第四十二話 メインディッシュ(推敲版)
エヌルダ鋼橋。
それはユメール冥部(※北部)に広がるハング半島と海上にポツンと浮かぶルシル島を繋ぐ世界屈指の巨大さを誇る橋。
雨の日も風の日も、いついかなる時もユメールの国々を見守ってきたその橋は、今日この日においては予想外の災害に見舞われる。
[グゥォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!]
巨大な咆哮がユメール全土に響き渡る。
その瞬間、僕とスシクラス、イヴァイリオン、そしてマステガローは臨戦態勢をとった。
「警戒しな、マステガロー!!!
こやつは我が主でさえ手に余ると放棄した海の怪物だ!!!
この港を死守して、こやつを海に沈めるよ!!!」
「いやいやいや!!!
こんなデカブツと戦えるのかよ婆さん!!!
こりゃあ流石に規格外過ぎるぜ!!!」
マステガローが懸念した通り、目の前の海に顔を浮かべている怪物は、全長がルシル島に匹敵するほどのサイズを誇っていた。
いやいや、マジで化け物じゃねえかよこれ!!!
【島の面積にも匹敵するサイズ感......面白い。
久々に腕がなるかもな、コレが相手なら......!】
あれ?
なんか、スシクラス、ワクワクしてない?
久々に腕がなるとか、なんか思ってたキャラと違うんですけど?
「全員気をつけろ!!!
コイツは全身に魔呪の毒を帯びている!!!
迂闊に近寄り過ぎるなよ?
俺っちの指示に従え!!!」
「あれ?
その理論じゃ、近接メインの僕、戦えなくねえか!?」
マステガローの指揮のもと、海の怪物ドングラゲットの討伐が開始する。
僕自身でさえ経験のない巨大な怪物との戦いは、どこか心が躍るものだった。
[グゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!]
まるで犀のような風貌をした海の怪物は、口から謎の波動を放ち周囲の海を大きく揺らす。
コイツは、災害級の怪物だ......!
近くにいるだけで鼓膜がイカれる......!
面白え......!
渾身の装填された拳、見せてやるよ......!
「おっと、その前に......!」
僕は突然とあることを思い出し、少年レウギのそばに駆け寄ると、懐からアレを豪快に取り出した。
「レウギ、いざという時はコイツで身を守れ......!」
「これは......?」
「知人から貰った武器だ。
自衛用に持っておけ。
いざという時、自分を守れるのは自分だけかもしれないんだ!」
僕が少年に手渡した物、それはユメールに入る前に魔導商人を名乗る者から手渡された謎の銃器だった。
正直言うと、武術で敵に対抗する僕からしてみればこの武器は過ぎた物であったために、こうして少年に譲渡した次第である。
少年は礼儀正しくこくりと頷き頭を下げると、僕から銃を受け取り一目散に港から離れて行く。
さて、おそらくこの国での締めくくりになるであろう巨大怪物を、これから平らげるとするか!!!
「魔呪防壁」
猛毒の魔女イヴァイリオンは港という防衛線を強固にするため、魔呪の力で海岸の真上に緻密な防御の鉄壁を用意する。
怪物の咆哮で大きく揺れる海面は、次第に何重にも重なり津波となって海岸へ押し寄せる。
魔女イヴァイリオンは必死になって防衛線を維持する取り組みを実行していた。
「ぐぬぬぬぬぬ......!」
「婆さん!!!」
マステガローは魔女の様子を見つつ、最大限応戦する用意を整える。
こんなデカブツ、普通なら倒す見込みがないと考えるのが普通だ。
だが......心配無用だ。
策なら、ある......!
今まで何年武人やってきたと思う?
今まで倒すのが困難だと言われていた敵だって自分で倒してきたんだ。
たかがデカいだけの怪物など、僕の敵じゃあないよ。
【ルマ、倒す策はあるかい?】
スシクラスは静かな視線を僕の顔に向けると、そのまま左手を顎と同じ高さのあたりで構える。
問いを投げられた僕は、自信を持ってこのように答えてみせる。
「あるよ......!
とっておきの武器があるんだ......!
懐にさえ入り込めれば、勝機はある......!」
【分かった。
ならば私が助太刀しよう。
この勝機に助っ人がいないのは心許ないだろう?】
「ああ、頼むよ......!」
暴走する怪物ドングラゲットのすぐそばで巨大なエヌルダ鋼橋が軋む。
ミシミシとヒビが入り、今にも崩れ落ちそうなその橋に僕は足を踏み入れる。
勇気の一歩。
一歩間違えれば海へドボン。
巨大な渦を描く海流に呑まれ、死ぬことさえ決してないわけではない。
あの怪物は縦横無尽に海の中で暴れ回っている。
あの中で懐に忍び込むのは至難の業だぞ.......!
とその時、僕の目の前でドングラゲットに接近するスシクラスの姿が映った。
「スシクラス.......!」
【私が水の道を繋ぐ。
君は信じて海に飛び込め.......!】
それは、霊陽神として格式高いスシクラスによる直々の援護だ。
本来は決して交わることのない一介の武術家と皇位の悪魔による連携は、巨体で暴れ狂う怪物をいとも容易く沈めるポテンシャルを秘めていた。
【水の道・八の輪】
ルシル島近辺で猛る海。
ほぼ無人町となっていた港付近の町を魔女が守り、見張りと指揮をマステガローが担当。
スシクラスは僕の道標として道を生み出し、僕は必殺の拳を密かに装填する。
即席の、しかも敵同士だった各々二人がこれほどまでに一致団結するなど、誰が考えられただろうか?
いや、ない。
僕らは、ただ目の前のやるべき問題に取り組むだけだ......!




