死神って言ったってそんなに耐久値高い訳じゃない。
無断欠勤ごめんなさい…三年生忙しすぎる。隔週になるかもです。
「ねー、イロリぃ、機嫌直してよ…」
「やだ、だるい」
「そんなこと言わずにさぁ…」
「閻魔様を侮辱するやつは誰であろうが…んぐっ」
「私が魂の一片も残さず斬り裂いてやる、でしょ?わかってるよー」
イロリの口に無理矢理ロリポップを突っ込み黙らせたあと、シオリはその続きを述べる。それは、ずっと前に、毎日のように聞いていた台詞だった。
「まあ、気持ちはわかるけど、あの子は知らずに言ったんだ。それに、イロリの言う閻魔様は、もういないんだからさ」
「…」
「わかったらさっさとレッツ会議!…ま、しばらくは喋れないけどねえ」
にやあっと嫌な笑いを浮かべてシオリは自分の口を指差す。まるで、鏡になって、イロリに「キャンディだよ」と言うように。
「んっ?!んん?んんんんーーっ!」
ロリポップが口から離れてくれないことに気付いたイロリは声量だけで怒りを表現するも、シオリは可笑しそうにニヤニヤするだけ。
「ま、次からはワカラセをされる前に口を噤むことですな…っと」
会議室の前に着くと、シオリはやっと指を鳴らしてロリポップを外せるようにした。
「ぷはぁっ。やっと取れた…」
「たのもーーーーーっ!」
イロリが他に何か言う前にバァン!と、人一人吹っ飛ばす衝撃波が生まれそうな音を立てて、扉を開く。そこではもう既にエルマとクラウチェが席についていた。
「あら、二人も来た。さ、お座りして。閻魔様が来てからでは遅いの。ふふふっ、このお部屋に入るのも何十年ぶりかしら。ああ、このお部屋の香り、前のに白梅を足したのね」
「クソがあの侮怒雨呪酢一気飲みしか能のないファンキー陰キャ陽キャ野郎…アイツがいなきゃ僕ももう少し楽なのに…」
「「二人ともどうしたの?」」
しきりに鼻を動かしては恍惚とした表情で何か呟いているクラウチェに、鋏を高速で磨きながら恨み言を言っているせいで、呪いの儀式をしているように見えるエルマ。はたから見れば狂人集会もいいところである。
「遅れたのじゃ!」
そこでバタバタとメリザが入ってきたことで会議は始まった。
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「…で、なんで閻魔様は僕たちに何も知らせてくれなかったわけ?」
「閻魔様…私たちをお呼びになられたということは、このクラウチェもとうとうまともな仕事を…!」
「メリザ様。ちゃんと説明してください。天界の者たちはもう来ているのですよ」
「客人を待たせるなど言語道断なのです!」
お説教を受けて、メリザはしゅんとしながら、バツが悪そうに口を開いた。
「ぬいぐるみ通して話していたら決まっちゃったのじゃ…」
「「「は?」」」
イロリ、シオリ、エルマの声が揃う。それは、三人の機嫌が更に急降下し始める合図だった。
「いやいや、まずぬいぐるみ越しに話すなよってイロリたちに何度も言われてたよね?」
そう、実は、ぬいぐるみを通しての会話自体禁止されているのである。人間で言えば、スマホ禁止中に電話していたようなもの。ブチギレ案件というやつだ。
「イロリ。これは怒るべき」
「奇遇ねシオリ。私もそう思う」
「えっと…閻魔様、言いにくいのですが、あのぬいぐるみ越しだと、あまりにも簡単にやりとりが出来てしまいます。大事なことはお手紙や対面でお話しないとですよ」
とうとう、ほぼ妄信者状態であるクラウチェにまで言われてしまったメリザは、少し縮こまって目をうるませた。
ちなみに、ラズリが持っている水色のくまのぬいぐるみ、マリンと、メリザが持っているピンクのくまのぬいぐるみ、ユウヒは、元々はセットなのである。
これは数年前、人形供養に出されていた夫婦ぬいぐるみを、ラズリがかわいそうに思って拾ってきてしまったことから始まる。一度臣下に叱られたが、なんだかんだで戻すことができなくなり、そのまま彼のものになったのだ。そして妻のぬいぐるみがメリザの手にわたり、何故か魔力と青明力に対応してしまい、電話のようになってしまったと。かなり無茶苦茶ではあるが、それが現実なのである。
「うう…でも、そうしたらあのぬいぐるみは、ただのぬいぐるみに、なってしまうではないか…」
「ぬいぐるみはぬいぐるみなんですよ、元々…ってこんな話をしてる場合じゃなあい!」
「まず、何故か知ってたエルマくんに話を聞こうか」
「ええ…?僕は、閻魔様が、「じゃあ、こちらも幹部を揃えて待っているのじゃ」って言ってたのを聞いて。ほら、分身だと本体には聴力も記憶力も劣るからさ、自分だけ忘れてるんじゃないか…?って思ったんだ。そんで、それっぽいところが庭の近くにあったから、そこに立ってたら来た」
「…エルマは、悪くないな」
「とにかくともかく、順番決めましょ」
「一番目は代えようがない。僕がやる。次は、今いないけど、アミステッド。アイツの爆弾でや焼きをいれよう。そんで次はクラウチェで…イロリとシオリはじゃんけんして決めて」
「よし、それで行くのじゃ!アミステッドは呼び出しておくのじゃ!」
こうして、ほとんどエルマによって方針が決定されかけたそのときだった。
「閻魔様、ちょっと待ってください。あの、私の弟を、エルマの次に推薦させて頂けませんか?」
「クラウチェの弟?」
「それだけはやめて!」
なぜかエルマが激しく反応し、一瞬にして、会議室に静けさが広がった。
「アイツは今出しちゃダメだ!」
「いいえ、姉として、あの子をこれ以上静観しているだけというわけにはいかないの…私には劣りますが、実力は十分。閻魔様、いかがでしょう?」
「良いのではないか?知識深淵兎王の息子。申し分ないではないか!」
こうして、次はエルマが出る間はなく、今度こそ会議は終わったのである。
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「うぇあいずでぃーす…」
「あいどんのー…」
ケーキと別れるや否や、よくわからんところに飛ばされた次第である。あと、なんとなく、全部の場所が、天界だから穏やか〜な場所か、訓練フィールド的な場所だと思ってたら…。
周り、真っ赤なんですけど。燃え盛ってるんですけど。何?滝行の炎版やります!とかだったら洒落にならないけど?
「前途多難、支離滅裂、目の前全てを焼き尽くし、深紅の勇者となる者よ!ここに!」
うるさい…ケーキと別ベクトルでうるさい…。見た目も、髪目共に真っ赤でうるさいし、生声の声量がうるさすぎてバケモノだこいつ。まあ、ここにと言われてしまったからには行こう。
「はじめまして!俺の名は、赤暖簾 焼海瑠璃第六席にして、鬼火聖剣の使い手だぁっ!さあ真似して自己紹介だ!」
えっ…、ええ?この人の真似すんの?この声量で?嘘だよね?
あ、この目マジだ。でもイツキにトップバッターは任せられねえ!ええい、ままよってやつだ!
「…はじめまして!俺の名は、志賀実藤真!四級死神にして、鎌と包丁の使い手だーっ!」
「はじめまして!俺の名は、紫野ノ目何時輝!二級死神にして、鎌と魔法の使い手だーっ!」
すべてをノリに任せる。これが新・陰キャの戦い方。長いものには巻かれるように、デカい声にはデカい声で対抗する…って、真逆の意味だけど。目には目を歯には歯をってやつか。
「良い挨拶だ!これからしばらく、よろしく頼む!」
頷いて一人で納得しながら、またまたクソデカボイスで何か言っている。声帯が強い。
「さあまずは、気合いを入れる復唱だ!【元気いっぱい、海の中でも消えない炎】!リピートアフタミーーッ!」
「「【元気いっぱい、海の中でも消えない炎】!」」
「あと九回!」
「「【元気いっぱい、海の中でも消えない炎】!」」
こうして、十回よくわからんセリフを唱えたあと、俺たちはやっと訓練を始めさせてもらうことになった。ちなみに、それまでの間に数組のグループが来たが、熱血系死神と熱血系牛頭鬼のグループばかりだったので、とてもうるさかった。みんな声帯強い。
「君たちにまずやってもらうのは、滝行ならぬ火行!心頭滅却すれば火もまた涼し!石の上にも三年!赤の中に、青を見つけるんだ!頑張れ!」
「マジで滝行の炎バージョン?!?!」
「マジで滝行の炎バージョンだ!!!」
こうして、イツキと二人、炎の中で座り込むことになってしまった。
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「あ、ツヅリちゃん、お疲れ様っ」
「アスカ…おつかれ」
比較的元気なアスカと、若干疲れているツヅリ。二人は合流したあと、二度と変なところに首を突っ込むまいと、早足で歩くことにした。
「壺、どうだった?」
「全然割れなかった。数十回は殴ったね。そっちは?」
「僕は…うーん、まあ、普通かな?思いっきりやったらうまくいったよ!多分!」
「不安だなぁ…」
その視線に、アスカはちょっとドキドキしていた。もちろん、先生に呼び出されたときや後ろめたいことがあるときのドキドキである。
(ちゃんと全部やれたか、確認しておけば良かったなあ…)
「アスカ後ろ!!!!!」
「え」
ツヅリの声に振り向いてみれば、そこには。
巨大化し、道いっぱいになりながら迫ってくるプリンがあった。
(倒すとか、バリアとか、そーゆー次元じゃないよね、これ。逃げても追いつかれるだろうし…)
「【珊瑚塀】!」
「ツヅリちゃん、その壁じゃすぐ押され負けちゃう!」
「わかってる!だからアスカは、あたしが止めてる間に違う道から周り込んで!はさみうちだ!」
嫌とは言えなかったし、ツヅリに代わってこの壁をしばらく守れる気はしなかった。だからアスカは、すぐそばにあった脇道に入り、さっき出てきた場所に戻り始めた。
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「喜べミライ!やっとゴールだ!これでアンタともおさらばだね!」
「ホント最高!せいせいする!」
「それが残念、そのペアは、修行を達成するか、どっちかがリタイアするかしないと変わらないんだよねぇ」
「「ケーキさん!」」
「ふふっ、たしかに最初はうざくてたまらないかもね。でも、案外、気に食わないやつってのは、最後まで一緒にいるものだよ」
ケーキは、洋服のリボンを弄りながら話し始めた。
「私にもね、嫌いなやつがいた。雪江っていって、雪のように冷たいし、嫁の貰い手がいないって親が嘆いているのを何回も見たもんだよ。ただ…製菓に関しては、完全なる天才だった。何度も何度も、きれいで美味しくて新しいお菓子を作り続けた。私はそいつに勝負を挑んでは負けて、何回かは勝ってを繰り返した。そうしたら、大人になってお互い店を持つようになっても、ずーっとお向かいさんで張り合うようになったんだよ。結局、生涯、関わりの絶えない人になってしまったのさ」
「雪江、向かいの店、張り合う、お菓子屋さん…」
ミライは何かが引っかかるようにその言葉を呟き続ける。ミノは、首をかしげながらケーキを見続けた。そしてミライは、ハッとして顔を上げ、ケーキに問いかけた。
「もしかして、あなた、【ステラスカイ・ケイク】の、天野蛍子さん?!」
「だれそれ?!」
「知らないの?!生涯現役、七十五歳で亡くなるまで、東京の大人気スイーツ店オーナーで、SNSでも大人気!ひとよんで、最新マダムパティシエ!めちゃくちゃ有名人!」
「じゃあ、雪江って人は?」
「そっちも知らないの?!生涯現役、」
「もーいいよぉ、雪江のことは。それより、もう出発の時間だ。次のステージでも頑張ってね。それから…ケーキのことは、おばあちゃんとかマダムってより、ただのお菓子が好きな人って思っておいて」
ミライの熱のこもった解説をヒラヒラと手を振って止め、ケーキは二人を見送った。
「ステラスカイの一番人気は、電車の形のトレインケーキ。星空の電車、つまりは銀河鉄道。銀河鉄道を旅したあとも、永遠に友達でいられますように」
空は高く青い。天界のこのエリアでは、そもそも夜という概念がない。
「一段落ついたら、夜空が見える町でお菓子屋さんを開きましょうか」
ケーキの心は、違う眩しさを求めていた。
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「スワンチェ、お前にお客様だ。一度お会いしなさい」
「……」
「スワンチェ」
「今、行きます」
くぐもった息子の声を聞き、知識深淵兎王は小さく溜息をついた。
「何度も言うが、お前のせいではないのだぞ。…もうすぐ部屋までいらっしゃる。失礼のないようにな」
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「スワンチェさんの部屋であっていますか?あなたに、どうしてもお伝えしたいことがあって」
「…合ってますよ。どうぞ」
ドアを開けると、人型の少女が立っていた。地味な風貌をしているし、サキュバス系統ではないだろう。だとすれば、樹華精霊や死神あたりだろうか。職を決めていない亡者という可能性もある。
「あなたは、誰ですか?」
「はじめまして。私は竒。率直に言います。竒は、天国の者です」
一瞬、沈黙と緊張が走る。天使。天国に存在する、自我や感情のない種族。喋ることもほとんどないという。しかし、彼女は、はっきりと自分の口で話し、こちらの目を見ている。聞きたいことは山々だったが、ひとまず、一番最初に思い浮かんだ疑問を投げかけた。
「…天使が僕に何を言いに来たの?」
「スワンチェさんは、知りたくないですか?何故自分が【天使のなりそこない】と呼ばれているのか、今知られている歴史が、本当に世界の真実なのか」




