表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失敗作Ⅰ  作者: 一鸞一
第一章 地獄の花園
15/45

第十五話 太陽十三天聖(推敲版)


「......ふむ、まさかこんなところに人間がいるとはな。


単身で乗り込んではみたが、もしや当たりを引いたかな?

なぁ、ルマ......!」


やはり、僕を嗅ぎつけてきたのか。

この男、一体どうやってこの地底に降りてきた?


血液坑道の入り口がバレたのなら分かる。

だが、この有り様は一体なんだ?

コイツ、正規のルートで来たのか、これで?


「......驚いた、まだまだ元気そうじゃないか。

それだけの殺気を放てるんだ。

やはり噂通り、本物の寡黙の武神のようだ」


「僕の通り名まで知っているとは、なかなか一筋縄ではいかなそうだ」


目の前の殺気をピリピリと解き放っている男は少しずつだが剣を抜き、僕にジリジリと詰め寄り始めている。


この男、やはり最初からそのつもりか。


僕の視線の先にいる男はこの地底空間でも非常に目立つほど際立って鮮やかかつ濃い緑の髪を有している男だった。


真夜中を彷徨く肉食の獣のような赤い瞳、ゆうに二メートルを超えるガタイ、年季のある服装と風格、そして自信に満ちた不敵な笑み。


恐ろしいまでの強敵だ。

そう思えるほど、彼の振る舞いからは強者特有の根拠が揃っているようにも見えた。


「しかし、悪魔の森にこんな地下空洞があるなんて驚きだ。


さて、質問をしようか。

お前は一体、誰にその情報を聞いたんだ?」


「......」


僕は無言を貫く。

この男に答えてやる義理など一つもないからだ。


これから先は命懸けの戦いだ。

情報は一つでも多く、切り札に温存するべきだ。


「おい、人の話に応答の一つも見せたらどうだ?

それともなんだ、それが寡黙の武神だとでも言いたいのか?」


寡黙の武神、ねえ......。

久々に聞く二つ名だ。


だが、わざわざコイツに自己紹介してやることもないだろう。


「返答なしか......。まあいい。

オレの問いに応えるつもりがないのなら、力づくで吐かせてやろうか?」


ヤツは僕の立つ王城内の床にストンと飛び降りるとニヤリと笑みを浮かべる。


この男、その振る舞いから油断できない男なのは確かだろう。


「では、一剣士としてこちらから名乗っておこう。

オレは太陽軍幹部『太陽十三天聖(ヒジラムス)』が一人、殺戮拷問吏ガンナットだ。よろしく」


......太陽十三天聖(ヒジラムス)

なんだその肘と羊と酢を合わせたみたいな名前は。


「無視か。

寡黙の武神は随分とシャイなようだ。


ま、捕えればそれで終わる。

悪の鞭(スタイド・ウィープル)!!!」


ビシッ!

凄まじい勢いで、黒く長い鞭の先端が僕の頬を強く掠める。


うおっ!?


僕は思わずその鞭の先端部に過剰な反応を示し、そして体を屈め回避行動を行う。

危ないな。コイツ、鞭使いか......!


「......目がいいのか。

この暗闇でオレの鞭が見えるとは。


だが、この鞭は闇に紛れる。一度や二度じゃオレの鞭は見切れないぜ?」


ビシッ、バシッ!

頭上から暗闇に紛れる鞭の雨が、僕の身に降り注ぐ。


黒鞭剪定(シードロスカイト)


ぐっ、頭上から鞭の雨だと!?

コイツ、相当使い込んでやがる......!


反撃の手段を取りづらい位置からの攻撃が、僕を防戦一方の状態へと誘ってくる。


......随分と手慣れている動きだな。

余程鞭が得意なのだろう。使い込み、洗練度が非常に高く感じられる攻撃だ。


しかしこの男、鞭の攻撃時に動作が大振りになる弱点を抱えている。

ならば、その隙を突くのみだ......!


僕は洗練された鞭の連打を前に目を閉じ、音を追う。

目視に頼るのではなく、耳を頼り相手のリズムを学習するのだ。


懐かしい......昔、こんな修行をよくしていたような気がする。


僕は鞭の乱れる波状攻撃の中で、その鞭の攻撃そのものを見切る。


そして僕は鞭の軌道を聴覚だけで把握した後、鞭の先端部をタイミングよく握り締めた。


「何っ!?」


「捕まえた......この鞭は没収だ」


僕は勢いよく手元の鞭をぐいっと引き寄せる。

綱引きの要領で引き寄せられたガンナットは、思わず鞭を手放し懐のナイフに得物を変える。


僕はその空中での一動作、その一瞬を見逃さず、瞬時に鞭を放り投げてはナイフの側面にパンチを繰り出した。


ガキィン。

とりあえず正面から戦ってみる。


しかし、僕は重要な問題を抱えていた事実を思い出した。


腹が、空いたのだ。

僕の胃は、僕の体は、食べ物を欲し始めている。


こんなところで奴と戦っている余裕などないことに気づくと、僕はここぞというタイミングで敵前逃亡を開始していた。


「逃がさんッ!」


奴は地底世界で熱量の回転を上げ、急加速しながら僕を猛スピードで追いかける。


僕も負けじと瓦礫を踏み越え、兎のような軽やかな足踏みで崩れた王城一帯を駆け抜けたが、奴の速度は衰えるようには見えなかった。


「オレを前に背中を向けるとは、後悔させてやる......!」


僕の心臓は苛立ちと怒りでピリピリと刺激される。


そのためか、不思議と精神が研ぎ澄まされ、自身に内包されたマグマのような憎悪が次第に僕の推進力となっていった。


......大丈夫、急所さえ守れば基本は立ち回れる。

だが問題はドゥートスだ。


アイツ、こんな状況なのに一体どこへ消えたんだ......?


不測の事態がすでに二つも重なっている。

こういう状況は僕の苦手分野だ。


急いで打開しないと、僕自身がいずれ追い詰められてしまうぞ......!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カクヨムに絶賛掲載中
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ