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三題噺もどき2

醜い朝

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくきゅうじゅう。

 



 幽かに聞こえる電子音に、意識が引っ張り上げられる。

 眼は開かない。

 手探りでその原因を探し、なんとなくの感覚で眼前に持ってくる。

「……」

 ほのかな灯りを瞼越しに感じ、うっすらと目を開ける。

 適当に画面に触れると、それだけで音はとまる。

 成れと言うのは恐ろしい。これがいい事かどうかは知らないが。

「……」

 画面を下に向け、ぱたんと枕元に置く、

 横に向けていた頭を回し、天井に向く。

 ぼんやりとした視界の中。

 水色のような白色のような、よく分からない。けれど、清廉さを感じるような不思議な色合いが広がっている。

「……はぁ」

 こぼれる溜息に、呆れを感じる。

 まだ、起きただけなのに、どうしてこんなにだるいんだろうなぁ。

 毎日同じことの繰り返しで、日々に疲労なんてあるわけないだろうに。

 たいしたこともしていないくせに、なんで溜息なんて漏れるんだろうな。

「……」

 ただこの世界に、この現実に、息を吹き返しただけでこの疲れとは。

 もうなんだか、さっさとどうにかなってしまった方がいいと思ってしまう。

 それも無入りはないと言ってほしいものだ。

 自分なんて、いる意味も生きている意味もないんだから……。

「……ふぅ」

 寝起き早々よくない思考に傾くのはよくないなぁ。

 それはよくない悪癖だと指摘されたことがあったのを思い出した。

 そうは言っても、呼吸と同等にやってしまうから癖なのであって、どうにもできない。

 なんとか、切り替えをしようと思えるだけ、マシだと思っているんだが。

 ―吐き出した呼吸と共に、思考を吐き出す。

 さて。

「……」

 体をゆっくりと持ち上げ、足をベッドから降ろす。

 身体が小さく震えたが、ここ最近は毎日のことである。

 ようやく朝は、それらしい寒さになってきた。

 急に冷え込んだのは誤算だったが、今年はずっとそんな感じだったしな。


「……ぁ」


 さっさと体を動かして色々と準備をしようと思った矢先。

 目の前にあった鏡に、目が止まった。

 壁際に置いている全身鏡だ。

「……」

 桃色の寝具の上に、座った、黒い影。

 長い髪をストレートに落とし、ぼんやりとこちらを見ている、

 無表情で無冠所で、何もかもが抜け落ちたような顔。

 真黒な衣服からはみ出している肌は、血の気が抜けたような色、病的なまでに白く見える。

 ―それでも美しいと思える何かがそこにいた。

「……」

 何もかもを捨てたような。

 魂すらも抜け落ちたような。

 人形のような姿がそこにあった。

 ―それが鏡に映る自分だと気づくのに数秒かかったのは、はたして自惚れととるべきか。

「……」

 誤解を招くような形になっているが、私は私を美しいと思っている人間ではない。

 人形のようにかわいいと思っている人間でもない。

「……」

 自分のことは嫌いだし。

 生きるべきではないと思っているし。

 美しいどころか、醜いとすら思っている。

 だから、隠すように化粧をするし、見えないように衣服を選ぶ。

「……」

 勘違いもいいところだ。

 どうしてこんな自分を美しいと思ったんだろうなぁ。

 思考が寝起きであやふやなんだろうか。

 それとも視界がぼんやりしているせいで、はっきり見えていないのがよくないんだろうか。

「……」

 これ以上は見たくもない。

 ベッド脇のローテーブルに置いている眼鏡に手をかける。

 これでようやく視界が、思考がはっきりする。

「……」

 ぼさぼさの髪に、よれよれの衣服。

 元々小さいのに、度入りの眼鏡のおかげで、更に小さくなった目。

 最近できたニキビまではっきり見える。

「……」

 ほら。

 やっぱり。

 美しくなんてない。

 醜いだけの自分。

「……はぁ」

 もういいか。

 確認作業は。

 朝からすることではない。

 さっさと動いて準備をしないと。

「……」

 醜い自分を隠すために準備をしていかなくて。






 お題:桃色・無表情・誤解

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