第三十七話 毒の鉄塊(推敲版)
僕の居場所がユメールにあるとバレれば、本軍の連中が僕らを追い始めるかもしれない。
それだけは避けなければ......!
「まったく、相変わらずだねえ、マステガロー。
ワタシャ心配になるよ。
お前の正々堂々さと公平さはいつか必ずお前の足元を掬うことになるんじゃぞ?」
「婆さん、そんなこと最初から分かりきっててやってるんだぜ、俺っちは。
それに、正々堂々戦わない奴は男じゃねえんだ。
たとえ相手がそうでなくとも、俺っちは戦士としてお天道様に顔向けできない卑怯な戦士になどなりたくないんだ。
だからこそ、俺っちは一つ一つ、これらの試練と向き合う」
「やれやれ。
なら好きにしな。
ワタシャの馬鹿な教え子を舐めるなよ、若造ども......!」
「......好きにしろ。
僕はお前らを速攻で倒す......!
手加減は、しない......!」
僕は自分の肉体に秘められた爆発的な脚力で瞬時にマステガローに間合いを詰める。
拳を脇腹の横に構え、強烈な左拳のフェイントを仕掛けてみると、マステガローは一気に汗を噴き出し大袈裟に剣を抜き防御を取る。
が、左拳を瞬時に引っ込めた僕は彼の背中側を目にも止まらぬ速度で半周回り、そして左脇腹辺りを目掛けて本命の右拳を繰り出した。
「がぁっ!!!」
僕の拳はマステガローの脇腹に鋭く命中する。
そして殴打をもろに喰らったヤツを放置して、僕は毒雨を生み出した元凶に立て続けに左フックをお見舞いしようと試みたその時、魔女の手に持つ杖から予想外の攻撃が飛び出してきた。
「毒船」
僕は不意に現れた巨大な毒の塊をもろに受け、負傷を負う。
毒船の衝撃で勢いよく空に吹き飛んだ僕であったが、僕は冷静に空中で体勢を立て直し、そして華麗に近くの建物の屋根上に着地した。
「ぐっ......毒の鉄塊か......!
なんて破壊力と硬度だ......!」
【ルマ!!!
あまり毒雨を受けるな!!!
傷口から体内に侵入するぞ!!!】
......傷口?
僕のどこに傷口があるってんだ......?
僕は全身をくまなく見渡し、そして左手の指先から赤い液体が垂れている事実に気がついた。
「......なるほど、今の攻撃で傷を負ったか」
「ヒーッヒッヒ......!
左腕に傷を負ったね......!
さあ、あとはじわじわと嬲り殺しにしてやろうか......!」
僕は傷口から黒の液体がじわじわと自身の体内に侵食していることを実感していく。
なるほど、これが毒雨か......!
この黒い雨、あんまり浴びすぎるとヤバそうだぞ......!
左腕の感覚が、すでに半分くらい消えて無くなっている。
このままでは、精神が汚染されるのも時間の問題だぞ......!
左腕が痙攣し、体が言うことを聞かなくなってきている。
これは、相当厄介な相手だ。
「嬲り殺しか、上等だ。
毒と俺の理性、どちらが先にやられるか、勝負といこうか......!」
僕は自信満々に笑みを浮かべる。
こんな非常時だというのに、僕の心は笑っている。
そうだ、こういう逆境にこそ、僕が真に求めている何かがあるものだ。
あの婆さんを倒し、この国を解放してやるよ......!
僕は密かにそう意気込み、屋根上から勢いよく飛び降りた。
あの婆さんは手練れだ。
舐めてかかればこっちが死ぬ。
ならば、その逆境を僕が力に変える......!
【全力で援護するよ、ルマ......!】
ドゥートスも僕の攻撃に合わせ墨色のエネルギーから黒色の剣を生成する。
紛れもなく、それは『シェイプ・ディテール』だ。
と、その時、ドゥートスの変幻自在の黒剣を前に一人の男が立ち塞がった。
「俺っちを忘れるなよ?
お前の相手は、この俺っちだ......!」
【......廃棄王、マステガロー!】
ドゥートスは甘んじて生み出した黒剣の柄を握り締め、マステガローの攻撃を受け止める。
悪魔とはいえ、コイツはあらかたの近接戦もこなせるようだ。
「お相手願おう。
流浪の叛逆者......!」
【叛逆ではない。
ただの革命だ......!】




