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いのりびと  作者: 奥宮イツキ
第三部
76/189

5.図書館

 建物が異様に大きく見えたのは、見えた物が図書館だけではなかったからだと近づいてみて気づいた。

 敷地内にいくつか建物が密集していて、図書館と文化センターは併設され、他に商工会館、市役所と並んでいた。

 駐車場から一番近いのが図書館で、その入り口に続く階段を上る。途中、マシロは図書館で一体何について調べるのかを真那に訊ねた。


「主に、この土地の歴史」

「歴史?」

「あぁ。この図書館には地域の書籍コーナーがあって、祭りのことや人々の暮らしについても記述された本が多くある。カゲや痣子について、もちろん直接的な言葉を用いては記されてないと思うが、何かヒントになるものがもしかしたらあるかもしれない。――ちなみにマシロ、本読めるか?」


 訊かれ、マシロは少しだけ眉根を寄せた。

 文字は読めるが、マシロは本という本をろくに読んだことがなかった。記憶がなくなる以前はどうだったかそのことはもちろんわからないし、ここに来てからも、ちょっとした冊子を読んだことはあっても、書物に触れることはほとんどなかった。


「ごめん……。僕、あんまり役に立てないかも」


 思わず力ない声が漏れる。しかし真那は落胆したような顔は見せなかった。


「大丈夫だ。実は、すでにここに置いてある歴史書はほとんど目を通してあるんだ。マシロには違う目でそれを読んでいってほしい。俺には目に留まらなかった事柄が、マシロには留まるかもしれないからな。あと、期待は薄いが、読んでいく中で何か思い出せることがないかも、同時に確かめてほしいんだ」


 わかった、とマシロはできるだけ強く頷いてみせた。

 上手くできる自信はなかったが、真那の力になりたいという思いは強かった。


 階段を上り切ると、すぐ左手に図書館の入り口が見えた。壁には大きなガラス窓が並び、外から館内の様子がよく見える。

 二重構造の自動ドアを潜り抜けると、今まで嗅いだことのない匂いがマシロの鼻を掠めた。そのあと、敷き詰められた数多くの本の並びにマシロは目を見開く。この匂いは本の匂いなのだろうかと、まじまじと目の前に広がる空間を眺めた。


 独特な雰囲気がそこに立ち込めていた。人は何人かいるのに、誰も声を発さずしんとしていて、時折職員がパソコンのキーボードを叩く音がカタカタと浮かぶ。マシロと真那が通ってきた自動ドアが閉まる音が、そこの中で一番大きく響いた。


 マシロは声を出すことが憚られた。挙動不審に目を泳がせていると、真那がトンと肩を叩き、指で上を示してきた。見ると入り口のすぐそばに、二階へと続く階段がある。マシロは頷き、階段を上る真那についていった。

 

 一階だけでもものすごい数の本があったのに、二階にも本棚が並び、ぎっしりと本が並んでいた。

 しかし一階と異なるのは、そこには本棚だけでなく大きな机がいくつも並んでいて、そこに座っているのは本を読む者だけでなく、ノートを開いて勉強している者もいるのだった。


 よく見ると、壁には“学習スペース“と表記された張り紙が貼り付けられていた。真那は窓の外を臨めるカウンター式の机にマシロを案内し、座るよう手で示した。さらにそのまま待つよう尚も仕草だけで伝えると、本棚の一角に姿を消した。


 一階同様、そこには声ひとつ浮かばなかった。筆を走らせる音がひたすらかすかに聞こえ、真那と同じくらいの中学生が二人、高校生らしき者も一人いた。あと一人は随分年配に見える男性で、熱心に本を読んでいる。

 しばらくして、真那が席に戻ってきた。本を数冊抱えてやってきて、それをマシロの目の前に置く。


 マシロはそれを少し開く。そこから覗いた細かい文字の羅列に一瞬気後れしそうになった。

 が、自信をなくしている場合ではなかった。意気込み直し、背筋を伸ばす。隣の席に座った真那が、これを頼む、という風に目配せしてきたので、マシロは黙って頷いた。


 手に取った一冊を再度見開くと、ここに足を踏み入れた時に感じた匂いの根源のような強いものが、すぐ鼻先にふわりと浮かんだ。

 目次にざっと目を通し、ページをめくる。随分古い書物なのか、めくる指に当たる紙の感覚はひどく指に柔らかい。

 しかしそこに敷き詰められた文字は細かく整然と並んでいて、読み進めるのはマシロにとって易しくはなさそうだった。


 息を詰めていると、真那が横から電子辞書を滑らせてきた。キョトンとした顔をマシロが見せると、真那は小声で使い方を説明し、マシロはありがたくそれを受け取り本の脇に置いた。



 それからは真那もマシロも、無言のまま本に視線を落とし続けた。

 マシロは真那が隣で次々にページをめくっていく音を聞き、少しだけ焦った。しかし適当に読み進めては気に留めるべきものがあっても見逃してしまうと、マシロはまず一文一文を丁寧に読み進めていこうと努めた。


 最初は指で文字をなぞりながら、言葉を調べながらだったので、一ページを読み終えるのにもかなりの時間を要した。

 が、それも徐々にマシになっていった。指も見開いたページから離れて目だけで文字を追えるようになり、辞書をひく手つきも慣れたものになり、ページをめくる速度が速くなっていった。


 自分でも不思議なほど、早い段階から本を読むことに慣れていっているのがマシロにはわかった。

 それまで読書の習慣などないに等しかったのに、最初に感じた気後れなど嘘であったかのように、マシロは本に没入していた。

 

 しかし、一時間経ったところで確認すると、その時間で読み終えたのは一冊の半分ほどだった。いくら本に慣れていくといっても、三百頁ほどある本を一冊読み終えるのは容易いものではなかった。

 ほんの微かな音を立てててマシロは息をついた。すると、そんなマシロの様子を見やって、真那が本から顔を上げると、少し休憩しよう、と小声で言って指で下を示した。

 



「――マシロ?」


 そうやって知人に声をかけられたのは、一階に続く階段を下り切った時だった。

 名前を呼ばれたマシロが振り返ると、そこには痣子の一人である干田野英斗(ひたのえいと)が珍しげな顔をして立っていた。

 高校の制服姿だったこともあってかマシロはそれが一瞬誰か分からず、首を傾げそうになった手前で気づき、その後あぁ、と小さく声を漏らした。

 マシロと同時に真那も振り返ると、


「なんだ、(つるぎ)と一緒か」


 と英斗は少しだけ目を丸くして添えるように言った。


「こんなとこで何してんの」


 訊かれ、マシロは少し言い淀む。しかしすぐさま真那が「本を読みに」と簡潔に答えた。

 それに対して特に深掘りする様子もなく、英斗は「へぇ」とあっさりとした反応を示した。しかしそのまま立ち去ろうとする素振りを見せなかったので、珍しい制服姿に目をやりマシロは話題を移した。


「今日、学校があったんですか?」


 英斗はマシロの視線を辿り、制服姿からその判断をしたことに気がつくと笑みを浮かべて答えた。


「いや、授業はないけど、学校の学習室で勉強しようと思ったらなんかいつもよりうるさかったから、ここに来た。せっかく()()()まで来たし」

「こっち……。――家はこの辺りではないんですか?」

「うん。隣町だから、高校にはバスで通ってる」

「そうなんですね」


 マシロは改めて英斗の制服姿をまじまじと眺めた。漆黒の衣姿に見慣れているので、随分と印象が違って見える。

 真那が通う中学の制服は黒の学ランだが、高校はブレザーだった。今英斗は着ていないが、朝夕の気温が低くなってきた近頃、瑠璃紺の色をしたブレザー姿が登下校するのをたまに見かける。下は暗い色をしたチェック柄のズボン、女子は同じ模様のプリーツスカート、上は薄い水色のカッターシャツで、赤いネクタイやリボンがその上によく映えていた。


 高校の制服は中学のそれよりも大人っぽく見えた。が、英斗は背が高く顔も大人びているので、余計にそう感じるのかもしれなかった。髪も整っていて清潔感があり、目元はすっきりしているが笑うと大きく膨れ上がる涙袋が印象的だった。


「どこで勉強してたんですか?」


 マシロが訊くと、英斗は「あそこ」と言って端の方にある本棚の奥を顎で示す。

 覗いてみると、二階にあるものよりスペースは狭いが、ひとつひとつ間仕切りがしてある学習スペースがそこにあった。


「今は休憩がてら、ちょっと外に出ようと思ったんだ。――よかったら二人とも、一緒にどう」


 英斗に言われ、マシロは少し躊躇って真那に視線を送る。すると、真那もどうしようかと言うように、めずらしく返事に窮する様子を見せた。

 しかし二人の返事を聞く前に、英斗の低く落ち着きある声が


「ま、とりあえず行こうか」


 と言い、二人は促されるまま一旦図書館の外に出ることになった。




   ***




「はい、どーぞ」


 そう言って英斗は自販機で買った飲み物を二人に渡す。真那は冷えた緑茶、マシロはカルピスを選んだ。

 英斗に奢ってもらう形になった二人は礼をし、蓋を開けると同時に口に含んだ。英斗は缶コーヒーを飲んでいて、それがさらに英斗を大人っぽく見せた。


 図書館を出たところには割と大きな人工池があった。鯉が泳ぎ休憩場のようにもなっていて、三人はそこに腰を下ろした。

 マシロがじっと池を覗き込む。何匹もの鯉が泳ぎ、黒、白、(まだ)ら、そして中には金色に見えるものもある。スイスイと優雅にヒレを揺らす鯉達を、マシロの目は吸い付くように追っていった。

 その様子を見ていた英斗がクスリと笑って声をかける。


「エサやってみる?」


 言われてマシロは顔を上げた。

 英斗が指差す方を見ると、鯉の餌箱が設置されていた。子供も読めるようにしているのか、『こいのえさ ひとふくろ50えん』と張り紙がある。


 好奇心はあったが、飲み物も奢ってもらった手前、マシロは素直に首を縦に振ることができなかった。しかし英斗はマシロの反応を確認する前に財布の中をまさぐり始めた。


「あれ、百円玉しかねぇわ。……ま、いっか。ふたつもらお」


 マシロが止める前に英斗は餌代箱に百円玉を入れ、エサ袋を二つ掴み取った。

 そしてひとつをマシロに、もうひとつを真那に差し出した。それに真那は躊躇(ためら)って身を引く。


「……俺は、いいです」

「いいじゃん、やんなよ。ほら、鯉もめちゃくちゃ群がってきてるし」


 そう言って英斗は水中に揺らめく鯉を指差した。餌が近くにあるのを察知してか、徐々に集まってきている。

 半ば押し付けられるようにして、真那は渋々鯉の餌を受け取った。




 餌を水面に落とすと鯉が次々に寄ってくるので面白かった。マシロはリズムよく餌を投げていった。食べ損ねてばかりの小さな鯉に餌を与えたくて狙いを定め飛ばしてみても、大きな体躯(たいく)をした真鯉がそれを押し除けて口を開く。何度やっても、同じようになった。

 真那は無言で餌を投げ続ける。しかしその表情は退屈そうには見えず、なかなか見ることができない光景だと思ったマシロは時たま真那の様子を横目で盗み見るようにした。


「――干田野さんは、大学受験をするんですよね」


 缶コーヒーを飲みながら二人の様子を眺めていた英斗にマシロが訊く。

 

「うん。そうだよ」

「今さっきも、受験勉強をしていたんですか?」

「まぁな」

「真那くんもそうですけど、結構大変じゃないですか?儀をしながら、勉強もするって」

「そりゃ、正直しんどいなって思うこともあるけど。……まぁでも、どっちも中途半端にはできないしな。今が頑張り時なんだなと思って、踏ん張ってるよ」

「頑張り時、ですか」

「うん。ここを乗り越えたら、多分自分は大きく成長できるんだろうなと思ってる。それが今の俺のモチベ。その先にもっとはっきりとした夢とかがあったら、もっとそれが上がるのかもしれないけど。今のところはそこまではないから、とりあえず今は、受験と儀、両方ちゃんと乗り越えようって感じでやってるかな」


 口調は穏やかだが、英斗の言葉は力強いものだった。真那と同じように、気骨を感じる。


「干田野さんは、大学に行った後にどのような仕事に就こうか考えるってことですか」

「うん。謙太郎みたいに、すでに目指す職業があるわけではないな」

「そうなんですね。……僕ちょっとわからないんですけど、大学に行かずにそのままここで働く人って、あんまりいないんですか?みんな大学に行ってしまうんですか?」


 マシロの問いに、英斗は少し考えるふうにしてから答える。


「女子は高卒で地元の工場とか金融機関で働く子がいたりするけど、男で大学行かずにそのまま地元就職ってかなり少ないと思うよ」

「大学に行くと行かないとでは、何か変わるんですか?」

「そうだね。高卒と大卒じゃ初任給が違うらしいし、なんだかんだその先も出世具合が変わってくるって。聞いた話によるもので、一概には言えないけど」

「そう、なんですか……。それで干田野さんも、大学に」

「まぁ、それだけじゃなく企業選びも大事だから、できるだけいい大学入って、勉強して、選択肢増やして、それなりのとこに就職できたらと俺は思ってる。今のご時世、金ならなんとかなるなんて言えないし。自分に子供ができた時、その子供をちゃんと養っていくためには、ちゃんとしたところで働かないと。……痣子もさ、いろいろ守ってるからって国から何か補助してもらえるわけでもないからな。国も知らない世界だから」


 はぁ、とマシロは息をつく。

 ただただ英斗の話に圧倒された。しっかりと将来を見据えた英斗の考えに、自分の世間の知らなさを痛感させられる。

 自分の知らない、複雑な世界が頭に広がっていく気がした。真那も水面に視線を落としながら、しっかりと聞き耳を立てているようだった。


「干田野さんは、家のお仕事を継がないといけないとか、そういうのはないんですか」

「そうだな。うちは父親消防士で、母親も一般企業に勤めてて、継がないといけない家業はないかな」

「そのお父さんと、同じ仕事に就くことはないんですか」

「まぁ、なぁ。小さい頃は、そう思ってたけど。人を助ける仕事、かっこいいなぁとか思ったりして。でも痣子も、言ったら人を助ける役割担ってるじゃん。人には知られてないことだけど。で、もうそれでいいかなって思って。人を助けるっていうのは。俺は、普通の企業で働きたいかな」


 マシロは黙って頷いた。餌をやる手を止め一息つくと、尊敬の眼差しを英斗に向ける。


「――すごいです。本当に。受験勉強をしながら儀もやるということだけでもすごいのに、先のこともしっかり考えてるっていうのが……」


 感心を抑えきれないという様子でマシロが言うと、英斗は柔らかな笑みをマシロに向けた。


「マシロもすごいじゃん。儀をやって、小野さんの食堂手伝って、それがなくても日中稽古してるんだろ?同じようなもんじゃん」

「いや、僕は……」

「舞だって覚えるの早かったし、それこそもう(かえし)までできるんだから。十分すごいって。なぁ?剣」


 不意に英斗が真那を見やって言う。真那は餌を投げながら頷いた。

 マシロは少しはにかんで、近くに寄ってきた鯉にまた餌を落とし始めた。


「でも、干田野さんも、中学生の時から還ができていたって……。緑さんから聞きました」

「んん、まぁでも、それは俺、ギリギリ中学生の頃だったよ。中三の、二月か三月。剣ほど早い段階ではやらなかった」



 突如、勢いよく水が跳ねる音がした。

 見ると、最初少しずつ餌をやっていた真那が最後に袋を逆さにして残った餌を一気に落としたようで、集まってきた鯉が我先にとぶつかり合っていた。

 餌を吸い込もうとする音が、マシロたちの元に密集する。


「何やってんだよお前ぇ」


 水が次々に跳ね、英斗は声を上げながら立ち上がった。マシロも顔の上で笑みが歪む。

 ひとり動じない真那は手を払うと、やっと自ら会話に混ざってきた。


「干田野さん、大学は第二支部方面のところに行くんですよね」

「おぉ、なんだ急に話題振ってくるじゃん。――ていうかお前なんでそれ知ってんの」

「噂で聞いて」

「……剣って、意外とそういう話しっかり聞いてるよな」


 英斗が苦笑を浮かべる。


「……そこって、遠いんですか?」


 訊くと、英斗はマシロの方を向く。


「車で三時間?いや四時間くらいか」

「四時間……」


 体感したことのない移動時間に、マシロはぼんやりとした声を落とす。どれくらい離れているのかイメージは湧かなかったが、きっと随分遠いのだろうと思った。


「じゃあもしそこに行くとなったら、ほとんど会えなくなってしまうんですね」

「まぁ、そうだなぁ。そうそう簡単には帰って来れないな」

「……大学って、何年あるんでしたっけ」

「四年かな。通常でいけば」

「四年……。じゃあ初音さんも?」

「ん、あいつもそうだな」

「牧さんは、建築の専門学校だとか」

「んん?どうだったかな。専門だったか、大学だったか……。忘れたな」


 英斗が少し首を傾けて答え、


「じゃあ皆さん、大体四年後には戻ってくるんですね」


 マシロが何げなく言った後だった。それまで間断なく続いていた会話が、突如として途切れた。

 英斗からの返答が返ってこなくなり、マシロは鯉に落としていた視線を英斗の方に向ける。真那も同じだった。じっと、英斗を見据えている。

 英斗の若干気まずそうな声が浮かんだのは、束の間沈黙の時間が流れた後だった。


「……俺、大学卒業しても、多分ここには戻ってこないかな」


 その言葉に、マシロはしばし瞠目(どうもく)した。喉が詰まるようになって、声が出なくなる。隣にいる真那を見てみると、真那も唇を結んでいたがそれほど驚いているようには見えなかった。

 言葉を失ったマシロを見やって、英斗は慌てて言い添える。


「痣子の世界から離れることはないよ。……ただ、他支部に移ろうと思ってるだけ」


 それを聞いても、マシロの心は落ち着きを失ったままでいた。声にならない声が、マシロの口から漏れる。その顔が何度も、ほぼ無意識に真那の方に向いたが、真那は表情を変えず黙って英斗を見つめるだけである。

 そんな真那を見返すと、英斗は軽く苦笑を漏らした。


「剣、もしかしてこれを確認したくて聞いたのか?」

「……はい」


 訊かれ、真那は浅く頷く。英斗は薄い笑みを顔に浮かばせたまま続けた。


「――ずっとここにいるのはどうかなって、ちょっと前から思ってはいたんだよね。違う場所で生きてみたいっていうか。……もちろん、ここが嫌いなわけではないよ」


 マシロも真那も、英斗を見つめたまま閉口していた。水の中の鯉だけが、自由気ままに泳いでいる。

 ゆったりとした時間が流れる中、英斗が真那に視線を定める。


「剣は?もう大学まで決めてたりしてんの?」


 訊かれ、真那は黙ったまま首を横に振った。

 そっか、と英斗の優しげな声が浮かんだ後、ぽちゃん、と水が小さく跳ねる音が次いで浮いた。


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