第四十一話 エヌルダ鋼橋の怪物(推敲版)
マトバ街で交戦を終えた五人は、とある問題を解決すべく少年のレウギとともに『エヌルダ鋼橋』へと足を運ぶ。
そんな六人がともに行動をとる理由として、マトバ街を出立する前に砂漠の魔女が発した一言が大きな要因になったのは間違いのないことだろう。
僕らは魔女の要望をいわば確認する形で、六人の集団でエヌルダ鋼橋のあるハング半島へと向かうことになっていた。
「「アメトス、ワタシャがアンタと協定を組む上で一つ解決しなければならない問題がある、と言ったらどうする?」」
【【一体、どのような問題が?】】
「「ほんとはワタシャがなんとかするつもりだったんだけどね。でも、負けた以上、命を握られた以上はアンタらに託す他ないだろ?
悪いが一つだけ、ワタシャの協力を得る前に願いを聞いておくれ」」
ーーー
そう言って連れてこられたのが、この目の前にあるエヌルダ鋼橋、つまり例の問題とやらがあるハング半島だ。
「見えるかい、あそこの橋が?
あそこのデカい橋の先端にルシル島と呼ばれる島があるのじゃが、実はそこにとある怪物が封印されていての。
もうすぐ封印が解けるのじゃ」
魔女の指さした先、エヌルダ鋼橋の先端部に魔女の言うルシル島が見えるのは確認した。
しかしさっきから妙な気配がここハング半島にまでビシバシと伝わってくる。
なんだ、この異質な空気は?
マトバ街からずっと保護しているレウギも僕の背後に隠れてずっと怯えている。
彼自身がこの雰囲気以前に街を襲った魔女らを恐れているのは明らかだったが、それでもこの怯え方は元々何かあったとしか思えないくらい震え方が尋常ではない。
普通じゃない何かが、このエヌルダ鋼橋周辺にいるとでもいうのか?
【一体、どんな化け物が?】
「三魔耀と呼ばれる存在さ。
銅魔、銀使、金霊......そのうち銅魔に該当する海の怪物『ドングラゲット』。
どうか、其奴を討ち倒しては貰えぬか?」
ーーー
三魔耀。
それはかつて地上を席巻していたという三種類の魔物の名前。
銅像の魔物『銅魔』、銀河の使い『銀使』、金貨の精霊『金霊』。
この三つの魔物の名を、古来より三魔耀と人は呼ぶ。
「三魔耀と三つの民族の戦争は今では伝承のみ語り継がれているそうじゃ」
【三魔耀か。
もしや、街の毒霧も銅魔対策によるものか?】
「元々監視もこの国での役目には含まれてたからねえ。
毒霧は当初の予定には無かったけど、復活したヤツの暴走先がこの街に向かないようにはしておきたかったのさ」
喫煙具に火をつけ、魔女は悲壮な顔でエヌルダ鋼橋の先端を眺める。
彼女の目前には廃れた港と巨大な海が広がっていたが、彼女の穏和な目つきとは裏腹に海面は酷く荒れ狂っていた。
「.......なあ、婆さん。
俺っちは婆さんに付くがよ、太陽軍からコイツらに寝返る気なのか?
正気か、婆さん?」
「......それ以上は野暮だよ、マステガロー?
ワタシャは命懸けの綱渡りを行ってるんだ。
もしイヤなら逃げ出しな」
「まさか!
俺っちは婆さんに救われた。
恩人を見殺しにしてオチオチ逃げるなんてみっともない真似するかよ!」
「ふん、勝手にしな......」
猛毒の魔女は左手から黒く禍々しい魔呪の塊を生成し、海へと放出する。
どうやら、例の怪物とやらを解放する手筈らしい。
これらの話はマトバ街を出る途中で散々打ち合わせを行なっており、ドゥートスは毒霧除去の名目で一人単独行動をマトバ街にて開始していた。
そして魔呪の塊がルシル島周辺の海へと到達した時、怪物は突如として海面にその姿を現した。




