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失敗作Ⅰ  作者: 一鸞一
第一章 地獄の花園
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第二十二話 地獄の花(推敲版)


一見ポンコツで少々頼りないお姉さんに見えたが、この人の周囲に漂う空気は並々ならぬものだ。


その辺に積まれている用途不明の分厚い書物も、どこかただならぬものを感じてならない。


彼女、一体何者なんだ?

もしかして、本当に凄い人.......。


「あイテッ!

ちょっと! 誰よこんなところに本置いたの!

邪魔で通れないでしょ!!! まったくもう......!!!」


「......」


いや、ただのポンコツ、かもしれない.......。


ーーーーー


僕は書物の神を名乗る女『ウルヴィナム』の後を追い、隠し部屋の更に奥にある第二の隠し部屋に案内される。


「隠し部屋の更に隠し部屋か......!

ロマンがあるな......!」


「ね? 

我が国の建築家は腕が立つのよ。


今はもうほとんど死んじゃったけど、この国は立派な他国に誇れる大国だったのよ」


「なあ、そういえばなんだが、どうしてこの地底領は滅びたんだ? 


道中争いの痕跡みたいなものが多く見かけられたが、もしやそれが関係しているのか?」


「......知りたい?

でもその前に、あなたを菜園に案内するわ」


「菜園? なんのために?」


「お腹、空いてるでしょ?

遠慮は要らないわ。生きるためだもの」


「ほ、ほんとか!? 

それは助かるよ!!!」


僕はウルヴィナムを無理矢理扉に押し込み菜園のある更なる下層へと向かっていった。


「ちょっ、押さないでよ!

分かったから、ちゃんと案内するか!!!

だから押すなあ!」


こう見ると彼女自身、神の面目もあるようにはまったく見えない。

まさかとは思うが、騙されてるわけ......ないか。


こんなポンコツな人が騙すなんて器用なことできるわけないよな。

それに、心なしか悪い人では無さそうに思える。


「......なんだか非常に不愉快な視線を感じるわ、ルマ」


「......あれ? そういえば僕、名乗ったっけ?」


「影の悪魔さんがね、あなたのことを教えてくれたの。


地底領に迷い込んだ人間の子が危ないって、懇切丁寧にね。

だからね、助けにきたのよ、あなたを」


「アイツ、人間の子って僕を紹介したのか?」


「いや、私の解釈よ。

いいじゃない、細かいことは」


「あれ? 

それってつまり、アンタはドゥートスとこの地底領で会ってるってことにならないか?


アンタ、ドゥートスの居場所を知ってるのか!」


「ええ、あの悪魔さんなら()()()()()()()()

だってボロボロだったもの」


「ボロボロ......?」


僕らは第二の隠し部屋へ続く螺旋階段を一歩一歩降りていく。この光景、前にも見た気がする。


というか、隠し部屋に着くときに一回これと同じ種類の階段を降りていたな。

すっかり忘れていた。


「ええ、あの悪魔さん、何かに襲われてるようだったわ。


私はそれを救助して、あの悪魔さんを助けただけ......。

ま、私なら簡単な仕事よ」


「待ってくれ! 襲われた......?

ドゥートスは、何者かに襲われていたのか!?」


「ええ、正体不明の何かにね。

正直、アレの正体には私も皆目見当がつかないわ」


「うーん......一体、何が......」


「さて、着いたわよ。

この扉の奥にあなたの求めているものがあるわ」


ウルヴィナムは階段を降りた先の第二の隠し部屋の鍵を開ける。


するとそこに待っていたのは草原の如し広大な赤い菜園であった。


「......これは、何の花だ?」


僕の目に留まったもの、それは菜園を真っ赤に染める無数の赤い花々だった。


ウルヴィナムはふふっと笑い、そして花を一つ摘み取った。


「ようこそ、地底の花園へ。

ここは地獄の花と呼ばれる特別な花を栽培するための場所よ」


「じ、地獄の花!?」


僕はあまりに物騒な花の名前に思わず変な挙動をとる。

が、彼女は淡々とこの菜園について話を続けた。


「大丈夫よ、名前ほど怖くないから。

この花はね、かつて地底領が食糧難に陥った時の非常食だったの。だから食べられるのよ?」


「この花が、食用......!?」


「ええ、いくつか取って手渡しましょうか?

意外と癖になるのよ、これ」


ウルヴィナムは十本ほど地獄の花を摘み取ると、僕に手渡し笑顔でこう言い放った。


「はい、食べて!」


屈託のない笑顔で差し出される花々。

この鮮血のように赤い花びらが食用だとは思えんが......ええいままよ!


僕は差し出された花の束を花びらから齧り付き咀嚼する。


すると口内にはチクっとするような微かな酸味と甘味、そして絶妙に癖になる苦味が広がった。


「う、うまい......!

案外食べられるものだ......!」


「どうせ人はいないから、好きに食べちゃっていいわよ」


僕の理性は彼女のその言葉によってブレーキが壊れる。


そして僕は欲望に身を任せ、一心不乱に花を摘み取っては齧り咀嚼するを繰り返した。


三十分後、僕は膨れた腹を抱えその場に座り、ふぅと満腹の息を吐いた。


「ふぅ、驚いたよ。

まさか、茎まで生食可能だなんて」


「よかったわ、お気に召してもらえて。

さて、じゃあアレのところまで行きましょう?」


「ん、アレ......?」


「悪魔さんのいるところよ。

合流した後なら、静脈行動の場所も教えられるでしょ?」


「あ、ドゥートス! 

必死すぎて忘れてた!」


僕は満腹に膨れ上がった腹をぐっと持ち上げ、そしてぴょんと軽やかに立ち上がる。


そして彼女の案内のもと、僕は影の悪魔ドゥートスと無事再会を果たすことができた。


「ドゥートス!!!

お前どこに行ってたんだよ!」


【......ルマか。

ようやく探し当ててくれたね】


「......っていうか、なんだよその状況!

なんでお前、牢獄に閉じ込められてるんだ!?」


【......なに、少し療養中でな。

もう少ししたら完全に復活するから、しばらく待っててくれ】


ーーー


数時間後、無事牢獄から解放されたドゥートスはウルヴィナムに帰りの道のりである静脈坑道に関する詳しいルートを聞くと、そのまま僕を引き連れてルドガリア地底領を後にしていた。


そしてドゥートスの話曰く、なんと伝説の偶像神(ムーナス)の正体こそ、僕らを手助けしてくれた長髪のポンコツ美人、ウルヴィナムその人だったという。


彼女がなぜ伝説などという肩書きを持っているのか、その詳細は不明だが、なんにせよ無事地上に帰還できるようで嬉しく思う。


そしてなんと、ここで嬉しいサプライズがあったのだ。


僕の壊れたと思われていた左腕は地獄の花の効能で完全に蘇生を果たし、僕は晴れて五体満足でこの先に進めることができるようになったのだ。


ま、ウルヴィナム曰く、地獄の花は創造主が作った特別製だからなんら不思議ではないとのこと。


帰り際、僕らは地底に散らばる幽灯石に見送られ、ここまでサポートしてくれたウルヴィナムに感謝の言葉とお別れを告げたのだ。


「ありがとう、ウルヴィナム!!!

またなー!!!」


「ああ、お互い元気で!!!」


相変わらず変わった言動だったが、僕は無事静脈坑道に辿り着く。

そして......。


【ルマ、次の目的地は水の国ユメールだ。

いよいよ九つの国家奪還の下準備が終わる頃だ。

担当霊陽神(アメトス)()()()()()もおそらく待ち侘びているだろう】


「そうだな。

よし、行くか......!」


僕らはこうしてひたすらに長い坑道を辿り、地上に現れる。


地上の出口周辺には悪魔の森にも似た木々が多く蔓延っている。


石の剣王(ダイドロット)は言っていた。

この世に人間以上の疫病神はいると思うかと。


たしかに、彼の意見には一理ある。

人は自分の都合で物事を解釈し、そして自分の人生を形成する身勝手な生き物だ。


だからこそ、人はそれらの闇と対峙し、その本質から逃げない努力をしなければならないのだ。


きっと、ダイドロットは辛い思いをしてきたのだろう。


僕の夢に出てきたアレが真実ならば、彼はきっと自分自身に対しても失望していたはずだ。


人は思考そのものが悪魔である。

彼だってきっと、人に失望したくはなかっただろう。


だが、運命というのは時に残酷で、身を委ねなければ自分の定義そのものが破綻しかねない危険なものだ。


だからこそ、人は悪魔になりえてしまうのかもしれない。


本当の悪魔は、いついかなる時も誰かを盲目にできるのだから。



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