死神って言ったって常に底辺な訳じゃない。
お久しぶりです。この岬アイラ、春休み期間を思いっきり楽しんだのち、宿題に追い詰められておりました。でも、数週間分あるので、文量が多分、過去一、二を争うくらい多いです。怪文書な部分が多々ありますが、生温い目でお読みください。
(迎え撃つ…のは、無理か。ミノちゃん戻っては来ると思うけど、間に合わないよねえ…)
せめてもの抵抗で後ろに下がると、背中が壁に当たった。
「ミライみたいな可愛い子をイジメちゃダメなんだよ!ねえ、聞い…」
聞いてる?と言おうとしたが、蒸しパンが動く方が早かった。ドッ!と音を立てて、壁に叩きつけられる。もう一度蒸しパンを見上げる前に、新しい打撃が入る。顔だけは死守しようと腕を交差させたときだった。
「【重圧金剛突・雷迅】!」
蒸しパンの影が雷が落ちるような勢いで退かされ、目の前が少し明るくなった。
バチバチと電気を纏ったその拳が、再び蒸しパンに向かう。
「っ…ごめん!その…ほんとに、ごめん。大丈夫?足とか…」
「ミノ、ちゃん… 」
「えっと、立てる?」
慌てながら心配そうにこちらを見てくるミノに、ミライは笑いがこみ上げてきた。
「ふふっ、さっきとは大違いだね。ミライ、そっちのミノちゃんの方が好き」
「ええ……?」
普通なら迷いのないビンタが飛んできたかもしれないが、今のミノは心配と困惑が勝って、微妙な反応をしている。それがミライにとってはこの上なく面白いことだった。
「普通に足は痛いからしばらくは背負ってよ」
「……だんだん嫌になってきたけど、こればっかりは私の責任だ。わかったよ」
何度目かの再スタートで、ようやくまともな会話ができるようになった気がした。
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「バカなの?!アホなの?!狙ってやったなんて言ったら殺すよ!」
「だから、狙ってないってば!!!」
半ギレのツヅリと、半泣きのアスカ。二人を追いかけるのは、壺プリンである。壺であるがゆえに防御力が高く、さらにその壺からは無尽蔵にプリンが溢れ出るという代物だ。既に二人ともプリンまみれで、しかし服を綺麗にする余裕などなく、結果ベタベタになりながらも逃げ回っていた。
アスカが「なんだろこれ」と壁に掘られたプリンの絵を指でなぞったら、出てきてしまった。何が起きたかと言われればそれだけである。絵をなぞったら、お菓子が出てきた。
プリン壺の速度が思いの外速く、迎え撃とうにも勢いで吹っ飛ばされる気がしたので、妨害もせず、ひたすらに引き離そうと頑張ったのだが…むしろ逆効果だった。壺プリンはまともに追いかけられるだけでもキツかった。
「ついに来た分かれ道!二手に別れよう!」
アスカは右に、ツヅリは左に進む。壺プリンは…あろうことか右を壺、左をプリンで両方の道に入っていった。さっきまで壺から作られていると思われたプリンは、実は自己増殖だったという、考える限り最悪なオチである。
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「壺か…勢いと重さと堅さ、完全重戦車型。あたしとの相性は…すっごく微妙!」
ツヅリも、撹乱やスピードを活かした戦闘よりは単純な勢いとパワーに任せるタイプである。つまり、壺とツヅリは似た者同士。長期戦になること間違いなしなのだ。
「【監獄の銀鎖】、【珊瑚塀】、【海宝崩壊】!」
とりあえずチェーンで捕まえて塀で囲って技を叩き込んでみたが、あまりうまくいかない。鎖は壊れそうだし、このままだと塀も保たないだろう。ツヅリはその効果が持続している間に距離をとった。
「割れ物注意なんて、こいつには全く似つかわしくないわね…!」
あまりの堅さに苦笑いし、その後も殴ったり蹴ったりしてはみたが、どうもうまくいかない。ダメージは入っているようだが、すこぶる微妙なのだ。地味に亀裂はあるが、ほんの少し欠けているだけ。到底そこからクリティカルヒットなどできやしない。
「壁に衝突させて…いや、微妙だなあ…」
とはいえ頑張ればなんとかなりそうな気がしたツヅリは、もう一度鉄球を構えた。
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「弓が欲しいよぉっ!」
アスカの切実な叫びがこだまする。プリンがだんだん増えながら、ドロドロとスライムのごとく迫って来ていた。
「うう…弓があれば一掃できるのに…鎌は重いんだよぉ…」
そう呟いても弓が降って出てくる訳では無いので、仕方なく鎌を持つ。
「【無限翼刃】!」
プリンが黄色と茶色のドロドロと化したので、アスカはホッとしながら分岐点まで戻ることにした。
そのとき、ギリギリ生き残ったプリンが増殖し始めていることに気付くことはなかった。
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「だからこの鍵何に使うんだよ」
「知らんよ」
かれこれこんな会話をするのは六回目である。ケーキからもらった意味わからん鍵は、意味わからんまま変わっていない。
イツキが言うには、このまま進んでいけばゴールにたどり着くらしい。地図を見て覚えてくれた。すごい。クリエイトパレットで紙を作って描き写すという手は、「紙とペン描くより覚えるほうが早い」とかいうイツキの主張によって却下された。意味わからん。でも有り難くはある。今のところちゃんと進めているし、問題はない。
「まあ、ちゃんとゴールできるなら、変にこの鍵使って遠回りになるよりそっちのほうがいいだろ」
言う通りである。俺もイツキも冒険心は特にないので、早めにゴールできた方が嬉しい。
そして…
「よっしゃあゴールだぁ!この感じ、一番乗り?!」
「一番乗りっぽいぞ!やはり冒険心は要らなかった!」
なんということでしょう!ビリから始まる白群色クリーム地獄攻略、成功です!そんで…
「鍵が、消えない…」
「普通こういう展開のとき消えるよな?こう、砂っぽく?だんだん粉みたいになってさ」
「無駄に解像度高いのやめろよ。そんで宝石部分が最後に残って、パッ!って消えるやつだろ」
共通認識、大事そうなアイテム使わないとサラサラ消えがち。いや、特に役に立たなかったし消えてもいいんだけど…
「ね、今、特に役に立たなかったなーって思ったでしょ!」
「うぇっ?!ケーキさん?!い、いや、そんなこと、ないです…よ?」
「うっそだぁ!ケーキ、ちゃんと聞いてたよ。消えるはずなのに消えないとか、冒険心は必要なかったとか」
うっ…しっかりばっちり聞かれてた…なんて言えば良いんだろう…
「その鍵はね、勇気と望みの証なんだよ」
「…ごめんなさいもう一回お願いできます?」
「だから、この鍵には、君たちの勇気と望みが込められてるの」
ダメだ。二回聞いても分からない。勇気と望み?望みはまだしも、勇気なんて、俺たちとはかなり縁遠い単語じゃないか。
「たとえビリになっても諦めず、仲間を守る。これが君たちの勇気かな。そんでもって、めちゃくちゃひどい目には遭いたくない。これが君たちの望み。どう?納得いった?」
なるほど。すごいいい感じに言語化してくれた。勇気の部分、本当はやむを得なかった感すごいけどね。
「だから酷いのには襲われずにゴールできた…ってことですか?」
「そうそう、おかっぱちゃんは理解力があるねえ」
「おかっぱちゃん……髪の毛切ろっかな…」
地味に嫌だったのか、しきりに髪をなでつけるイツキ。よく女顔が嫌なら坊主にしろという輩もいるが、坊主は坊主で嫌な人も多いと俺は思う。
腐りきった姫である俺には、アスカに「可愛いと思うけどなー」と言われて髪を切るのをやめるイツキの未来が見えた。
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「クソがよお」
「知らねえよ」
「えと…大丈夫かな…」
「愉快愉快!」
エルマに「次に行っていいよ」とは言われたものの、次の会場らしきところに誰もいなかったため、出雲葵と枕は閻魔城まで来てしまっていた。
警備兵に止められ、不審者として捕まり、焦って叫びに叫んだところ、「何の騒ぎだ!」と色里が駆け付けた。そこで事情を話すと、彼女の表情は引きつり、妹である汐里を呼んだ。
結果、双子とその他一部の召使いがこの訓練に参加しなければならないことが判明。それ以前に、側近である彼女たちが、天界と同時進行で強化訓練が行われることを聞いてすらいなかったので、どこかで閻魔が変なことを言ったのであろうと結論づけられた。
そして現在に至るのである。
「いや、これってさ、いわゆる交換留学生的なやつな訳。そんくらい察せない?」
「それなら、あんたらより忙しいこっちの事情くらい察して欲しいね」
「ま、まあまあ、二人とも…」
「いやー、すごい展開だあ!いとをかし!」
「汐里さんも止めてえ…」
枕は一人、言い争いに入るに入れず、縮んでいた。汐里はさっきから何を言っているのか分からない。しかし、その意味不明な言葉が、言い合いをしている二人の神経を、逆撫でしていることは明らかだった。
「とりあえず!閻魔大王に色々聞いてくるから、適当に地界観光でもしてきなさい!」
「誰がこんなトップ層終わってる場所で観光するかボケぇ!」
出雲葵は勢いでそう返したが、それを聞くと色里は今までの言い合いと比べ物にならないほどに憎悪に溢れた顔をした。汐里は、「あちゃー…」というような顔で姉の方を恐る恐る見ている。
「ごめんなさいっ!この子、すぐ言い過ぎちゃう癖があって…。本当は、そんなこと、全然思ってないんです。あとでよくよく言っておきます。本当に失礼しました」
枕はとっさに、出雲葵の頭を下げさせ、自分も同じようにした。汐里はそれを見て、慌てて二人に駆け寄った。
「ごめんごめん、頭上げてよ、こっちにも原因あるんだしさ。すごい感情的になっちゃったし…姉が色々怒鳴って悪かったね。私もこうなる前に止めなかったし、申し訳ない。今日は多分、打ち合わせになっちゃうだろうし、明日また来てくれないかな?」
「あ、はい。でも、私たち、このあたりのことわからなくて…」
「そうだよねえ。…夢魔族の里に行ってみるといい。あそこの標識から少し歩くと、テレポートできる場所があるよ。あ、夢魔ってのは、元々は変な夢を見せるものだけど、今は色々分かれて、眠るのがめちゃめちゃ好きな種族ってだけ。安心して」
ちなみに、悪い夢を見せるタイプと淫夢を見せるタイプは、それぞれナイトメアとサキュバスに分かれたと言われている。
「なるほど…?」
「その里に行ったら、いい感じの場所を見つけて、こう言うんだ。【夢の守り人が愛すは、夢の守り場なり】ってね。そうしたら、寝る場所は見つかると思うよ」
「ふ、不思議ですね…」
「でもって、これは迷惑料だ。オークの定食屋、【とんとん飯】の、週替わりメニュー無料券」
汐里は枕に、角のある豚さんが描かれた小さい紙を二枚握らせた。天界の住人は、食料や睡眠を必要とする種族が多いのだ。
「いいんですか、こんなに」
「こんなにって量じゃないでしょ。それに、客人にはおもてなしってのがマナーってもんさ」
ちなみに汐里は勘違いしているが、本来地界の【客人にはおもてなし】とは、『不法侵入者に容赦などいらない。ぶちのめせ』という物騒な意味である。
「んじゃ、ばいばーい!」
「あ、えっとぉ…さよーなら…」
未だにこちらを睨んでいる色里を見て少し焦った枕は、まだ不貞腐れている出雲葵の手を引いて、とりあえず、【とんとん飯】へと行くことにした。無料券に地図が描いてあったので、特に迷うこともなく辿りつくことができそうだった。
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「新地界大全の変更、追加場所は、牛頭鬼の反乱だけ。ったく、なんのために毎度毎度こっちに渡してきてるんだか」
エルマはうんざりした目で辞典のような分厚い本を眺める。本来彼がここにいるはずはないのだが、最近は多忙を極め、分身に訓練や庭仕事の一部をやらせていた。
そもそも、樹華精霊であるエルマの仕事は、庭の手入れである。文字通り機嫌を取らないといけない花、育て方によって樹液が妙薬にも猛毒にもなり得る木、誰彼構わず襲いかかってくる草。地界の、しかも閻魔城の庭とくれば、手の離せない植物ばかりなので、彼は暇ではない。
また、永い時を生きる精霊として、記憶をもとにする仕事もする必要があった。それが、今やっている新地界大全の内容確認である。毎回、歴史の確認という名目で渡されるこの本だが、毎年同じことを確認していても意味はない。変更点も言うほどない。エルマにとっては全く意味を見いだせない上に非常に面倒くさい仕事だった。
「庭に関しては自分の分身だろうと信用できないんだから、こういうの他の樹華精霊に回して欲しいよね…なんでわざわざ一回通して読まないといけないのさ。しかも、分身はだめってしっかり宣言しやがって…」
エルマは盛大なるため息をつき、一刻も早く分身と交代するために庭へと戻った。
が。しかし。
「クラウチェ、どうしてこんなところに?」
「どうしてって、あなたを呼びに来たの。わたしも、あなたも、閻魔城の会議室に行かなくちゃ」
クラウチェと呼ばれたグレーの兎の獣人は、おっとりとそう返した。クラウチェはただの獣人ではない。知識を司る【叡智深淵兎人】という種族の、れっきとした姫である。
「エルマくん、がんばろうね」
クラウチェはふわふわとした笑顔でエルマを手招きした。エルマは庭を見回したあと頷いて、彼女の方に走っていった。
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「【青明力と魔力を融合・新たな力の創造】【特殊術の解析】【解析された術を統合】…しばらく、統合なんて竒にやってもらってたから、慣れないなあ」
鈍い光を帯びた爪で手の甲を引っ掻く。
「【闇と光、乙女の祈りと天使の寿ぎ、転じて】…」
「【虹と成す】」
虹色の文様が、サラの左の手の甲に刻まれた。
ちなみに、ツヅリの一人称「あたし」です…
ツヅリさん、過去の話も文がグッチャグチャで読むに耐えないレベルで、初登場も意味不明で、色々酷い。なんでかって、元々この話には存在しなかったんです。この方。「なんかもっとこう、バチバチに強い子欲しい!姉御欲しい!」という作者の唐突なわがままで生まれ、生後すぐに怪文書の過去回と鎌じゃない武器とトンデモなバディをつけられた哀れな乙女です。いつか書き直してえ…




