第二十三話 異変考察(推敲版)
魔呪使い。
それは魔呪と呼ばれる特別な血を引く者にのみ使うことが許された特別な力を操ることができる魔法使い。
彼女は故郷である砂漠の国を追われ、魔呪により生み出された特別な毒で、太陽の勢力へ加担する悪の魔女と化していた。
「ヒッヒッヒ......ワタシャの毒は、もう誰にも止められないよ......!」
化けの皮を被った魔女はひっそりと、そして大胆に国を根幹から揺るがしていく。
その快感に浸る魔女は、もう元には戻らない。
怯えることなく、手を差し伸べることもなく、快楽の魔に従い壊し続けていく。
ーーーーー
浮かぶ大陸、元神王の玉座。
ここにはかつて数多くの民たちが鎬を削る『英雄の街』と呼ばれる街があった。
世界各地から名のある者、腕に自信のある者たちを呼び寄せ、巨大な催しを行う会場だったこの場所は、今ではすっかり見る影もない悲惨な土地と化していた。
そんな大陸の中央、元カイコリオ大遊国の王城の玉座には新たなる支配者が軍を率い君臨していた。
「我が主よ、報告が......!」
「......例の小僧とあの悪魔はどうした?」
男は問いただす。
かつての敵だった男が残した言葉、それが男の脳内で引っかかり疑念と化していた。
「......例の少年、そして悪魔は依然として行方不明のまま、捜索を継続している状態です」
「ふむ、流石に一筋縄ではいかないようだな。
ご苦労だった。
それで、報告というのは?」
「はい、それが......太陽十三天聖が一人、ガンナット様の姿が見当たらないとのことで......!」
「珍しいな。
失踪したか、あの男は?」
「......い、いえ!
闇に呑まれ、突然姿を眩ませたのです!
我々は森中くまなく捜索しましたが見つからず......」
「ま、あの森で起こる異変は今に始まったことではない。
あの男も悪魔の森の地中にある異変に巻き込まれてしまったのだろう。
やむをえない。
捜索を今すぐ中止しろ。
撤退を......!」
「我が主......ガンナット様は......?」
「なに、あの男はすでに誰かに殺されている。
捜索しても遺体しか見つからん」
「......まさか、例の武人が......!?」
「いや、あの地底領だ。
やはり、迂闊に兵を送り込むのは愚策だったらしい。
いち早くあの森から兵を撤退させよ。
我が兵が狂気に蝕まれるその前に......!」
「はっ!
それと、もう一つ報告が......!」
「なんだ?」
「霊陽神が失踪しました」
「......なんだと?」
「襲撃の際、霊陽神の生体反応はたしかに確認されていたらしいのですが......科学班の発言曰く、『突然上空に反応が消えた』とのこと」
「上空に消えた?
なるほど、たしかに奇妙な話だ」
「科学班の見解では、生命体感知器を掻い潜るため敢えて上空から離脱した可能性が高いとのこと。
これでは我々もその跡を辿ることが完全に困難です」
「......奴らめ、何を企んでいる?
よし、至急幹部どもを集めろ。
話せる奴らだけでいい。
これから、霊陽神に関する会議を行うと告げよ」
「はっ!」
「厄介な霊陽神め......この俺の目を掻い潜れるとは思うなよ?
必ず始末してやる......!」
地底領を離脱し静脈坑道から地上へと帰還した僕とドゥートスは、次なる目的地へ向かうため『シカニサ峠』と呼ばれる峠を下っていた。
「しかし、よく無事だったなドゥートス。
急にどこかへ消えたからよ、心配したんだぜ?」
【すまないな。
僕も自分の身に何が起きたのか、正直全く分かってないんだ。
ウルヴィナムはそんな僕をなんとか助け出してくれてね。
ほんと、危機一髪だったよ】
たしかに、あの状況はよくよく思い返せば妙だった。
あの時の僕は空腹で冷静さを失い、なおかつドゥートスを完全にど忘れしていたけど、ドゥートスはまるで地上から這い上がる闇に引き摺り込まれているように見えた。
最初はドゥートスの能力なのかと思ったのだが、ドゥートスが不自然に消え、それに加えて太陽十三天聖の一角ガンナットの唐突な襲撃に遭っていたのだ。
正直ドゥートスどころじゃなくなるというのが感想だ。
が、個人的に違和感があったのはそれらの出来事が重なるタイミングだ。
あまりにもできすぎたタイミングで、ドゥートスは消失し敵襲が始まった。
僕にはそれらがただの偶然には思えないのだ。
ドゥートスが能力で波動コンパスという道具を形成した時、それとほぼ同じタイミングで頭上のどこかから爆音が鳴り響き、ルドガリア城の一部が崩れて奴との戦闘が始まったのだ。
おそらくだがその時、地底世界の天井がどこかが何かの弾みで破壊された......僕はそう予想している。




