死神って言ったって鎌しか使わない訳じゃない。
ちょっと遅くなりましたが、大目に見てやってください。
「えっ?エレベーター使うの?」
「えっ、逆に使わなかったの?」
「ミノは気合いでできるって…」
「あー。それは、ミノちゃんが凄いだけだよ…
生前は柔道だの剣道だのバレーだの色々やってたらしいしね」
初耳である。あの人にそんな経歴が…想像がつかない訳じゃないけど。
「僕はエレベーターを使うけど…大丈夫?」
「むしろ大歓迎」
「オッケー。発券も簡単だから、すぐ覚えられると思うよ。因みに、わからなくなったら何回でも聞いてくれていいからね!」
このセリフ、ホワイト企業である。多分。
「じゃ、見ててね!」
「はーい」
アスカは発券機らしき機械に触れた。
『ドン!』
ん?
『ベキッ!ガシャガシャッ!』
んんん?
『ザクッ!メキッ!』
アスカは触れているだけなのに、凄く物騒な音がする。
『ヴィーーーーン、ピコッ!』
最後だけ電子音っぽくしてもさ…
「ここに手を触れて、魔力を込めるだけだよ!加減もいらないから大丈夫!」
「あ…ハイ。精々頑張るわ」
魔力は知らんけど、手に力を込める感じかな?ミノはもしかして、魔力がなかったんだろうか。
『………』
なんか黙られるといらつくな。
「なんとか言えって!!!」
生前からこうやって機械に怒鳴ったりしてたな…
『ナントカ〜』
は?喋ったし。しかも…うざいし。
「あ〜、トウマくんにはまだ早かったかな!」
「あ、あははははは…」
「おいアスカ!!!」
ん?誰ぞ?ってイツキ?!は?!もう腱鞘炎は嫌だ!腱鞘炎だけは!アスカって言ったよな!俺は大丈夫だよな!
「お前、そいつと行くのかよ…」
「うん、まぁ、そだね」
「お、俺がっ!バディになるって…絶対絶対強くなって、アスカの隣に立つんだって…言ったよな……!」
おおぅ。そーゆー展開なの?これを熱い友情や憧れの感情と取るか、恋の感情と取るか…
どっちにしろ、そういうのが好きな人には多少の需要があるのかもしれないが、今ここには少年漫画もBLも嗜む程度の俺しかいないし、どこにも需要がない。
俺にとってひたすら居心地が悪い空間になってるよ。これ。イツキさん、キャラ崩壊なさってますよね。確実に。
そしてアスカ!お前、キス魔どころか浮気常習犯だったの?そんなにバディになりたがってる奴いるなら早く組めよ!
「うーん。僕はイツキのこと嫌いじゃないよ?まだ候補だし、大丈夫大丈夫!」
「そういうことじゃないんだよ…」
イツキが俺のことを睨んできた。
「そ、そうそう!俺、ミノと相性良かったしさ!」
俺なりの正当防衛だ。通じるかどうかは別だけど。
「ね?僕はイツキがここまで来てくれるの、待ってるからさ」
アスカが平然とイツキの額にキスをしているが、平然とやっていいことではない。俺が腐男子だったらこの状況でも喜べたかもしれない。
「さー、トウマくん、行こう!」
「お、おう…」
結局はアスカが俺のチケットも用意してくれた。エレベーターはミノの気合による転移には劣るものの、かなりの速度で上がっていたようだ。なにしろ、一分しないうちに地上についたのだから。
「今日トウマくんに学んでもらうのは、人の殺し方です!」
「えっ、それって…」
「あ、いや、違うよ。あのね。ほら、どうしようもないけど、まだ明るみに出てない人はいっぱいいるわけでね。そういう人を黙って警察に任せちゃおけない全世界の安全を守るなら、我らも力を貸すべきだって、閻魔様が仰ったの。」
それでほんとに力を貸すなんて、もしかして、地獄…じゃなくて地界って、現代日本より良いところ?いや、検討をしない直情的な閻魔大王様ってこと?
そんな俺の考えをよそに、アスカは死神とは無縁そうな道具を取り出した。弓矢である。
銀色の洗練されたデザインで、様々な花と雷の彫刻が目立つ弓。同じく銀色の矢。多分高級品だろうな…。
「これは僕の大事な相棒、エクレーラブロッサム」
「えくれ…?」
「なんかよくわかんないけどね、閻魔様にいただいたの。ネーミングセンスの文句は閻魔様に言ってね〜」
『なんかよくわかんないけど閻魔大王にもらったもの』って…怖すぎだろ?!
「んじゃ、見ててね。ターゲットは、あそこ。あのおばさんね。なんでも、ママ友の家から毎回色んな物を盗っていくんだって」
そんなのざまぁ系漫画動画でしか見たことないぞ?!
「あと、現在不倫中で、それから時々虐待の疑いもあるねぇ」
うーむ。大分クズ。
「だから、こういう人が毎日ちょっと嫌な思いをする呪いをかけるの。発散されたら困るから、ストレス発散ができなくなる呪いもね!」
けっこうすごい呪いかけるな…。なんとなくだけど、やっぱり雷とか出てくるのかな?
「せーの、ほいっ!」
一発矢を放っただけだった。そんだけでもすごいのはわかってるけど、ちょっと拍子抜けだなぁ。
「人の殺し方って、嘘なんだな。はぁ、よかった」
「えっ?これは準備運動だよ?」
「ほぁ?」
「まぁ、暗殺に近いやり方になるんだけど…」
「平然と話を進めないでくれ!」
「ほら、本命はあそこ。あのお兄さんね。あの人、元カノいっぱい自殺に追い込んでるからさー。はぁ…顔面はめっちゃタイプなのに…」
このシーンでそれ?!イツキに殺され…はしないか。元々死んでるし。
「そんな冗談はさておいて、よーく見ててね。狙うのは心臓と脳。封印とかの意味も込めて、ここから射るときは二つともきれいに射抜かないとだめなんだ。近くで誰かが鎌を持って待機してるときは別だけどね」
そう言うと、さっきとは全く違う顔つきと姿勢で弓を構えるアスカ。なるほど、おちゃらけてるあの感じがなくなればそれなりに可愛い系のイケメンだ。
「【春雷の轟き】」
淡いピンクの雷…とでも言えばいいのだろうか。銀色の矢はそれに姿を変え、ターゲットの家の窓はおろか、そこまでの途中経路…家や雑居ビルや看板まで何でもないように突き抜けた。
しかしそれらに穴は空かない。そして、ターゲットの近くまで来ると…一気に心臓を貫いたのだ。脳天も射抜かなきゃだめだから、まだ平気そうだけど。
それにしても…技名が厨二病だな。いくらエクレアの語源が雷でも、無理あるだろ…。
「【閃光星華矢】」
あ〜、フラッシュね。カメラのフラッシュにご注意くださいの。…………は?なにそれ。
矢がさっきの雷とは比べものにならない白い光を帯び、またさも当然かのように障害物を貫通し、頭に突き刺さった。
新死神の俺でも、見ただけで、とんでもない魔力と想像を絶するコントロール力がいるとわかった。
「す…すげぇ…」
あまりの非現実的な現象を見せられて頭がパンクしかけ、その言葉しか出ない。これが語彙力低下というやつか。もともと語彙力ないけど。
「ほら、トウマくん、魂取りに行くよ」
「あ、あぁ。わかった」
二級死神アスカ。彼にバディができない理由は主にその思考回路や性格のヤバさからだと思っていたが、実際は違う。
性格も大いに理由だと思うが、それ以上の理由があった。高度過ぎるその技術と魔術に追いつけるものがいないのだ。
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