第二十一話 書物の神ウルヴィナム(推敲版)
「「えーん、えーん!
お父さん、お母さん!」」
誰かの声が聞こえる......。
「「お前はルドガリア一の剣士だ......!
新たなる剣の帝王として、民を守って欲しい......!」」
「「喜んで......!」」
「「おめでたいことだ。
これでルドガリアも安泰ですな」」
これは、誰かの記憶......?
どこか、見覚えのある背中だ。
「「俺は金以外は信用しねえ......!
でも、お前なら金を捨ててでも助けたいって思うんだ。
お前は、大事な友人だから.......」」
「「......ありがとう、ダイドロット」」
石の剣王の、記憶?
「「ヤグシア! ヤグシア!
ヤグシアァアアアあ!!!!!!」」
「「なんで......僕が.......?」」
彼の友人?
なんだ、この闇の靄?
友達を闇が喰っている?
「「......どうしてだ、どうしてだ......!
俺には石の力があるのにッ、どうして誰も守れない......!!!
俺は、こんなに無力なんだ......!
どうして......どうして!!!
アイツは......もう戻らねえんだぞ!?」」
.......泣いている。
石の剣王......アイツ、友達を亡くしていたのか......。
「「復讐してやる......この国の未来を奪った全て......!
この世界がッ、憎いッ!!!」」
溢れんばかりの憎悪......彼は、故郷の敵討ちをしたかったのだろうか?
ーーー
......はっ!
......夢?
さっき見たのは、アイツのことか?
あれ、ここは......?
さっきの、隠し部屋......。
「そっか。
僕、疲れて寝てたんだ......」
「ぶーっ、残念!
君は今、お姉さんの膝の上でしたー!」
「......は?」
僕は右側臥位状態から自分が置かれている不自然な状況に気づく。
いや、これ......お、女!?
女性の膝枕、だと!?
僕は驚きのあまり飛び上がり、そして......彼女と頭をぶつけた。
「ギャアアアアアアア!!!!!」
「アダァアアアアアア!!!!!」
僕は悲鳴を上げるように叫び、そして側頭部にダメージを負い地面に頭を伏せる。
頭にきた衝撃に少しずつ慣れてきた僕は顔を上げ、例の彼女の方を見てみる。
するとそこには予想だにしない光景が僕を待ち受けていた。
「イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!」
.....え、この人。
さっき僕が見た人にそっくり......?
っていうか、めっちゃ痛がってる。
コロコロコロコロ地面をローリングしながら額押さえて叫んでる。
変人......?
「......あれ? さっきの.......」
「こら!!! 急に何するのさ君は!!!」
「え、えっと......」
黒の長髪に黄金色の瞳、菱形のイヤリングに聖典より遥かに分厚く重みのありそうな分厚い書物を携えた女性は、僕に向かって面と罵声を浴びせる。
「この馬鹿! アホ! マヌケ!
誰が君を助けてやったと思ってるのさ!!!」
「助けて、やった......?」
僕は掠れたように見える目を擦り意識を覚ます。
すると彼女の背後には想像を絶する量の大量の分厚い書物が地面に積み上げられ、残り半分が宙を舞っていた。
「本......!? なんだ、これ!?」
「夢でも見てるって思った?
残念でしたー、現実だよーん。
なぜなら、私は書物の神ウルヴィナムだから!!!」
「書物の神ウルヴィナム......?
えっ、神様......?」
「そう!
こう見えて私、このルドガリア地底領の第二王女だったのだ! どうだ、驚いたでしょ?
私、王女様なのよー。分かったらひれ伏せー、このバカー」
「なんだその棒読み......」
こ、小馬鹿にされている気分だ......。
しかし、彼女の素性が第二王女だとすると、少し尋ねたいことも出てくるわけだ。
「なあ、アンタじゃあ、この地底世界に詳しいってことだろ?
それが本当なら、僕を地上に脱出させてくれ」
「その前に、やることあんじゃない、あんた......!」
「え?」
急に針で突き刺すかのように彼女は先ほどのおマヌケな一面とは全く異なる顔を見せる。
えっ、急に侮れない顔になってるんだが......?
圧が......圧が凄まじい......!
この人、マヌケに見えて結構ヤバそうだぞ、なんか......!
「や、やることって、なんですか?」
「もう忘れた? 君が契約してる悪魔のことだよ」
「悪魔......? あっ......!」
僕は全身の疲労感のせいで完全に重要なことを忘れ去っていることに気づいた。
そうだ、ドゥートス!!!
アイツ、突然呑み込まれるように消えたんだっけ!
「......余裕がなさすぎて忘れてた......」
「それもそうね、さっきあんな激しい戦いをやってたんだから」
「いや、戦いもだけど、空腹がヤバくて......」
「えっ? あっ、あー! そういうこと!
道理で様子がおかしかったのねー、納得だわー」
露骨な棒読みだ。
この人、もしかしてわざとやってるのか?
「でも心配しないで。
あんたが求めてるもの、私なら用意できるから」
「用意、できる? 何を?」
「えっ、だって必要でしょ?
食料と、人探しと、帰り道。
全部解決できるわよ、私なら」
「ほ、ほんとか!?」
「ついてきて。
まずは彼の元に案内するわ」




