第十四話 ルドガリア城の悪夢(推敲版)
「もう、無理ィ......」
ヘロヘロになり舌をぶらんと口の外に垂らす僕。
そしてその様子を見ながらやや呆れ顔で額を触るドゥートス。
ヤバい、マジで腹が限界だ。
全身が徐々に、飢えへの怒りと憎悪で満ち溢れていくようだ。
......しかしこのルドガリア城といったか、構造が複雑で想像以上に入り組んだ形状をしている。
それに部屋も多い。
王室さえ見つけることができないまま、長い時間が経過している。このままじゃ僕の体が言うことを聞かなくなるぞ......。
「ちょっと、食べ物が欲しい......。
ドゥートス、この地底に食料はないのか?
泣き言は言いたくないが......何日もまともに食べてないんだ。
このままじゃ体が保たない......」
【うーん......保たない?
そっか、人の体は食事が必要なんだったね。
精神的な解決、我慢で何とかなる問題じゃなさそうだね。
困った、まだ例の人物の手がかりさえ見当たらないのに】
僕らはルドガリア城の隅々を模索した。
だが、肝心の手がかりはおろか人がいる痕跡さえ見当たらない。
本当にドゥートスが言っている人物がこの城で見つかるのか?
このままいたずらに時間を浪費する状況が続いていいのか?
参ったな。
このままじゃ、伝説の偶像神の捜索はおろか、脱出口さえ見つけられないまま終わるぞ。
そんなの嫌だ......僕はまだ、死ねない.......。
【顔色が悪いね。
流石に、無理が続くのはしんどいか】
「当たり前だ......こちとら人間、だぞ......!」
【仕方ない......本来切り札でしか使うつもりはなかったが、君が死んだら全てが本末転倒だ。
分かった。君を生かすため、僕の能力を使用しよう......!】
頼む......こんな真っ暗なところで餓死なんて、僕は絶対にごめんだからな?
ハァ......ハァ......なんとか、してくれ......。
僕は息を切らしながら、その場に座り込む。
僕の体も嫌なくらい疲労が溜まっている。
早く、回復を......。
【よし、今からダイレクトで目的の人物を探す。
少し、離れてて。
いくよ、シェイプ・ディテール!!!】
ドゥートスの右手のひらに墨色の線のようなエネルギーが螺旋のように収束し集まる。
墨色で塗られた糸が丁寧に一つの形へと昇華されると、ドゥートスは平たい円形のような物体を生成することに成功していた。
なんだこれ、コンパス......?
二つの磁針のようなものが別々の方角を向いている?
【これは波動コンパスと呼ばれる偶像神を探すのに役立つ特別製のコンパスだ。
神の波動を感じ取り、距離が近ければ赤い針が、遠ければ青い針が導いてくれる優れものだ】
「それができるなら、最初からやってくれ.......!」
【仕方ないだろ、これは本来切り札用の能力なんだ。
世界を簡単に壊してしまう能力を、そう易々とは使えない!】
「分かったから、早く探せ......追っ手が来るかもだろ?」
【......今回は地底領にある鉱石の消滅と引き換えに使ったんだ。だが、次はない。
でも、確実に君を地上に送り届けるから、このコンパスをつかっ......ん?】
ドゥートスの手に握られたコンパスがブルブルと微細な振動を放つ。
妙な振動だ。反応しているのは青い針?
でも、次第に赤い針が反応を示し始めているぞ......!
これは、物音......?
岩が崩れるかのような音が、迫っている......?
僕は猛烈に不吉な悪寒が自分の脳裏を掠めていくのを感じる。
すると次の瞬間、頭上、城の天井部の更に真上から爆音のような何かが崩れ去る音が響き渡った。
何か、様子が変だ。
「ドゥートス!
無言になってないで何か......え?」
ズシーン。
岩が降ってくる音がルドガリア城全体にこだまする。
その衝撃で足場が揺らぎ、僕は咄嗟に壁に寄りかかる。
が、その巨大な衝撃音は第一波、第二波、第三波と畳み掛けるように連鎖し、城を襲いかかる。
なんだ、何が起きているんだ!?
目の前で、ドゥートスが消えた.......?
謎の闇に足元から取り込まれていった。
僕は思わず口から溢しそうになった言葉を飲み込み、状況を整理する。
何やら予想外の事態が起きていると見える。
これは、なんだ......?
ドゥートスが消え、上からどでかい衝撃音?
本当に、消えたのか......?
「ドゥートス、ドゥートス!!!」
「おい、返事をしろ!」と言いかけたその瞬間、頭上の建物が勢いよく真下に崩れていく音が聞こえる。
これは、まさか......!
僕の悪い予感は的中し、僕はすぐさま物陰に隠れる。
僕が耳にした悪い予感、それは瞬く間にルドガリア城を崩壊へと導いていった。
......危なかった、本当に危なかった......。
僕は運良く落ちてきた瓦礫には当たらず、それらを避けることに成功した。
まさしく、危機一髪の状態だった。
しかし妙だ。なぜ突然城が崩壊するんだ?
あまりに急すぎる......。
それに、人の気配が近づいている?
「よう......お前が、オレのターゲットか?」
溢れる殺気、猛烈な敵意。
そして通常では考えられないほどの隙のなさ。
コイツは間違いない......あの身なり、あの剣。
アイツは、太陽軍だ......!




