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死神って言ったっていつまでも誰も才能開花しないって訳じゃない。

テストが終わり、修学旅行が終わり、日常を取り戻したところで何でもなかったかのように帰ってまいりました。

「スワンチェ、起きてるかな。大事なお役目、きっと喜ぶはず!ふふっ、久しぶりの姫の帰宅だもの。みんなをびっくりさせなきゃね」


 クラウチェは上機嫌でいくつかの荷物を抱えていた。弟のスワンチェと、それから親戚、家族へのお土産だ。

 スワンチェへの贈り物は、香りが消えず、長時間咲き続ける夢時ゆめどきの白梅。エルマに特別に用意してもらった最高品質のものである。ちなみに、選んだ理由はなんとなく。

 家には、閻魔大王の好物と名高い巻欠龍まかろんを沢山。もっふもふの毛皮の下にたっぷりの脂肪を抱えている親族たちも、このお菓子は大好きだ。

 閻魔城の襤褸練膳ボロネーゼも悪くないが、商品ではないので、大量の保存容器を持っていくことになる。それよりも、大きなきれいな箱を持っていく方が良いと思ったのだ。




「あら?やけに静かねえ」


 いつもなら、もう少しは音がするはずなのだけれど。

 耳を澄ます。

 本のページをめくる音や、紅茶を注ぐ音。音楽好きの父がほぼ一日中動かしているオルゴール、動物好きの祖母が飼っている鳥のさえずり。一音も聞き逃さない兎の耳を、一層そばだてて、聴こうとする。

 何も聞こえない。


「みんなでおでかけ、なんて、可愛いものではないのかも…」


 毛を逆立てて、ちょっとピリピリしながら進む。大きな飴色の扉を、ゆっくりと開いて。


「おとうさま?おばあさま?」


 返事はない。部屋のドアに耳をくっつけると、かろうじて寝息が聞こえる。


「スワンチェ?アイビスピー?カナリアンド?クレイン?」


 弟やいとこたちも、応答することはない。

 まるで、屋敷ごと眠っているみたいだ。


「いくら怠け者と言っても、知識深淵兎人メモリアビサー全員がこんなに静かに眠るなんてことないはず…」


 魔法だろうか。それなら、相当な魔力がいるはず。戦った形跡もないなら、集団ではないのか?しかし、一人でこの大きな屋敷の住人を全て眠らせる魔法などあるわけがない。


「否、一つあるのよね」


 単語全てに意味と魔力がある古代の言葉を使った魔法が。


「古代地界語…ならば…」


 こんなに広範囲で、強い古代の魔法を使えるのは?それも、誰にも疑われずに一人で。


「スワンチェ!!」


 家族とスワンチェを天秤にかける訳ではないが、今は弟を探すのが最優先だ。たとえ、真犯人でなくても、真犯人でも。

 背中に括り付けていた本を取り外し、唱える。


「【最上級意識中全展開トゥロスカロン探知ミーピーサルユェ】」


 クラウチェの専門は、普通の魔法だ。詠唱簡略に使うので少し齧ってはいるが、この分野に関しての理解はスワンチェに劣る。ここでこの方法を使ったのは、彼への罪滅ぼしのようなものだった。

 ページがパラパラとめくられ、真ん中あたりで止まる。

 白紙のページに文字と地図が浮かび上がる。スワンチェの居場所だ。読み通り…いや、読み以上にかなり遠いところにいる。


「あっちは二人いるみたい……でも、一人でいかないなんて、姉が廃る!」


 うんうんと頷いて、クラウチェは走り出した。そのあと、すぐ戻ってきて、巻欠龍と白梅だけ置いて、また出発した。


ーーーーーーーーーーーーー


「はぁーっ?!オレが修行の先生三番手に抜擢?!」


「え、あ、嫌?」


「最っっ高じゃねえか!もー、なんでもっと早く呼んでくれなかったんだよーー!なあエルマ?!」


 呼ばれて飛んできて大声歓喜背中バシバシ。なんとも暑苦しいこの男こそ、閻魔大王側近の一人、アミステッドである。


「オレは何をすれば良いんだ?!」


「知らんよ。火あぶり地獄でも作っとけば?」


「そんなんじゃつまらないだろう?!もっとこう、ゲームのような、サーカスのような修行が良いんだ!楽しくて、レベルアップできて、協力できて、ゾクゾクするやつ!」


 アミステッドの強みは、戦闘力ではない。アイデア力と拘りの深さだ。ゴールのために幾つも計画を立て、一番楽しい、頑張れるものを実行する。基本的にはエルマも彼に共感し、好きなようにしてもらっているのだが…


「バカ言うよ。今日からなのに」


「えっ」


「説明されなかったの?今日からだよ?」


「だって、知識深淵兎人メモリアビサーの姉弟もいないし」


「あの時計ウサギもどきが正確な時間に来る日には槍の雨が降るね。最初から想定してあるし僕がカバーするから、アミステッドは気にしないで」


 エルマはヒラヒラと手を振って、昨日と同じそれっぽい修行場に向かう。アミステッドはビシッと敬礼して、スケッチブックに色々描き始めた。


ーーーーーーーーーーーーー


「あついよぉ〜はぁ…まぢ死ぬ。無理なんだけど」


「集中!私たちなら絶対青が見える!気を確かにいこう!」


 炎に当たり過ぎて、若干二人とも人格が溶けてきている。アスカはボブヘアーに挑戦しようか迷っているし、ツヅリはいつもより謎に元気になっている。由々しき事態である。


「大体青って何?赤の中の青って何さ?」


「知らないよ…」


「あっ、見えたかも!」


「嘘でしょ裏切ったの?!」


「…」


「コツとかやり方とか教えてくれるよね?」


 正気を取り戻しつつギラついた目で見てくるツヅリに、アスカは一歩引きながら首をこくこくと振って答える。


「心の中を凪いだ湖みたいにしてね、その中に火を入れて、絡み合って、水色の炎ができるのをイメージするの!」


 今度はツヅリが一歩引き、微妙な笑顔で頷いた。

ーーーーーーーーーーーーー


「【スカイブルー・シャイニー】」


 まるでいつもの魔法のように、当たり前のように青明力を使いこなし、水色の眩しい光を放つ。炎を飛び出してここまで歩いてきて、赤暖簾にコツや使い方を説明されて、少し練習して、それでもまだ二十分も経っていない。

 赤暖簾焼は、彼女を不審そうな目で見ていた。

 こんなに早く青明力を使いこなす者が、いるはずがないのだ。使い方や感覚が魔法と似ていても、紋さえ刻まれていないのに、こんなに早く知らない技術を習得するなんて、不可能に近い。


「なあ、もしかしてお前は、何かそういう、特異体質なのか?」


「え?」


「青明力を使うには、潔白さや魂の輝きが不可欠。その、魂の輝きが、君はすごいんだ」


「たましいの、かがやき…」


 きょとんと首をかしげ、うーんと考え込む。一挙一動がとにかくあざとい。それと共に、また少し、周りが煌めいた気がした。


「…ミライね、今、すっごく見た目も喋り方も変えてるの」


「そーなのか…」


「演技してるって言われたらそうなんだけど、全然嫌じゃないんだ。なんでだと思う?」


「その自分が好きだから…とかか?」


「流石海瑠璃サマ。わかってるね!」


 ミライはちょっと黙って言葉を練って、また喋り始める。


「ミライとしてここにいるのは、反則だって、本来すべきことじゃないって、言われると思ってる。生まれ変わった気分になるのは、逃げなんじゃない?って」


 喋るのはあんまし得意じゃないから、と、少しずつ文を区切って音読するように、ミライは語り続ける。


「たしかに間違ってない。でも、逃げてばっかじゃないよ。ミライは、聡太が自分と向き合って、一番なりたい、一番憧れる自分になるために出来た、リメイクとか、イメチェンみたいなものなの」


「リメイクとかイメチェン…」


「そ。どんな風にしたら、俺は自分を認められる?前の自分から変わるには?どんな髪か、メイクか。そうやって、デザインとかイメージとかを重ね続けて、外見を完全に変えた」


「それでこのミライの誕生なのか…」


「うんうん。そーなの!そんでね、外見変えたら、もう全部、楽しくなった。前と同じことをしても、前提として可愛い、サイキョーの女の子なんだよ?だから、最高!」


 青空のような笑顔を向けられたら、イマイチ言ってることがわからないなんて言えない。


「これは恋なのだろうか。いや、なんか違うな…」


「何?もういいならさっさと続き教えてよお。ミライ、まだ高威力技出ないの」


「お、おう!魔力のように自分から力を出すのではない!空気中から揺れる青い力を掻き集めろ!」


「はーいっ!」


 ミライはぎゅーっと握っていた拳を広げて、深呼吸して、集中した。

 ひんやりとした風と、暖かい光の中から、清々しいものを集めて、集めて。


「【スカイブルー・シャイニー】!」


 もう一度、強くて優しい、空色の光の塊を作り出した。

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