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死神って言ったってなんでも力技で解決する訳じゃない。

遅くなって申し訳無いです!

今回はアスカパートとイツキパートという感じで、やはりトウマくんは脇役並みになっています。彼がツッコミ役を一手に引き受けてくれました。

楽しんでくれたら嬉しいです。

「ふー、残業タイムの始まり始まりっと…

まぁ、残業じゃないんだけどね」


アスカはそう呟くと、遺品整理を始めた。

しかし、遺書らしきものも、なんなら自殺手段まで全くわからないのだ。アスカも決して遺品整理が苦手な訳では無い。


「これは遺書、無さそうだよなぁ…」


パチンと指鳴らしをすると、散らかった部屋が元に戻った。

無口頭の鍵動作(トリガー)魔術、【超速状態復帰(おかたづけ)】。名前はダサいが、その効果は凄まじく、込める魔力量によっては絨毯にくっついたまま千年たったスライムや絵の具、バキバキに壊れた棚でさえ元に戻すと科学的に立証されている。


そのあと彼は、【光花少結界(ホタルブクロ)】で保護していた魂の一部を、あろうことか自分の体に押し付けた。


一瞬膨大な恨みのエネルギーが暴れまわって彼の体を奪ったが、アスカは自身の魔力コントロールでそれを落ち着かせて体の主導権を取り戻した。


(なんとかなったみたいだね。あとはこの子が書いてくれればいいんだけど…) 


アスカが行ったのは、自分の体に死者の魂を入れて、体の主導権を一部渡すことで情報を紙に書き出す【共魂記述(きょうこんきじゅつ)(ほう)】。あくまでも動かすのは死者の魂なので、筆跡まで完璧だ。


「さぁ、情報を書き出して。君の遺書を作って」


アスカの声に、女の声が混じった。

ペンを握り、慣れた動作で引き出しから便箋を取り出した。


『私は、何も悪くないのです。』


(…珍しいな。始まりが恨みでも怒りでもなく、宛名でもないなんて)


『私は、確かに彼女を追い詰めたかもしれません。

それは、殺そうとしたも同然かもしれません。

けれども、私は、実際に明日佳に殺意があったわけではないのです。』


(…びっくりした。漢字違うし、ここのアスカは女の子だね)


『彼女は私のことを大切にする反面、すごく重かったのです。

私は、それが少し嫌で、怒ってしまっただけなのです。

明日佳は、泣き叫んで、自分の体を自ら切り刻んだのです。』


(っ…これって…)


『彼女のことは好きでしたが、同時に私の悩みの種でもありました。

しかし、明日佳も、私がやったと言ったわけではないのですから、皆さんが勝手に解釈して、結果的に私を追い詰めたというわけです。』


(悩みの種、か。まぁそうだよね)


『ここに、皆さんがやったことを書けば、社会は解ってくれるのでしょうか。

皆さんが、私を池に落としたり…』


(あ、もーむりです!僕、意識シャットアウトします)


アスカはそこからは目を閉じて遺書を書いた。相手に少しだけ体を渡す、共魂記述法だからこそできることである。


結局遺書の枚数は三枚半にも上った。

アスカはそれを見て小さくため息をついた。彼は魂を結界内に戻し、もう一度部屋を確認してから飛び立った。



ーーーーーーーーーーーーー



「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


誰かの叫び声がしたと思って振り向くや否や、俺とミノリはため息をついた。


「またイツキかよ…今日だけで軽く三十回は叫んでるんじゃないか?」


「うるせぇ!二十八回目だこの野郎!!」


イツキにブチギレながら半泣きで言い返された。


「イツキは自分の表情筋と声帯の心配もしてあげたら?」


ミノ、煽りまくってるな…これが無自覚だったら、もはや才能だぞ…


「【花鳥風月】ッ!!!!!」


同僚(?)にいきなり幻覚技かけてくるとかイツキも大丈夫なのか?


瞬きをしながら目の前で手を振りまくって、『幻覚なんか見えてないっ!』と自己暗示をし続ける。

ほら、もう幻が消えた。幻覚技の解除は案外チョロい。


「イツキ、アスカに聞いたらどうなんだ?」  


「アイツは天才ってやつなんだよ…多分。コツとか、練習とか、そういうのじゃなくてカンとか、センスとかでやってる」


理屈が分からないまま、思い通りに操れるのか…とんでもないな。それはそれで困ることもありそうだけど。


「魂を狩る魔法なら、それこそ閃光星華(フラッシュ)の系統はどうなの?」


なるほど、たしかに、その教えるのが下手で感覚でやってるアスカからでも習得できたんだし、ナイスアイデアかもしれない。

…って、決めるのはイツキなんだけど。


「……悪く、ないな。いや、それだ。なんで思いつかなかったんだろう。ありがとう、ミノ」


「どーいたしまして!っていうか、君、お礼とか言えるタイプだったんだね」


「実験台に立候補してくれるのか?」


「え、えっと…」


よし。俺は関係ないな。うん。


「トウマ。閃光星華鎌(フラッシュシャワー)をここでやってくれ。遠慮はいらないから」


なんで俺なんだよ!…そうか。ミノは使えなかったな。俺は鎌を握って構えの姿勢になり、技を出した。


「【閃光星華鎌(フラッシュシャワー)】」


光のシャワーのような、そういうエフェクトのような、華やかで激しい光。

イツキはそれを、どこからか取り出した水晶玉らしきもので吸い込んだ。


「それ、何だ?」


「見ての通り、水晶玉だ。魔石とかいうのは莫大な魔力を無理矢理ただの石に詰めた、いわば粗悪品だし、他の宝石は何かしらの効果はあれども人間界と大して価値も変わらない。水晶玉だけは、閻魔城付近で異常にできるらしくてな。なんでも、閻魔大王様の魔力が壁やら床やらから少しずつ溢れて、結晶化すると水晶になるらしい。その仕組みはまだわかっていないのが残念だな。まあとにかく、研磨や融合は魔法でできるから球状にするのもかなり簡単で、すなわちそれは価格を下げることにつながり、買うことも作ることも容易となる。さらにこれは魔力を使う技や魔力そのものの蓄積や記録にも長けており…」


「「簡単にお願いします」」


「これは水晶玉。水晶玉は安くて作りやすくて魔法を記録できるすごいアイテムだ」


イツキは要約の達人かもしれない。


「これをもとに新しい魔術構成を考える。一時間しても何かやってたら呼んでくれ」


イツキは理科室のやつみたいな机に水晶玉を置き、何かを書き始めた。

彼が言うには、魔術は科学とおんなじで、元素記号のようなものがあって…という感じらしく、化学式みたいなのもあるらしい。その名も、魔術式。シンプルなネーミングセンスだなというのが俺の最初の感想だった。


そして、三十分ほどたって…


「できた!」


…早くない!?言ってた時間の半分って……

でも、気になる。見てみたいな。


「どうやって試すんだ?次の任務か?」


「そうはそうだが、俺は元々あまり任務が来ないんだよ。鎌使いとしての実力は最底辺だからな」


「ええ…じゃあ見れないじゃんか…」


そう言ってミノは項垂れた。俺もガックリだ。でも、確かにイツキってひ弱そうだし、任務も少ないのかもしれないな。なんて失礼なことを考えていたら。


「そーんなあなたに!久しぶりに依頼が来たぞー!」


うわ、アスカ、いつの間にいたんだ…そして、二人のアスカへの反応が非常に面白い。ミノは驚きすぎて気絶してるし、イツキは頬を赤くして固まっている。なんだろ。俺だけ普通っぽくて逆に珍しい感じ?


「え、あ、ど、どんなやつなんだ……?」


前までの余裕綽々、何しても落ち着いてるみたいなイメージはすでに消え去っている。しかし、ここまでドギマギすると新鮮で愉快だな。


「まぁ、ふつーの悪い人だよぉ。メンタルが心配なトウマくんも、やる気が出るか心配なミノちゃんも、過労気味の僕も安心だね!」


全員行く前提なのかい!でも結果的にナイス!あと言うてそんなにアスカが過労な気はしないけど、もうなんでもいいや。うん。




…わぁ。普通の悪い人って。普通ってなんやねん。コイツ確か指名手配されとったぞ…

現場に来てみたら超ゲンナリだ。

いや、悪い人が普通じゃない?いや、でも…うーん、悪い人って部類じゃ普通か?

ちなみにミノは魔力がないので無理だし、俺は券売機に嫌われているので、アスカとイツキにやってもらった。イツキはさっきから驚いてばかりで、加害者(?)である俺の目線からしても不憫である。


「ほらほら〜早く!嘘なの?ホントなのー?」


「どーしたぁ?好きな人のまえ…んグっ」


アスカとミノが楽しそうで何よりだが、俺はイツキのメンタルが心配だ。


「…お前ら、特にミノ。覚えてろよ。…【しばらくは花の上なる月夜かな】」


…俳句?しかも、自作じゃないやつ。

あと閃光星華の要素どこ?



…うわ!やっっば!きれい!


小さな花が繋がってできる一本の線。そこを彗星のごとく走る銀色。

花の上なる月ってこれのことか!!


花の道を逆に伝ってやってきた魂を掴み、イツキは気が抜けたように座り込んだ。


「や、やった…ていうか、ヒント一つでここまで簡単に出来るんだな…」


「ワー、スゴーイ。エイキュウキカンノデキアガリダネッ」


「すごい!すごいよイツキー!魔法作れるってほんとにほんとにすごいんだよ!絶対、地界クリスマスプレゼントだってもらえるよ!おめでとーー!!」


分からなくて棒読みになっているのが一名、純粋に感動しているのが一名。俺はなんて言えばいい?


「あ〜、えっと、えっと…あんな短時間でこんなすごい魔法作れるなんてすげぇな!おめでとう!」


「みんな、ありがとう…俺、もっと時間かかると思ってたし、自分じゃ全然できないと思ってた。ほんとに、ありがとう…そんで、ミノは特別実験台候補だな。一つ覚えたよ」


イツキは涙ぐんで嬉しそうにしたかと思った直後にイイ笑顔(なお目は死んだ魚と同レベル)になった。


俺は、何もないはず。俺は、何も関係ないはず。きっと大丈夫!

そう思おうとしたが、この魔術の開発に少しでも関与した時点で諦めた方が良いと悟ってはいた。

俺はミノに満面の笑みで「乙です!」と言って転移で地界へ逃げた。

しかしミノも転移ができる。結局次の日、俺は卍固めをかけられて全身痛くなったのだ。

イツキの魔法、【しばらくは花の上なる月夜かな】ですが、松尾芭蕉(敬称つけるべきなのか…?)の俳句です。

一応著作権の切れたものを使ってはいるつもりですが、何かあれば教えてください!季語は花らしい。

読んでくださり、ありがとうございました!

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