第十話 英雄の街のドゥートス(推敲版)
地底神ルドガリア......?
それって、地底領ルドガリアと関係ある名前なの?
それに、神気って......それなに?
【神気は神気だよ。
神の片鱗が宿る者の内側に秘められた特別な力。
神の気と書いて神気と読むんだ。
そして、地底神ルドガリアは滅びた地底の国『ルドガリア地底国』を創った、神話の時代に存在する神様のことだよ】
......つまり、地底領ルドガリアの由来となったってことか、その神様って。
なんかカッコいいな、英雄の名がつけられた町みたいで。
「ひとまずルートを教えてくれないか?
このどでかい地底領から例の人物を探し出すんだろ?
なら、お前の知ってる地形情報を僕に教えるのが筋じゃないか?」
【......いや、必要ない。
君の手を煩わせるまでもないよ。
僕の案内に従って、君は周囲の警戒にあたってくれ】
え、必要ないって......。
悲しい言い方するなぁ。
傷つくぞ、いくら悪魔相手だっていってもよ。
「......うーん。
僕、役立たず......なのかい?」
【気にしすぎだよ。
君が役に立たないのではなく、今回は僕が適任だというただ単純なことだよ。
だから君はなにも気にせず、自分のやるべきことに集中してくれ】
うーん......なんだか気になる言い方だ。
それに気にしすぎって、お前の発言があるから気になってしまったんだろ?
コイツ、もしやデリカシーに欠けているタイプか?
「うーん......とりあえず、太陽軍に追いつかれる前にこの地底領を脱出する手立てということでいいんだよな?」
【当たり前じゃないか。
太陽軍は執拗に僕らを狙う連中なんだ。
今頃血眼になって智慧の洞窟周辺を探し回っていると思うよ?】
......しかし、僕らを追ってきていた太陽軍の連中は正直手に負えないレベルで強かった。
流石に辺境までは手が回らないとは思うが、それでも太陽軍上位の連中は格が違った。
もし追いかけてるのがそいつらなら、一刻も早くこの地底領からの脱出を試みなければならない。
「......はぁ。
本当に、勝てるのか?
太陽軍にさ」
【弱気だなあ、君は。
でも大丈夫だよ。
君には僕がついてるし、それに何より君には人にはない特別な能力が宿っている】
「特別な、能力?
なに、それ?」
【それは君の心の中にあるものだ。
君はどんな境遇でも、誰にも成し遂げられないものに立ち向かえる勇気がある。
今は怖く感じているかもしれないけれど、いつかきっとそれらは克服できるはずだよ?】
......立ち向かえる、勇気?
「......過大評価だよ。
僕にはそんな勇気、残念ながら備わってはいない」
【まさか。
君は君が思う以上の存在になれる。
その資質を秘めている人間なんだよ。
今はネガティブになってるけど、君は苦難や挫折を乗り越えられる人間だ。
そう悲観することなんかないよ】
「っていうか、なんで僕が励ましを受けてんだよ。
悪魔でしょ? なんで人間の僕を励ましてるのさ?」
【いや、君には必要な言葉かなって思ってたからさ。
君は前の戦いで壁を目の当たりにしたはずだ】
それは、悪魔の森を訪れる前に遡る。
僕がとある国で武術家をやっていた頃の話だ。
当時の僕は、世界中の強き戦士が集まる『英雄の街』に住んでいた。
英雄の街ではありとあらゆる強さを秘めた全盛期の戦士たちが鎬を削り、僕もその渦中でそれらの戦士たちを圧倒するべく研鑽を積み、多くの強敵たちを撃破していた。
僕は、有頂天とは言わずとも、本当の意味で自分が最強に近づいている気がして楽しかったのを覚えている。
でも、それらの日々は唐突に終わりを告げた。
僕の住まう国に太陽軍が進軍してきたのだ。
太陽軍は僕らの街を瞬く間に火の海に変えると、そのまま街に集う英雄たちをばったばったと薙ぎ倒していく。
無論、僕も最強の力を持つ彼らには歯が立たず、人生で最も大きな挫折と壁を経験していた。
僕は、一日にして全てを失った。
逃げ延びたはいいものの、太陽軍の連中は英雄たちを酷く敵視しており、一人残らず僕ら武術家の卵でさえも殲滅しようと試みていた。
そんな時、僕はヤツと出会った。
影の悪魔ドゥートスだ。
ドゥートスは僕に『力が欲しいか?』と尋ね、そして力の片鱗を僕の目の前で見せてくれた。
そして僕は、おそらくドゥートスの口車にまんまと乗せられたのだろう。
ドゥートスが望む『僕の十年分の記憶』と引き換えに僕は契約を結んだ。
が、僕の記憶が都合良く引き抜かれる中、ヤツは自身が太陽軍に狙われていることを僕に告げたのだ。
つまり、僕とドゥートスは二人して太陽軍に追われる立場にあるということだ。
そこから僕らは決死の思いでの逃亡を果たした。
空に飛び降りたり、地中に隠れたり、時には街を犠牲にしたり。
僕はそんな心と体をすり減らす思いを乗り越えて、今なんとかここに辿り着いているのだ。
だからこそ、僕は自分の使命の重さを投げ出さない覚悟を決めている。
それが、僕が犠牲にしてきた人たちへの手向けになると思うから。
僕は多くの人の命と引き換えに自分の命を繋いできた。
必死に逃げるため、はたまた自分を生かすため、僕は自分の出来うる最大限の努力を支払ってきた。
だが、僕の望む結果はなに一つとして手にすることはできなかった。
僕を助けた友人たちは太陽軍の巻き起こす惨劇に巻き込まれ、僕の命を繋いでくれた恩人たちの故郷は漏れなく襲撃された。
中には不本意ながらも命を落とし、また家族を失った者たちもいるだろう。
それでも、僕は戦わなければならない。
立ち向かわなくちゃならない。
それが、僕の使命だから。
今まで僕の命を救ってきた人たちへの償いだから。
僕はもう、これ以上逃げることは許されない。
どんなに怖くても、戦わなくちゃいけない。
戦士として、人々を助ける救世主として、僕は次の命を助けなければならない。




