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死神って言ったってオタクくんの妄想が一切叶わない訳じゃない。

「私は、先代閻魔大王の犯した大罪、『強化新種実験』で産まれたんだ」

「………」

「産まれた体は純粋な知識深淵兎人だが、体は改造されたから、完全なそれではないんだよ」


 正直そのへんはあんまり頭に入っていなかった。

 新種、実験。

 出雲葵の頭なら、いやそうじゃなくたって言葉の響きだけで分かる、この話は絶対にグロい。


「えっと、あの…」

「見せてあげようか。中身」

 返事を聞きもせずにカナリアンドはシャツをたくし上げ、お腹に巻きついたサラシをほどいた。


 出雲葵は絶句した。

 カナリアンドの体の中にわけのわからないものが詰め込まれていたからだ。

 剥き出しになった腹の、その四角く切り取られた部分。ガラス張りのように透けたその四角の中には、脈打つ赤いハート型のゼリーのようなものと、大量の歯車があった。

 正直知的好奇心とか一切わかない。キショい組み合わせの内臓もどき。


「………なんか、壮絶そうですね」

「何の一部か、とか聞かないのかい?」

「見ればわかります。剛力紅蓮兎オーマーズハート合銀装死霊シルバーストでしょう。フィジギフで熱い心持った脳筋と、機械の体と無尽蔵のスタミナで戦う冷酷非情…正反対で相性は最悪です。もちろんそれぞれの知識深淵兎人メモリアビサーとの相性は極めて悪い…体が耐えたのが奇跡なように思えます」

 出雲葵は、不安になると饒舌になる。


「流石、博識だね。…………触ってみる?」

「やめときます」

 カナリアンドはなんともないような顔をしたけれど、出雲葵に言わせりゃそれは大怪我の断面や傷跡のようなもの。一歩後退した。それでも気にはなる。


「詳しく、話してください」

「もちろん。好きなだけ聞いておくれ」


ーーーーーーーーーーーーー


 先代の閻魔大王は異常なほど臆病でね。どこかから何かが攻めてきたとき、信用できる武器が欲しくてたまらなかったんだ。

 今の種族では足りないってことで、使えそうな種族でキメラ…新種をつくる実験が行われた。

 私は頭から上の部分と毛皮、そして魔法を使うための器官以外はほとんど変質している。逆に、この知識深淵兎人の脳は無事だったんだ。耳や脳の提供者になった者もいるそうだから、ラッキーだね。

 さっき君が言ったように、この実験、体が耐えられない場合がある。そもそも生きるのに必要な器官を失う場合もね。何人、何体もの地界の生物が死んだし、そうでなくても生死の境を彷徨った者も多い。後遺症も少なくないそうだ。


 その中でも、特に犠牲者が多いとされたのが、剛力紅蓮兎。彼らの肉体は強靭で筋力も物凄いが、魔力への耐性が全くなかった。周囲に魔力を感じるだけで吐き気をもよおすし、少しの魔法攻撃で身体が動かなくなってしまう。それまで淘汰されず適応せず生き延びてきたのが不思議なほどだ。そんな彼らに、魔力を当たり前に使う種族と合体することなんて無理だったのさ。


 剛力紅蓮兎の絶滅原因は粛清だが、そのもとである反乱を起こした原因が、この実験なんだよ。


ーーーーーーーーーーーーー


「そんで、この二つの実際の効果と副作用なんだけど…」

「もう、いいです」

「いいのかい?」

「目を背ける恥より、メンタルの安全です」


 きゅっと拳を握りしめ、目を逸らしながらそう答える出雲葵。カナリアンドは笑った。

「恥ずかしいことではないよ。知り尽くし壊れる者はたくさんいる。そうなる前に自分の判断でやめられるのもまた賢者だ」


「…それじゃあツアー再開してください」

「ああ。心ゆくまでご案内するよ。ってことで…」

「?」

「まずは剛力紅蓮兎の伝統料理、死弄系羅麺しろうけいらーめんなんかどうだい?そこの【罪深くあれ】とかオススメなんだけど」


「…」

 出雲葵は、兎の胃袋を舐めていた。


ーーーーーーーーーーーーー


「【スカイブルー・シャイニー】っ!」

「【海宝崩壊ラメルカタストロフ】」

「【ジュエリア・ファイヤー】!」

「おいリトミック終わってねえぞボケが!!!」


「リトミックはやってるしー!」

「音のリズムに合わせて動き、音が止まれば対応する。指示はそれだけのはずですよね」

「それなーっ!自己解釈して勝手にキレてやがんの!乙!!」


 あー、助けてください。またカノンがブチギレそうです。かれこれ数十分リトミックさせられてイライラしたアスカとツヅリとミライが同時攻撃しかけました。


「屁理屈言うやつきらいだわー…」

 カノンはピアノを叩くように鳴らし、それに合わせて蝶が舞う。

 大爆発。何発かすでに食らっているので避けることは出来るのだが、当然避ければ遠ざかるので難しい。


「あーあ、だる」

 ピアノから手を離し、カノンは蝶々を食べ始めた。意味が分からないが、先ほどから時々、食べてはため息をついている。タバコみたいなもんだろうか。



「っし、やるかあ…」

「な、何を?」

「うーん、粛清?」

 鍵盤を叩く。手を離す。音が止まる。足元で爆発。上から槍。横から幻覚を見せる蝶。斜めからは吸うと気持ち悪くなる煙。


 けれども俺達は槍を避け、怖さに耐えるだけで良い。

「【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】!!」

 イツキがタンク役みたいになってて可哀想だが、これが便利なのである。

 「過毒、転じて薬となす」…。つまり、受けたら害のある魔法や術の類いを全て、無害で心地良いものに変えてしまう魔法。


 ちょっと思いついた。

「おいイツキ、それもしかして、アレな感じの魔法か?」

「そうだよ、呪文の構成的にアレなタイプだ」

「じゃあアレをぐるっとしてここでパーっとやればドカンってなるってこと?」

「そんなような雰囲気にならんこともない」

「じゃあ俺たちがワーワーやるからイツキもバーっとぐるぐるしてがんばれ」


 流石に本人の前でそのまま作戦会議はできないので指示語まみれだが伝わったと思う。


「コソコソ喋んなようるせえな」

「ピキッてるピキッてる…ガキすぎだろ」

「ねー、大人げないわよねえ奥さん?」

「ああ?」

「ちょっと言い返しただけでこーんなにキレ散らかしちゃって?あ、もしかして効いてる?効いちゃってるぅ?」

「あらら〜?この程度で我慢の限界〜?」

「黙れ!!!」

 毒持ちの蝶々が来て、同時に体がビリビリするようなピアノの音に脳が震わされる。正味しんどい。



「【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】!」

 毒の蝶々はただの蝶々になる。

「マジでお前らな!!それアタシより先のステージで通用すると思うなよ!!!!!!」

「ハッ、イキリ音楽教師が嫌いなだけだよ!」


「くっそ…ストレス溜まるなお前!!」

「えー、諦めたらいいのに反応するからでしょ?オモチャ役買ってくれてありがと♡」

 カノンの良いところ(?)はキレ性なところ。今のところ、まだ行動が分かりやすい。なにもこれが本領だってわけじゃないと思うが。

 イツキが溜まったヘイトを【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】で集めると、分かりやすく彼に攻撃が集中する。そこに集まってカバーに入る。

「【混合結界】!」

「【暮帳】!」

「【珊瑚塀】!」

 カノンが鬱陶しそうな顔をする。演奏も止まったまま、あちらの防御に一瞬の隙が入る。

「【重圧混合突ヘビーダイヤ雷迅ゴールドエラー】」

「【ときめき♡トゥインクルショット】!」

「無駄だっつってんだろ!!!!」


 怒鳴りながらピアノを叩き、蝶を飛ばすカノン。一通りの攻撃が終わっても蝶を舞わせ続けるあたり、相当イラついていそうだ。


 爆発。

「【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】」


 槍雨。

「【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】」


 毒蝶。

「【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】」


 地獄のような音も、ぐらぐらする床も、煙も、その一言で覆る。ひっくり返った攻撃は癒やしの魔法的なアレになる。



 カノンも馬鹿じゃない。何度か試した末、癒し系の術を放ち、美しい旋律を奏で始めた。

 が、普通に優しさとして受け取る。別に反転させたくなっていい。流石にちょっと消耗していたイツキも、調子に乗って軽くジャンプなんかしてる。


「まじで何?ウザいんだけど」


 投げやりな攻撃。それがまた、覆る。


「クソがよっ!!!!【乱数超過効果ランダムバタフライ】!!!」

 聞いたことない呪文に合わせて光が飛んでくる。

 なんとなくだけど、ランダムでバチクソ強い治癒かバチクソ強い攻撃が来るやつだろう。


 これを待ってた!


「ツヅリ!ちょっと受けてみてくれ!」

「馬鹿なのかなあ?!下手したら死ぬよ!!」

「もう死んでるだろ!」

「くそったれ!」

 それでも光をかするように受けてくれるツヅリ。

「癒しの方だ!」


「アスカとミノ!跳ね返して!」

「上等じゃあオラァ!【すーぱー以下略】!」

「任せてよね!【混合結界】!」

 水と結界で受け止め、

「【重圧混合突ヘビーダイヤ烈火レッドロック】!」

「【微強星光圧スターライト】!」

 跳ね返す。


「ミライ!」

「【ときめき♡トゥインクルショット】!」

 勢いをつける。


 カノンは、攻撃すれば【過毒・転薬(パラドックスフラスコ)】で無効化されると思っていたとは思うが、跳ね返されても無問題なので真顔でそこに立っていた。

 カノンは、イツキのこの魔法の性質を勘違いするように、この戦闘で刷り込まれている。










「【過薬・転毒(パラドックスフラスコ)】!!!」







 カノンに当たる直前、癒しは転じて攻撃となる。

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