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失敗作Ⅰ  作者: 一鸞一
第二章 悪夢の水滴
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第三十九話 我々の仕事(推敲版)


僕は久々に人間の死を目の当たりにする。

普段見慣れたはずの光景が、幼い頃に嫌でも目にしたその光景が、焼きついて、フラッシュバックする。


コイツは......きっと、悪いやつではなかったのだ。

人の死にはそいつが普段思っていたこと、もしくは人生そのものが現れると言われている。


そして僕が今抱いている感情は、きっと彼が悪人ではないことを指し示しているかのように思える。


コイツは、きっと人のために生きていたのだ。

それを、僕らはぶち壊してしまった。

正面から、冷酷に。


「ハァ、ハァ......マステガ、ロー......お前、ワタシャを置いていくなんて、馬鹿に、しよって......!」


魔女は渾身の一撃で腰をやられながらも、懸命に僕らが立ち塞がる彼の遺体に足を運ぼうと歯を食いしばる。


「おのれ......小童ども......!

ワタシャらを、殺すというのかい......?

ワタシャの道を、お前たちは阻むのかい?」


【......我々に喧嘩を売ったのはそっちが先だろう?】


「我々、か......そうやってワタシャ一人を倒したところで状況は変わらない。


現実は非情なんだ......!

圧倒的な個を前に、お前らは戦えやしない......!」


「悪いな婆さん。

それを打ち砕くのが、僕らの仕事だ」


「......ヒーッヒッヒ!!!

苦難の道になるよ?」


「承知の上さ。

それが、喧嘩を買うってことだろう?」


「......骨のある小僧だ。

そうやってお前は、前に進んできたんだね......ならば、ここで終わりにしよう......!」


そう言って魔女は不意打ちを決めるかのように、膨大な毒の液体をこちらに向かってぶちまける。

どうやら、タダで済む気はないようだ。


「往生際が、悪いな......!」


僕が満身創痍で動かない体を懸命に動かそうと試みた、その瞬間、アイツは突然の雨とともに空からやってきた。


雨琉錦スティーラン


自分の手のひらサイズもある巨大な雨粒が一斉に僕らの頭上に降り注ぐ。

この雨、この力は、まさか......!


【ようやく来たようだな。

待ち侘びたよ】


【すまない、手間取ったよ。

ちょっと予想外の事態が起きてね】


ドゥートスの視線の先、そして僕の視線の先にいたのは、情報収集を終え僕らを支援しに来た悪魔の聖地の悪魔だった。


「まさか......あれは、アメトスかい!?」


「助けたということは......アイツが、スシクラスか......!」


【やあ、随分と酷い状態だね、ルマ】


スシクラスはふわふわと下降しながら僕らの側へと寄ってくる。


冷静で、それでいてどこか神秘的な雰囲気を醸し出すその悪魔は、まさしく霊陽神という名前に相応しい張り詰めた空気をその場に生み出していた。


「......アメトス。

なぜこんなところに、あやつらが......!」


【はじめまして、砂漠の魔女イヴァイリオン。

私は聖地『悪魔の森』より訪れたスシクラスと申します。


お見知りおきを......!】


「......一体何の冗談だい?

アメトスが、こんなところに何の用なんだい?」


【私の用件は一つです。

あなた方太陽軍の面々を、正面から叩き潰しに参りました】


「......ワタシャらに、喧嘩を売るのかい......?」


【......あなた方も、我々の森で随分と暴れてくれたでしょう?】


「......しかしアメトスが直接動くなんて。

それほどまでに恐れてるのかね、ワタシャらを......!」


【いえ、まったく?

我々の目的はあくまで我が主を守ること。


あなた方は運が悪かった。

本当にそれだけなのですよ】


運が悪い?

アメトスの目的って、太陽軍の打倒じゃないの?


何その意味深な目的。

我が主って、誰?


「......運が悪いじゃと?

話が読めないのう。


もうちょっと、ワタシャらに分かりやすく話しては貰えんかの?」


【......不要だ】


魔女の申し出をいとも簡単に拒絶したスシクラスは、まるで別人が体に宿ったかのように唐突に人さし指の指先から水圧のレーザーを放つ。


水のレーザーは魔女の心臓を一撃で貫き、魔女は呆気なくその場に倒れてしまった。


「お、おい!!!

スシクラス、お前!!!」


血塗れになり地面に沈む魔女。


「何という容赦の無さだ」と僕が唖然としているところに、スシクラスはふわふわと、そして平然とこちらに浮遊しながら足を運ぶ。


【ルマ、これは戦争なのですよ?

たしかに生かしておけばそれなりの情報を聞き出せたかもしれません。


ですがお忘れなく。

太陽十三天聖ヒジラムスの面々は我々にも引けを取らない力を一部は有している。


彼女を野放しにすれば更なる犠牲が生まれるだけです】


「そうじゃない!!!

アンタは、こんな簡単に人に手を下せるのか?

聖地の悪魔って、一体何なんだ!!!」


【下せますよ?

聖地の悪魔はもとより、不要な勢力を排除してきた均衡維持者です。


当然、非情な手段にもお構いなしに手を染めなければならない】


「だからって......ドゥートスもそうだが、少々残酷すぎるだろ!! 

相手は老婆とはいえ女性だぞ!!!」


【我々の戦いに性別の区別などありません。

全てが公平で、非情に裁定を下す。

それが、我々の仕事なのですよ】


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