるのが、まり、すごく好き。
風がとっても気持ちいいよ」
「そうだねえ」 おばあちゃんは、まりちゃんの頭をなでながら言いました。
「まり、おばあちゃんとこうしているのが好き。 だって、あったかくなるもん」
おばあちゃんはにこにこ笑っています。
「おばあちゃんも、まりちゃんとこうしているのが好きだよ。 しあわせだよ」
「しあわせ?」 まりちゃんは不思議そうな顔をして、おばあちゃんを見上げました。
「こうやってあったかいのが、しあわせなんだよ」
おばあちゃんはまりちゃんの頭をやさしくやさしくなでました。
おばあちゃんは写真の中にいるおじいちゃんに、よく話しかけます。
まりちゃんは目をくりくりさせながら、おじいちゃんの写真をのぞきこみました。
「おばあちゃん」 まりちゃんが言いました。
「おばあちゃんはおじいちゃんのことが好きなんだ!」
「そうだねえ」 おばあちゃんが言いました。
「どのくらい好き? おじいちゃんもおばあちゃんが好き? どうして好きなの?」
おばあちゃんは顔をほころばせながら言いました。
「おばあちゃんはねえ、おじいちゃんのことを愛しているんだよ。
おじいちゃんもおばあちゃんのことを愛してくれているよ。
おばあちゃんは、おじいちゃんもまりちゃんも大好きだよ」
「まりもおばあちゃんが好きだよ」
まりちゃんとおばあちゃんは笑いました。
写真の中のおじいちゃんも笑っていました。
おばあちゃんとお手玉で遊ぶのが、まりちゃんは好きです。
でもまりちゃんは、あまりお手玉がうまくありません。
「おばあちゃん」 まりちゃんは庭のほうをちょっとのぞくと、言いました。
「セミさんが転がってるよ」
「そうだねえ」 おばあちゃんも庭を見て、そう言いました。
動かないセミを見て、まりちゃんが言いました。
「セミさんは、死んじゃったのかなぁ?」
「セミさんは土から出てきて、いっぱい鳴いて、いっぱい生きたんだよ。
あのセミさんは死んでしまったけれど、いっぱい生きたんだよ」
おばあちゃんはそう言いました。
おばあちゃんのしわだらけの手に、まりちゃんは自分の小さな手を乗せました。
「おばあちゃん」 まりちゃんは言いました。
「まりの手と、全然違う」
まりちゃんはおばあちゃんの手と自分の手を、見比べています。
「そうだねえ」 おばあちゃんは重ねた手と手をあたたかく見つめながら、言いました。
「このしわはね、一本いっぽんが、おばあちゃんの大切な思い出なんだよ。
こうやってまりちゃんの手をにぎっているのも、大切な思い出になって、それがしわになるんだねえ。
まりちゃんありがとう」
まりちゃんはうれしくなり、しっぽを振って、「おばあちゃん」 と言いました。
まりちゃんはおばあちゃんが大好きです。
おばあちゃんもまりちゃんが大好きです。
二人はいつも一緒です。