死神って言ったって無自覚に上手くいく確率が一ミリも無い訳じゃない。
昔話長いから読みたい人はじっくり読んで嫌な人はパーっと飛ばしてね
昔々、地界には、【忘却記録の深淵】と呼ばれる場所がありました。知識深淵兎人は当時は記録番翼兎と呼ばれる種族で、忘却記録の深淵に入るため、筋肉量の多い身体に羽がついていたそうです。
さて、忘却記録の深淵は、落ちたら戻ってこられない、とても危険な場所でした。しかし、そこでしか得られない知識や技術があり、その情報で、記録番翼兎たちの集落は発展していきました。
ある日、彼らは考えました。この技術が、この武器があれば、我々はさらなる発展を遂げることができる。戦争をしてみよう、と。
結果は、大敗に終わりました。興味だけで戦い、危険に慣れてしまった彼らと、守るものがある他の種族では、士気が違ったのです。
記録番翼兎たちは散っていった仲間たちを惜しみ、自分たちの軽率な判断を悔やみました。もう、忘却記録の深淵に入ることはやめようと誓ったのです。
やることがなくなったので、一日中祈ったり、本を読んだりする者が増えました。
運動しなくなり、羽は退化し、脂肪は増え、今の体型になったと言われています。
偏った記録を捨て、新たな真実を求め、教え合う。真の知識の深淵は、己の知識欲にあり。我々は、心の内の知識の深淵へ、永久を旅する者。わたし達は、そうして知識深淵兎人と名乗り始めたのです。
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「これが、種族の物語。わたしたちの話をするには必要な前置きだから、一応話した。じゃあ次は、わたしたちと、それから、おかあさまの物語」
中々長い話にぐったりしていた竒は絶望した。まだまだ話は続くらしい。
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さて、身体能力の低いわたしたち。基本的に、結婚相手は、生活リズムの合う同族が多いのだけど、おとうさまは違ったの。
見た目はそっくりだけど、筋肉量と気質は全く違う、剛力紅蓮兎の末娘と結婚した。なんでも、喝上げから助けてもらったらしいけど、詳しくは割愛するね。
さっきも言ったけど、見た目が似てても体の中身は違う。おかあさまは、胎内の魔力に耐えられなくて、スワンチェを産んでからすぐに死んでしまった。
ねえスワンチェ、覚えてるかな?おかあさまは、真っ黒な体に赤い目と髪で、武術に長けた人だった。
この清読拳も、お母様に習ったものなの。…というより、もとの拳法をわたしの体でも使えるように練り直してもらったのだから、わたしがやってるのは、清読拳・改って感じだけど。
話がそれちゃった。天使のなりそこないって呼ばれてるのは、あなたの魔力が強すぎるから。だから、古代の魔法を簡単に習得できたし、おかあさまの体を壊してしまったの。
感情と魔力が昂ったとき、体が魔力に対応するため、無理矢理形を変え、より魔力を持つ昔の姿になろうとする。
背中を触ってみて。小さな翼があるんじゃない?普段は無いし、あっても存在感が薄いから、気付きにくいけど。
…その羽根が天使みたいってどこぞの大馬鹿者が言って、それからよ。あなたがそう呼ばれるようになったのは。
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「酷い…」
「みんなして思い込み、激しくない?」
「わたしたちは本の読み過ぎで無駄に空想力が上がってしまったのね」
一番部外者の竒が一番落ち込んでいるのは謎だが、まあ、地界でも差別というのはなくもないのだ。
「さ、話したのだから、帰ってちょうだい」
「ちょっとまって!質問に対する返しがないじゃないですか!さっきの…なんか、変な、怖そうな魔法は、なんなんですか?」
「キギョーヒミツだよ」
スワンチェが返す。
「いや、でも、対価は…」
「必殺技のことを簡単に教えて生きて返す訳がないでしょう?さっきの対価は、わたしたちの歴史分だけの情報。…受けてみれば、わかるかも」
誰が受けるか。卑怯だし詐欺師みたいだというのが竒の感想ではあるが、値切ったところでこちらの秘密をバラしてしまうのがオチである。
「…素直なのが竒の良いところですから」
律儀に野宿できる場所を聞いてきたものだから、クラウチェは本の鎖を千切って、栞代わりに挟んでいたホテルのチケットをあげた。
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「ねえ、なんで来たの」
「弟だもの。それに、閻魔様から命令を頂いたの」
「そんな大事に…」
「あっ、違う違う。スワンチェにお仕事があるの。大事には至っていないし、大丈夫よ」
「…え?」
閻魔城までかなりあるが、転移するのもめんどくさいので果てしなく歩く。
「ん?」
「お仕事って…なに?」
「ほら、訓練の…先生みたいな?みんなと話をしながら…ね?」
スワンチェが絶望に満ちた顔をしてこちらを見上げるのをガン無視し、説明を続けていたら、壮大なドロケイの叫び声が聞こえてきた。
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「いぇーい!ぎゃるぴーーす!」
「青明力の取得ー」
「だいせいこー!」
「うむ!おめでとう!」
あーうるせえうるせえ。こんなに苦しんでる俺らの前で記念撮影できるの才能だよ。なんで赤暖簾までノリノリなんだようぜえよ。
「はーうざ」
「唐突なURG行為によって脳が破壊されました」
イツキはミノブチギレ案件のちょっと後に来て、絶賛修行中である。言い方を変えると、完全に出遅れた。
「ミーノちゃーん!早く早くっ!ピカピカっと習得しちゃえ!」
「…致死量の水か、ボッコボコの満身創痍か、エネルギーの暴力か、土下座、好きなの選びな」
「今ミライ無敵だもん」
「いてこますぞ!!!」
さーて、ミノが油を売ってるうちに頑張って抜かすぞー。
「あっ、紫髪少年、もう合格だぞ!」
「エ?」
「気付いていないのか?全力でやれば、そっちの集団と同じ威力の魔法を使えるって。思い切りの良さが足りないんだ。今のお前なら、完璧な魔法だって夢じゃないぞ!」
なるほど。褒められると嬉しいものだ。覚悟がありゃできる、と。
「イツキーーっ!頑張れよー!」
早速煽り布陣に加入した。
剛力紅蓮兎は現在絶滅しています。末娘が家を出てから家の雰囲気がギスギスし始め、それが闘争本能になり、牛頭鬼たちよりも大規模な反乱を起こしたのです。防衛側の先代閻魔軍にも大きな損害をもたらした結果、リーダー格は処刑され、周りの者も殉死しました。
知識深淵兎王は妻をどうにか守りましたが、仲間の死は彼女の心と体を蝕み、スワンチェを産み落とした一年後、亡くなりました。
スワンチェのせいだけじゃなかったのにね。
知識深淵兎人の寿命はだいたい百八十年くらい。若者とされるのは四十代くらいまで。




