第三十四話 立場と定め(推敲版)
虐め。
それは弱肉強食が横行する動物の世界ならではの営み。
強者は無意識に弱者をいたぶりたいと思う、そんな道徳心が芽生えない限り永遠に解決することのない禍の壺が虐めだ。
虐めの本質は虐められる側に立たなければ決して分かることはない。
それを僕は知っている。
残虐行為の裏側でどれほどの痛みが自分を襲うのか、そして弱い者に訪れる末路は何なのか、僕は武術の師からそれらの本質と対処法について聞いたことがあった。
「「いいか、ルマ。
虐められるのには理由がある。
一見虐める側にだけ非があるように見えるのが虐めだが、実は虐められる側にも問題はあるんだ。
虐められる側はそれを理解しなくちゃならない」」
「「でも、虐める側が悪いのなんて、覆すことは絶対にできないはずだよ、師匠」」
「「当たり前だ。虐める側の人間など人間のクズだ。
そいつらが虐められていた側を一方的に咎める権利など持っちゃあいけねえ。
そんなのは常識だ。
だが、虐められる側も自分を変えない限り、永遠に虐めのループからは抜け出せない。
自分が根底から変わらなきゃ、周りの世界は変わらないんだ」」
「「自分が変わってはじめて周りは変わる。
他人は全てを変えられないので変化を強要するな。
自身の変化はアピールではなく結果で示せ。
師匠のメモにそう書かれてたよ?」」
「「......ああ、やればできるじゃないか......!
ーーー
......。
そうだよね、師匠。
変わるべきは、僕だ。
僕はいつも勇気をもって前に進む努力をしてきた。
誰もが自分を変えられるわけじゃない。
でも、それを変えるのが人間の仕事なんだって、ムンガ師匠は言ってたよね。
ああ、そうさ。
革命は、目の前の問題と対峙して初めて始まるんだ......!
僕は目の前の子供を助けるため、男らの前に立ち塞がる。
男たちは突然現れた僕に一瞬動揺し、そして強気に言葉を発した。
「あ?
なんだ、お前は?」
「貴様、ここがどこだか分かってるのか?
妙な格好しやがって。
ここが太陽軍植民地だと分かっててきたのか?」
強き者が優遇され、弱き者が排斥される。
そんな世の中が間違ってるとは、僕は思わない。
だが......目の前のこの景色は、非常に不愉快だ......!
「ああ、分かってるさ。
お前ら、僕と拳を交わす気はあるかい?」
「......は?
何言ってんだ、オメエ。
俺らが誰だか分かってて、挑発してんのか?」
「ギャハハハハハハ!!!!
バカ、言わせとけ!!!
コイツらは現実が見えてない大馬鹿だ。
それを身をもって教えてやればいいのさ」
なるほど、コイツらか。
やはり、ドゥートスのことは視認できているようだ。
それより......。
「誰に、身をもって教えるって?」
力とは導くためのものだ。
闇雲に傷をつけて闇を増やすためのものではない。
時として、人は温情をかけるべき場面があるはずなんだ。
コイツらはきっとそれを軽視している。
なぜならコイツらは怒りで虐めているのではない。
楽しんでいるのだ。
弱い者虐めをまるで娯楽のように考えている、そんな人間の言動によく似た言葉を発している。
さあて、本題はそこじゃねえ。
弱者をいたぶるのは別に人が勝手にやればいいことだ。
その全てに関与するつもりは一切ない。
だが、コイツらが娯楽で人をいたぶるのなら、強者にいたぶられる覚悟を持たなくちゃならねえ。
「交戦だ......!
この拳で、突きつけてやる......!」
僕は日頃は見せない邪悪な笑みを浮かべる。
狙いは急所だ、容赦はいらねえ......。
極悪は、更なる極悪によって消されなくちゃあバランスは保たれない。
僕はまるで悪人を演じるように役に没頭する。
そうだ、今の僕は極悪のスナイパーだ......!
一人残らず、あの世へ送ってやろうか......!
ま、嘘だが......。
「太陽の剣の錆になれ、馬鹿ども!!!」
僕は奴らから距離を取り、両足のアキレス腱を伸ばす。
いざという時に怪我をしないための準備運動だ。
奴らを確実に仕留めるために、一時の時間をも取りこぼさないよう静かに牙を磨く。
絶対に仕留める。
撃ち漏らしはしない......!




