第十六話 隠し扉(推敲版)
ズシッ、ガシッ!
ガンナットを撒いた後、僕は王城内の壁を拳で打ち崩し、背後に向けて瓦礫の山を投げつけ進路の妨害を試みる。
自分の逃げ道を確保しつつ、僕はこの地底世界の暗闇の部分に着目し闇に紛れて撒いてしまおうと画策する。
そう、それが第一目標だ。
この状況、ガンナットという男に追われる状況は正直あまり好ましくない。
むしろ最悪の可能性さえ秘めている状況だ。
ぶっちゃけ、ガンナットが仲間をぞろぞろと引き連れ始めてしまえば、簡単に包囲されて逃げ場を失うのは目に見えている。
クソッ、ドゥートスの提案に迂闊に乗せられた僕が馬鹿だった。
そのせいで無意味にも時間を浪費してしまった......!
もっと計画的に物事を進めるべきだった......!
「ダメだダメだ......!
今は反省ではなく、目先の問題を案ずるべきだ!
大丈夫、必ずやり遂げられる......!」
「ちょこまかとすばしっこいな。
はてさて、この老耄をここまでコケにするとは、見どころのある若造だ。
ふむ、ならばオレもボチボチ本気を出してやろうか?」
奴の攻撃、油断しなければ当たることはない。
今は多大な憎悪でいくらか理性を保っていられる。
はぁ、はぁ。
やはり、戦闘はこうでなくては.......!
アイツを出し抜いてドゥートスを探し、そして出口を見つけ出してやる......!
やってやろう.......!
僕は崩壊した瓦礫の隙間を潜り抜けると、王城の中央部へと向かう。この城、さっきの衝撃からか、少しずつ全体が崩壊していってるようにも思える。
僕も早く離脱しないと危険だ。
......そういえば、王室周辺はまだ手つかずだったはず。
よし、向かおう......!
この機会に調べられるものは調べてしまおう......!
地底世界を離脱するために、そして生きるために!
僕はガンナットの目を盗み、静かに壁の破壊を試みる。
よし、うまくいった。
城を破壊するのは気が引けるがやむを得ない。
緊急事態だ。
この城の壁、いくつか壊させてもらうぞ......!
僕は拳で壁を打ち破り、王室への侵入に成功する。
急いで周囲を探ると、玉座の裏側に妙な隠し扉があることに気がついた。
「.......ダメか、さっきの要領じゃ衝撃が届かない。
この壁、頑丈だ」
僕はこの先に何かがあることを信じ、玉座裏の壁に力いっぱいの拳を繰り出した。
「武人の気合い!」
ミシミシ、ズシッ、ドシッ、ガシャン。
玉座裏の隠し扉に大きな亀裂が入る。
そして......その扉は勢いよく綻び、崩れ去った。
やっぱり、ビンゴだ。
ここの部屋の奥に隠し通路がある。
一体何があるのか。
この、通路の奥から感じる妙な気迫は.......?
いや、考えは後だ。
今は前に進もう。
生きられるかどうかは賭けだ。
行くしかない。
僕は自身の覚悟を決め、その部屋は踏み入った。
玉座裏に隠されていた下層への入り口。
それはルドガリア王家が代々隠蔽してきた秘密の通路。
下層に向かうべく扉の先にある螺旋階段を降りた僕は、王城の外より更に暗い地下道の一本道に辿り着く。
「この長い道の先に、扉がある。
あれが隠し部屋の扉なのか?」
僕はその王家が隠していたと思しき扉の前に到着する。
おそらく、ここにルドガリア城の秘密があるのだろう。
雰囲気的にも、この扉の先に僕が求める答えがあるようにも思える。
.......しかし、隠し通路に入る時から感じていた気配が扉に近づくごとに強くなっていく。
強者特有の気迫というべきか、そんな気配をビシビシと放っている何かがいる。
命の灯火?
二つの気配?
......いや、一つだ。
生きているのはきっと間違いない。
しかしどうも雰囲気からして得体の知れない不気味さが感じられるな。
一体、この扉の奥には何が.......?
僕は警戒心をいつも以上に過敏に研ぎ澄ませると、腕にズッシリとのしかかる重量の扉を力づくでこじ開けた。
「......警戒するに越したことはないか」
全身の膂力をフル活用したせいか、僕の体は思いに反して徐々に言うことを聞かなくなっていく。
しかし、僕がやっとの思いで辿り着いたその目的地の光景は、不穏という言葉がおそらく似合っていた。
「なんだ、コレは?」
僕が目の当たりにしたもの、それは巨大な機械と石像だった。
薄気味悪いという言葉が当てはまるような色合いの巨大な装置らしき物体に、その前方で剣を高々と掲げている剣士の石像。
僕の視界には謎の組み合わせと思えるものが二つ、映り込んでいた。
「何の、組み合わせだ?」
しかし、僕は確信する。
ここは何かの管制室か何かだ。
この装置、故郷で見た『何かの管理装置』に似ている。
この部屋はそれを守るための部屋で間違いなさそうだ。
......そして問題は、コイツだ。
さっきから妙な気配を放っているコイツ、目の前で威風堂々とその存在感を放つ謎の石像は、僕のことをじっと睨みつけているように見えた。




