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失敗作Ⅰ  作者: 一鸞一
第二章 悪夢の水滴
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第二十四話 異変考察-続(推敲版)


「「そういえばね、地底世界の天井に妙な穴が空いていたのよ。


本来この地底空間は強固な結界装置によって埋もれるのを防いでいるんだけど、天井の結界の一部を調べると針の穴のような破損部位が確認されたのよ」」


ウルヴィナムは言っていた。


地底空間を形成する結界装置の本体があの玉座裏の隠し部屋にある装置であること、そして結界装置が作った空間を維持するための膜は本来は結界装置の本体が壊れない限り破損するのはあり得ないとのことだ。


僕はその時初めてルドガリア地底領の遺構を舐めていたという事実を認識した。


「「結界の、破損部位?」」


「「うん。

まるで熱で溶かされたかのようにドロドロになってたの。


おかげでその穴から地上の岩が転がり込んで、そのままルドガリア城に衝突しちゃったのよ。


ほんと、こんなことが起こるなんて想像だにしなかったわ」」


「「もしかして、それに乗じてガンナットは城に辿り着いたってことか?」」


「「十中八九そうだと思うわ。

ただ、彼自身この地底領に関する情報を握っていたかどうかは不明なのよ。


本来この地底領は忘却の神の力によって霊陽神アメトスや一部の偶像神ムーナス以外がその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずなの。


だから普通はこの地底領の存在に違和感を感じることも、ましてや認識することさえできないのが普通なのよ。


それなのに彼は、君の後を追って地底領に直にやってきた。

普通なら絶対にあり得ない話よ」」



ーーー



普通なら絶対にあり得ない話......彼女はたしかにそう言っていた。


ならば、なぜそのあり得ないが起こり得てしまったのか?


僕はそれを考えずにはいられない。

しかも今回の被害者は僕の相棒である影の悪魔『ドゥートス』だ。


これが何者かの策謀であるのなら、どうして結界装置の破損をわざわざ狙うんだ?

この地底領に直に近寄れない理由でもあったのか?


その割にはドゥートスが地面に引き摺り込まれたのは謎だ。


......分からない。

考えれば考えるほど沼にどっぷりと嵌ってしまう。


何がどう関わっているのか、その関連性がほとんど見出せない状況だ。


頭上の爆音、波動マディオコンパスの異常、ドゥートスの消滅......。


爆音は上から、ドゥートスの消滅は下から。

これらは同時に起こりながら、なおかつお互いが正反対のベクトルの位置で発生している。


これらに関与するもの......どちらも地底空間の上端と下端の部分で行われていた?


つまり、距離的にはかなり離れていることになる。

地底領はかなり広い空間だったからな。


だからこそ、そこが不可解なのだ。

他の可能性として考えられるのは太陽軍の追跡者がいた可能性があることだ。


もし、太陽軍の何かしらの人物が地底領への入り口を見つけて僕らを監視していた場合、ドゥートスを引きずりこむと同時に地底から地上へなんらかの合図を送る。


それで地底領に侵入したガンナットと協力し、

目障りな存在である僕を始末する手筈......にしては、その肝心のもう一人が現場にいなかったのは気になる。


道中、視線らしきものもまったく感じなかったし。

うーん、考えるだけいろんな可能性とたらればが浮上してくる。


やめだやめだ、こんなことをしていてもキリがない!

悪い癖だ、一つのことに執着して深読みするのは。



僕とドゥートスはシカニサ峠を下っていく。


途中、食用になりそうな木の実を確保しつつ、野営で夜を明かした僕らは、次の目的地であるユメール王国についての話をしていた。


「なあドゥートス、ユメール王国ってのはどんな感じなんだ?」


【どんな感じ、というと?】


「ユメール王国の特色だよ。

ほら、その国にしかない特別なものってあったりするだろ?


そういうのだよ」


【ユメール王国は水の国と呼ばれる世界一綺麗な街があると言われる国だ。


観光業・漁業が強みの国で、その美しい街並みは文化遺産にも指定されている】


「文化遺産?

へえ、つまりそれは見どころに溢れた国ということか?」


【うん、特に有名なのはエヌルダ鋼橋と呼ばれる巨大な橋、それとユメール名物の蟹料理とかかな。


ユメールは観光地としての強みもあるけど、良質な海産物が大量に取れることでも有名なんだ。


つまり、海産物が滅茶苦茶美味いとのこと。

その中でも蟹は世界最高品質って言われてるらしいよ?】


「ほう、そんなに美味い蟹なのか、その蟹って」


【うん。

世界各地の高級料理店なんかにも出品されているくらいだからね】


僕はドゥートスと他愛ない話をしつつ、道なりに沿いながら真っ直ぐにユメール王国へと目指す。


ユメール王国の場所は悪魔の森の隣、海部(※)方面にあるらしく、僕ら二人はユメール王国に限りなく近い山の峠、その付近にある静脈坑道の出口から地上に脱出したのである。


そんな経緯も相まって、僕らは今この峠を下っているのである。

(※海部=他世界の東部と同じとされている)


「しかし、この峠って悪魔の森の一部なんだよな?


だとすれば、この峠も太陽軍の追っ手(やつら)の見張りが配置されていても不思議じゃないんじゃないか?


それはどう感じているんだ、ドゥートス?」


【うーん、たしかに見張りがないとも断言はできないけど......。


森の規模は大陸にも引けを取らない規模(もの)だから、そこまで手が及んでない可能性の方が限りなく高いと僕は見てるよ。


正直、悪魔の森の出入り口の見張りでも相当無理があると思うけどね】


「ああ、たしかに。

悪魔の森、滅茶苦茶広いもんな。

そりゃあ見張るのは無理があるわけだ」


【経験ある君なら尚のこと痛感するんじゃないかい?

あの森の理不尽な広さを、ね?】


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