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失敗作Ⅰ  作者: 一鸞一
第一章 地獄の花園
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第十七話 覚醒(推敲版)


「この先は行き止まりだろう?

こんなところに逃げ込むとは、逃げる定石すら知らんようだ」


背後から声がする。

振り返らずとも、その声の主を想像するのは容易いものだ。


「見どころがあると思ったが、若ければこんなものか。

抵抗しなければ痛い目に遭わずに済むものを」


「嘘をつくな。

お前はハナから痛めつける気満々だろうが」


「ほう、ここにきてようやく喋る気になったか......!

観念したか?」


「少し余興に付き合うだけだよ。

お前のような二流の小物をいかに料理してやろうかと考えていたよ」


「やれやれ、口を開いたかと思えばそれか。

たとえ中年でも、舐めると痛い目を見るぜ?」


「たしかに、()()()()は豊富だな。

ジジイじゃない分、少しはマシか」


「ほう、それはつまり、オレを前に余裕綽々だとでもいうのか?」


「ああ、一日の長なんざくだらねえと、そう言ったんだよ」


僕はらしくもない挑発で奴の出方を伺う。

挑発に乗ってくれるタイプの方が対処は楽だからな。

できればそうであって欲しいものだ。


「期待はずれなガキだ。

その程度の挑発でオレを扇動するつもりか?


それに、オレ程度に逃げ出すような実力じゃあ本物の世界の王者には敵わんよ」


「世界の、王者?」


「太陽の王テナウドリスト様だ。

彼はいずれ世界の王となるお方だ。


そのお方の障壁となるのが、皇位の悪魔と希望の灯火だ。

お前は、我々太陽軍が殺すべきターゲットなのだ」


「やれやれ、自分らの障害となるものはどのような手段を用いても排除する......いかにも太陽軍らしい発言だ」


「心外だ。

我らではなく、我が王のため、だ......!

間違えるなよ?」


「......あゔぁあ」


僕は柄をガッシリと握るガンナットと石像を背に相対する。


そしてお互いに睨みをきかせると、僕らは相手の出方を伺い隙をつ.......ん?


あゔぁあ......?

なんだ、背後に何かいる?


「なんだ、その後ろの男は......!?」


ガンナットは予想外の事態を目の当たりにしたかの如く目を見開き、そしてそのまま僕の背後の(それ)に視界の焦点を合わせる。


背後からはミシリ、ピシリと石の殻が砕ける音が響く。


そしてパラパラと砂や石が地面に転がる音が響き渡ると、僕は一瞬で謎の言葉を発した人物の方へと振り返り凝視した。


......この部屋に入る前、扉の前で感じていたあの肌を刺すような気配に似ている。間違いない。

コイツが、その主だ......!


石の殻を破りまるで脱皮したかのように石の鎧を脱ぎ捨てるその男は、僕......ではなく僕の後ろで構えているガンナットの黒金色の剣を強く睨んでいた。


「.......ク........ロ.........。

キサマ、ハ.......!

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


当然巨大な爆音を喉から張り上げるその男は、剣を強く握り僕ではなくガンナットに向かって飛びかかった。


「なっ!? なんだお前は!!!」


「デト、ラア.......!

ァアアアァアアアアアアァアアアアアア!!!!!」


なんだ、この状況は?

石の表皮を破ったかと思えば突然の発狂。

精神状態が不安定なのか?


しかしこの男の中にある気迫、いや憎悪?

それらの黒い感情と殺意が徐々に膨れ上がってきているのは事実だ。


それに、コイツは相当手だれだぞ.......!

油断ならねえ。

しばらくは様子見だ。


石像から現れた男の全身は徐々に黒い靄に覆われていく。

コイツ、体に異常をきたしてないか?

体が闇に侵食されていってる!


ガンナットは唐突に襲ってくる謎の剣士と高度な駆け引きを繰り広げる。


二人が手にしている剣は両方とも頑丈な作りをしているようで、一進一退の攻防の中でもお互い刃こぼれ一つなく、激しい抗争の中でも悠々と耐えきっていた。


「裏切られたんだ......ウラギリ.......ァアアアァアアアアアアァアアアアアア!!!!」


「耳障りな声だ。

そんなにオレの拷問が受けたいか、キサマ?」


「クロノ.....ケンシ......デトォオオオオオオ!!!!!」


謎の剣士は大きく雄叫びをあげ、そして全身の指先、毛穴、目玉、その他あらゆるところから闇の靄を放出する。


まるで何かを激しく憎んでいるかのように。


「ヤグ......ヲ......カエセェ......カエセェエエエエエエエエエエ!!!!!」


「ふん、小賢しい闇だ。

命の灯火(ヤーコ・ウエルノ)!!!」


なんだ?

ガンナットの周囲に球体の膜のようなものが形成されている。


ブゥンブゥンと空気が擦れ合って生まれる振動があの球体の膜から聞こえてくるな。

あれも、アイツの能力か?


「ふふ、これは『命の蝋燭』を対価に自身の力を限界以上に高める技......!


お前如きに披露することになるとは思わなかったが、せいぜい善戦したな。

終わりだ......!」


ガンナットは黒金色の刀剣を脇腹のやや遠目あたりで握り、命のエネルギーを肩から伝える要領で吹き込む。


そして橙色の閃光を放つ黒金の刃を謎の剣士めがけて高速で切りつけた。


太陽の黒印(サ・イロキラー)


その攻撃は一撃必殺。


通常、これほどの輝きを放つ剣技は並大抵の努力では埋められない何かが秘められているものだが、この男もなかなか侮れない力を有しているようだ。


ガンナットの黒い刃が音速を超える速さで首筋に辿り着こうとした時、謎の剣士は不意に彼を見て微笑んだ。


......笑った?


その時、僕は知ることになる。

謎の剣士が本当の実力を隠しているということを。


ガンナットが渾身の剣技を振り終えた途端、謎の剣士はそれを余裕綽々の笑みで綺麗にいなす。

そして。


「力頼りの剣など、未熟者がやることだ」


......!?

コイツ、理性があったのか!?


唸り声ばかりあげていた謎の剣士が、怒り任せに、狂乱の剣士と言わんばかりに剣を振り回していたさっきの時とはまるで別の顔をしている。


コイツ、何が起きたんだ......!?


「キサマ、理性がないものと思っていたぞ?」


「ああ、今、目覚めた」


謎の剣士は冷徹な目で見透かすようにガンナットを視認する次の瞬間、謎の剣士は唐突にガンナットの胸ぐらを掴み、黒金色の剣を手元の剣で弾き飛ばした。


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