第十三話 Shape Detail(推敲版)
オーダの温泉郷から出た僕らはドゥートスのいう『伝説の偶像神』を探し、ルドガリア地帝国の王城跡地の正門手前、アマメ橋と呼ばれる巨大な橋の直前まで訪れていた。
「デッカい城だな......!
故郷にあった城と大差ないデカさじゃないか」
【気をつけて。
頑丈に作られているとはいえ、抗争の被害の遭った場所だ。
足元が抜けるかもしれないから、慎重に】
「ほんとだ......ボロボロじゃねえか、この橋......」
僕は漠然としたまま、アマメ橋を渡り正門を越える。
そして......。
【着いたよ。
ここが王城跡地だ......!】
目の前に聳え立つルドガリア城。
幽灯石に照らされて、その細部が更にはっきりと僕の瞳に映り込む。
「なあ、本当に大丈夫なのか?
お前、たしか情報は不確かって言ってただろ?
この城、思った以上に探すの大変だぞ?」
【......小心者だね。
そんなに不安なら僕だけで行ってくるよ】
......?
おい、今なんて言った?
小心、者......?
僕が小心者って、そう言ったのか......?
【......?
どうした、そんなプルプル震えて......】
「おいドゥートス、それはちょっとみくびりすぎじゃないかい? 僕が、何だって?」
ドゥートスは決して僕に臆することなく、屈託のない笑顔を僕に突きつけた。
【小物っつったんだよ、このビビりめ】
こ、コイツ......!
無邪気な笑顔でなんて毒舌を......!
こんなどストレートに言うやついるかよ!
「......クソ野郎、言いやがったなコラ......!」
僕は冷静に引き攣った笑みを浮かべつつ、内心怒りがマグマのように爆発寸前まできているのを感じる。
まさかこんな唐突に煽られるとは微塵も思わなかったから、正直動揺を隠せないでいる。
王城跡地、正門の内側。
僕らはついに城の扉、入り口付近に辿り着く。
が、僕らの心境はややピリピリしたものだった。
たしかに僕は小物だ。
露骨な怒りを向け、拗ねた態度を取っていたのは我ながら子供っぽいとも思う。
だが、これから相棒になるかもしれない味方に突然小物呼ばわりとは毒舌がすぎる。
......さて、とりあえず例の人物の捜索だ。
ドゥートス曰くこの城の内部に拠点を構えている噂があるようだが、一体どこまでその情報を鵜呑みにしているのやら。
僕らは漠然とした手がかりに縋ったまま、気づけば王城内で遭難に近いような状況に陥っていた。
「おいおい、例の人物とやら、全然見つからないじゃないかよ」
【......おかしいな。
絶対どこかにいるはずなんだが......。
もしや隠し通路があるのか】
ちょっと頼むぜ、影の悪魔さんよ。
お前の意見を信じて僕はその伝説の偶像神ってのを探してるんだぜ?
せめてまともな手がかりくらい見つけてくれよ。
でなきゃ、時間の無駄だ。
浪費もいいところだぞ?
【この城は多くの難民を受け入れた場所でもあるそうだからね。
そのせいか、どうも道が入り組んでて複雑になっているようだ】
「は? どういう理屈だよ?」
【あれ、怒ってるルマ?
なんかピリピリしてない......?】
......僕が怒ってるかって......?
......はははは。
はははははははははははははははは。
そんなわけないだろ。
僕は......僕はな......さっきから腹ペコなんだよ......!
こんなところでモタモタしてたら僕が餓死すんだ......!
ふざけやがってこの野郎......!
【しかし、ルドガリア城は立派だ。
伊達に何千年も続いているわけじゃないよ、この年季は】
「おい、悪いが僕はもう空腹が限界にきている。
お前の人探しに何時間も付き合うなんてのは無理があるぞ。
せめて、もうボチボチあたりをつけてから行動してくれないか?」
僕はピリピリとダイナマイトのように一触即発しかねない爆弾を両手に抱え、それらを理性で抑え込む。
ああ、この感覚、久々だ。
幼少期に飢餓で飢えそうになっていたのを思い出す。
ああ、そういえば最近、食べ物には恵まれていたっけな。
クソッ、久々すぎてイライラしてくる。
【......この王城は寝ぐらも多い。
そうだね。君の言う通りだ。
このまま無策で突っ込んでも時間を浪費するだけだ。
なら、僕の能力を使うべき盤面かな?】
「僕の、能力?
なんじゃそりゃ?」
【僕の能力......それは形あるものを創造できる力だよ】
「創造?
例えばどんな?」
【なんでもいけるよ?
道具、物、服、武器、機械。
基本、僕の知ってる物ならほぼなんでも作れる。
ただし、代償付きで】
「代償付き?
一体何の代償を払うんだ?」
【世界の影だよ。
正確には、この世界に存在する全ての影だ。
僕の能力は影の力であらゆるものを作れる代わりに、この世界からものを使った影の分だけ消失させる禁忌の能力なんだ。
ゆえに、君も安易に僕の能力を使えなんては言わないでよ?】
「ものを、消失させる......?
なんだそれ、どういう原理の話なんだ......!?」
【僕の力は世界から影を奪う力。
簡単に言うと、この世界にある『物』『光』『影』の均衡が崩れると物が光に当てられて消失してしまうようにこの世界はできているんだ】
「物が、消滅する?」
【例え話をしよう。
世界中の影を一点に集めた道具が存在したとしよう。
そしてその影は魔法の力を持ち、この世界で何でも作ることができる。
ただ、その魔法を使うたびに、使った影の量に比例して同等の質量の物が光に耐えきれなくなる。
わかるかい?
その魔法は使い方一つで何でもこの世界から消してしまう力があるんだ。
それが、危険な道具の正体なんだ】
「......つまり、影の力を使えば何かがこの世界から消失すると?」
【そう、それが僕の力『Shape Detail』だ。
場合によっては星も城も何もかも、気まぐれで消滅してしまう。だからこそ、この力を他の誰かに奪われちゃあいけないんだ】
「ねえ、それって人間も消えちゃったりするのか?」
【......ああ、塵一つ残らずね?
ルールはあるが、使い方を誤れば世界そのものを壊してしまう危険な能力なんだ。
だから、安直な考えでは絶対に使えない。使うことができない。
あらかじめ断言するけど、僕の能力は基本『いざという時のための切り札』だ。
それ以外の用途で使うつもりは毛頭ない。たとえ、君の頼みであっても考えは変えないよ】
「お前、そんなに凄いやつだったのか......?
成り行きでただ適当に契約しただけの普通の悪魔だと思ってた」
【......】
僕らは漠然とした手がかりを求めては、王城跡地にて暗中模索を繰り返し継続していく。
そして時間は刻一刻と過ぎ去り、三時間の時間が経過したあたりで僕の腹は限界を迎えそうになっていた。




