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死神って言ったって必ずしも見た目と実力が一致する訳じゃない。

こんばんは、お久しぶりです。何かが終わるたび何かが始まるもので、修学旅行のまとめやらオープンスクールやら習い事の発表やら色々追い詰められてます。実は次の話も半分くらいできてる。

「やああああああっ!!!!」


「だからちょっと待ってくれ!!」


「赤暖簾さんこっち!【ペケ+十文字(プラスじゅうもんじ)・バリアアンブレラ】!」


 赤暖簾をこちらに庇い、ミノの拳を必死で止める。

 さっき「多分才能ない」って言われてブチギレて、その後連れてこられたミノは、俺たちに全力を以て八つ当たりしている。乱闘なう。言い方って難しいよね。


「破アッ!!!」


「やめろって言ってるでしょ?!聞こえてない?!耳鼻科連れてくよ!」


 そろそろほんっとうにマズい。腕がばぶってきてるよ…ぷるぷるしてるよ…赤暖簾焼も何かやれよ…後ろでチキってんじゃねえぞ…


「【スカイブルー・トラッキング】!」


「【守護電波瑠璃蝶ガーディアン・バグ】っ!」


「【群青聖火インファイア】」


 なんでこの状況で着々と練習してんだよ!何?見せつけですか?ふーん俺たちなんてボコボコにされればいいんだそんで屍の屍と化した俺たちはお前らに踏まれて地面になってそこから草が生えて世界樹になっちゃえばいいんだ…


「トウマっ!次が来るぞ!」


「えっ?!あっ、うわぁっ!」


大慌てでバリアを構えたのだが…


「っ…ちょっとまって…」


 直前、ミノは無理やり拳を開いて、何度か深呼吸。反射的に苦裏夢疎堕を渡してしまった。何故持ってるか?地界の味が恋しくなるときを待っていたからに過ぎない。今はミノにあげたいのであげた。

 一気飲みしてからもう深呼吸して、ミノはこちらに向き直った。


「いやーごめん。才能ないってあんなにハッキリ言われたの初めてで。分かってたのに、カッとなっちゃった」


 かなり罪重いよ?許さないよ?大体あなた、俺が勝つまで絶交みたいな雰囲気じゃなかった?


「じゃあ、お互い頑張ろう」


「お、おう…」


 未だバディとは性格理解のすれ違いが起きているみたいだ。


ーーーーーーーーーーーーー


「うわぁーーーーっ!」


「きゃあぁぁっ!」


「ほら!まだまだいくぞーーっ!」


 楽しそうに暴れているのは、アミステッドと出雲葵と枕、以下、天界の住人たちだ。何故か彼らはゲームの世界のようなフィールドで走りまくっていた。

 壮大な鬼ごっこである。


 参加者は、追いかけてくる人形から逃げ、アミステッドの妨害に気をつけながら、時々現れるエルマ(ボス)を倒す。人形に触られたら牢獄フィールドへ。捕まっていない者に触られたら復活可能。

 まあ、いわゆるドロケイである。

 ちなみにこのフィールドで許可される青明力の使用は、身体強化、足場の作成など、攻撃性のないもののみである。理由は簡単。危ないから。


 アミステッドによると、今回のテーマは【身体能力の向上(レベルアップ)】らしい。よくあの短時間でこのフィールドを思いつくものだ。

 ちなみに、今は不在のためエルマがやっているが、しばらくしたらスワンチェがボスになるらしい。


「ねえ、こんなんでホントに強くなんの?」


「なるさ。オレの考えは七割が大当たりだ。それに、身体能力が上がらなくても、協調性も生まれる。不満を持つ者がいたら、相応にレベルアップしたステージを見せるさ」


「ふーん」


 いつだって言い切って、自信に溢れ、変なところで謙虚な彼をエルマはじっと見つめていた。

 エルマも、イロリ、シオリも、クラウチェも、アミステッドの出自を知らない。種族も、故郷も、あやふやだ。姿は人だが、人型の種族なんていくらでもいる。


 揺れる抹茶色のくせ毛と細められる同色の目は、時々空気に溶けているように、エルマには見えていた。

 それがなんだか怖くて、訓練という名のドロケイをしている皆にピントを合わせた。


ーーーーーーーーーーーーー


「ねえ、どこまで行くの」


「とにかく遠いところへ。お姉様に気付かれたら厄介でしょう?」


「逃げても無駄だよ。姉上は僕なんかよりうーんと強い。すぐ見つかって、倒される」


「ならば、見つかってもすぐに逃げれば良いのです」


「それも限界があるけど…」


 どうでもいい、というのが正直なところだった。この際、知識深淵兎人メモリアビサーの家から追放されて浮浪者になってもいいかもしれない。むしろ、そうなったら気が楽だ。


「スワンチェ!!」


「…もう来ましたか」


「言ったでしょ」


 今一番会いたくない人に会ってしまった。その人は、家族か親友か何かが緊急事態だと言わんばかりの焦った目をしていた。


「スワンチェ、悪いことは言わない。その子はきっと、あなたに危害を及ぼす。一緒に帰ろう?」


 差し出された灰色の手は少し濡れて、震えていた。


「…姉上、他にやることあるでしょ。こんなどうしようもない奴の相手、するよりさ」


 何かかっこいいセリフの一つや二つ吐きたいのに、口から出たのは捻くれた、情けない言葉だけ。パシっと手を払った。

 嗚咽が混じる前に、口を閉じる。口角を無理くり上げて、茶髪の少女を振り返る。


「竒。見ての通り、僕は逃げられる精神力がないし、姉上も逃がすつもりはないみたい。どうする?」


「…竒は、目的があってあなたといるのです。お力添えをいたしましょう」


 チャリ、と鍵のネックレスを触ると、竒はクラウチェを睨みつけ、叫ぶ。


「【施錠ロック】!」


 本に鍵がつき、開かなくなる。それでも彼女は動揺を見せない。もう一度鍵と力を構え直した。


「【最上級視覚中全展開フェヲストロプ激流ガルナード】!」


 スワンチェの掌から放たれる水柱。一度目を閉じ、開ける。クラウチェの周りに炎の渦が生まれた。

 じゅわぁっと大量の湯気が立ち込め、三人の視界を奪う。


 竒はこれはチャンスだと考えた。知識深淵兎人は鈍足だからだ。今のうちにクラウチェを連れて転移すれば安全。そのためには、自分の周囲だけ、湯気を消さないといけない。


「【封印ロック】」


「あら、これは術ではないから、封印しても効かないというのに」


「?!」


 今の今まで離れていたのに、耳元で声が聞こえる。知識深淵兎人の足でこの距離を詰めるには、十秒弱くらいはかかるはず。転移?いや、魔法を使った感じじゃない。

 急いで走る。方針転換。今はスワンチェより己が逃げられるかどうかだ。


「そこまで逃げなくても…わたしはね、」


「【施錠ロック】!」


 言い切られる前に、その両手に鎖を巻く。また本を出されたら困るのだ。


「反応速度はいいけど、考えなきゃ。あなたが今、危惧するべきは、わたしの魔法じゃなくて、何?」


 ぐっ、とクラウチェが力を入れると、バキバキと音を立てて鎖が取れる。少し手を振ったりぐーぱーしたりしてから、さくらんぼ色の目を細めた。


「【視覚中全展開フェヲストロプ大穿焔ヨンドンホルフ】!」


 矛の形の炎弾が放たれる。全てを躱し、難なくスワンチェの目の前に立った。スワンチェは、ぺたんと座り込み、体を震わし目を泳がす。


「あ、あ、あねうえ、その…」


「なあに?ゆっくり話してごらん?」


「…」


「じゃあ、少し待っていて。一度あの子とも話をしてくるから」


 竒は、スワンチェの心が揺らいでいるのを感じた。鍵をかけているのに。

 まだ抵抗しているのか、それともこちらが作戦にはめられたのか。それはわからないが、もう一度かけ直しておこう。鍵を握れば、声に出すより少し疲れるが、術が使える。


「それはだめ。今は、わたしの邪魔に集中して?」


「【施錠ロック】!」


「【清読拳しんとくけん水面船みなもぶね】」


 じゃらじゃらと伸びてくる鎖を、姿勢を変え、動きを止め、跳び、走って避ける。一々アクロバットでキレがあるから、こんなときに竒は感心してしまった。


「いや、鈍足のはずでしょ…」


 一旦感心してからの絶望。すごいなぁ、から、どうやってあんなに速く動けるんだろう、となり、最後に、今の言葉が出た。


「隙を見せたら、危ないでしょう?【記録記憶深淵(メモリアル・アビス)】」


「【不可ロック】!!!」


 これは食らったら終わりだと、なんとなくそう思った。跳ね返してから、クラウチェが死ぬのではと思った。でも、跳ね返ってきた力の塊は、彼女に抱きしめられると、嘘のように消えてしまった。

 ぽかんとしていたら、足を払われ、押し倒された。


「スワンチェさん。なんで、このひとは、こんな体術が使えるのですか。今の、何なんですか」


「…姉様は特別なんだよ」


 顔を背けられ、教えてほしいことは教えてもらえなかった。


「…知りたいなら、教えましょう。我々知識深淵兎人メモリアビサーは、対価が渡されれば、誰にでも知識を与える。そういう掟なのだから」


 回りくどい言い方だが、クラウチェが言ったことをまとめるとするならばこうだろう。

 一、今知りたいことを教える。種族の掟だから。

 二、対価を与えられれば、誰にでも喋る。


「なるほど、わからないですね」


「聞いてくれたこと、教えてあげる。だからね、スワンチェにかけた術を解いて、今日は帰って」


 竒は頷いた。スワンチェの心の封印は、もうすぐ勝手に解ける。スワンチェ自身が、そう望んでいるから。精神の封印というのは難しいのだ。

 まだ彼には話したいことがあったが、明日、明後日でも遅くはない。よって、こちらに損はない。


「じゃあ、長い長い昔話から、始めなくっちゃね」

清読拳とは、知識深淵兎人がまだ筋肉を持っていた時代に栄えた武術です。今の脂肪まみれの体では不可能な速さで攻撃を躱し、打ち込みます。手足が短くてもできる単純な打撃技がほとんどです。完全に習得した者は敵の動きを物語として認識、速読し、伏線や話の流れから次の攻撃を予知できると言われています。

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