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失敗作Ⅰ  作者: 一鸞一
第二章 悪夢の水滴
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第三十二話 ヒポクロス(推敲版)


「おい......なんだよこの見窄みすぼらしい服装は?

逆に目立っちまわないか?」


【いや、多分これが最適解だよ。

貧相な格好とは言うけども、貧乏な身なりというのは得てして魔除けになるものだ。


貧乏神が魔除けの力を秘めてるように、貧相な格好にも人を寄せ付けない独自の雰囲気があるものなんだよ】


「なるほど、人除けか。

それで貧相な格好をというのなら、たしかに納得かもしれない」


しかし、貧乏神が魔除けというのは初めて聞いたぞ。

一体どこの理論なんだ、それは?


【ただ、これらの作戦を看破される場合は別の格好を取るのが得策だ。手の内がバレている相手に同じ手は何度も通用はしないからね。


君も、浅はかな考えで貧相な変装ばっかりしちゃダメだよ?】


「やるか!!!

僕は洒落しゃれた服の方が好みだ!!!」


僕はデンローツに手渡された耐毒の塗り薬を全身に塗りたくると、ユメール王国全土を覆う城壁を一気に飛び越え、見張りにバレないようにユメール王国へと踏み入った。


「......しかし、随分あっさりと侵入できたな。

もっとゴタゴタがあるものだと思っていたが......」


【おそらく、監視は最低限で事足りると判断したんだろう。


見て、ルマ。

この霧がそれらに成り代わるこの国の防衛システムだ......!】


僕らがユメール王国で目にしたもの、それは人一人いない街に紫がかった大量の霧が国中に広く散らばる、そんな悪夢そのもののような世界だった。


「もしかしてこれが、汚染毒か......!!」


【ああ、間違いないよ。

さっきから僕の体にも少しずつ干渉し始めている。


これは洗脳毒だ。これがこの国の防衛を担っているんだ......!】


「監視のための兵士は要らねえってか?

随分と杜撰な警備体制だ。


もしくはよっぽど、この国の防衛に自信があるのかだ......!」


【あるだろうさ。

なにせ、彼女は魔女だ。


生半可な武術家はおろか、そこらのS級兵士さえも凌ぐだろうね】


「S級、兵士?

なんだそれ?」


【太陽軍の兵士の階級だよ。


太陽軍は階級ごとに与えられる年俸と武器の色が大きく変わる。だからこそ、太陽軍の兵士たちの階級争いは熾烈を極めるものらしいんだ】


「へえ、つまり、それだけ強い奴らが太陽軍には揃ってたのか? じゃあ、あの時僕らを襲ったのも......」


【いや、あれは階級制の兵士とはまた違う兵士だ。

そして僕にとって一番誤算だった敵。


黄金の鎧に並外れた身体能力と耐久力、あれは間違いなく『人造人間ヒポクロス』だよ】


人造人間ヒポクロス!?

ってことは、まさかあの!?」


【ああ、古代ローヌ人が魔呪によって完成させた、世紀の破壊兵器だよ】



ーーー

ーーーー


人造人間ヒポクロス、それは遥か太古の時代、『星の管理者ローヌ』と呼ばれる神様によって造られた()()()()()


人々が銅魔と呼ばれる怪物に怯えていた時代、人々を救うべく三柱の神が地上に降り立ったと言われている。


まず一人目はルドガリア、彼は地底に国を作りルドガリアの民と名付けた者たちを匿い地上の魔物と交戦した伝説を持つ。


そして二人目の神こそ、古代ローヌ人に人造人間ヒポクロスを貸し与えた星の管理者ローヌであった。


ローヌは自身の傘下に下る民らをローヌの民と名付け、労働という対価と引き換えに星を守る力を持つ『人造人間ヒポクロス』を貸し与え、民らに絶対的な防衛を約束したとされる。


ーーーー

ーーー



人造人間ヒポクロス、僕も名前だけは聞いたことがある。


おそらく、神話絡みの書棚を漁っていれば嫌でも耳にする名の一つだろう。


かつてローヌと呼ばれる神によって創造された、神人かみびと


神であり人の造形を持つ彼らは、魔呪と呼ばれる力を動力とし、古代ローヌ真国と呼ばれる歴史ある国を支えたと言われている。


【太陽軍は古代ローヌである現エッドロ真国を支配下に置くと、本格的な世界侵攻を始めた。


その最たる理由と言われるのが、その人造人間ヒポクロスの獲得だ】


「そうか......!

ヒポクロスはエッドロ真国が管理していた!

それでエッドロ真国を狙ったのか......!」


【だが、エッドロ真国を侵攻するのは当時は相当リスキーな行為だったんだ。


だが、太陽の王は成し得てしまった。

そこからだ、世界の風向きが太陽の王を中心に吹き荒れるようになったのは......!】


僕とドゥートスは現地の状況を確認するために、かつて世界一綺麗な街と称された『マトバ街』に向け歩き出す。


隣のドゥートスはというと、グリーンの瞳にサラサラと靡く黒髪を携え、貧相な服とは相反するような人目を引くような滲み出る綺麗さを周囲に醸し出していた。


「お前、そのナリの割に美形すぎないか?

逆に目立たない、それ?」


【目立たないよ。

昔はこの格好でよく忍んでいたものさ】


本当かよ、それ......。

単純に見逃されてただけとか、ないの?


【本来植民地というのは一定の見張りが散らばっているものなんだけどね。


おそらく、この国は危険すぎて見張りどころじゃないんだろう】


「ああ、この毒霧には誰も近寄りたくないのが本音だろうさ。逆に、今の僕らからすれば侵入するにはうってつけとなったわけだが......」


【でも、油断はできないよ?

どこに敵が潜んでいるかなんて分からないんだから】


そして僕らは濃い毒霧の中、マトバ街に辿り着く。

そこで僕らが目にしたもの、それは想像以上に悲惨でグチャグチャに汚されたマトバ街の姿だった。


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