死神って言ったっていつも一人の仕事な訳じゃない。
残酷…かもしれません。
一応ご注意を。
「よぉ。昨日の新人!」
俺の目の前にはガタイのいいおっさん…もとい、昨日イツキについて教えてくれた男性がいた。
ガッツリ新事実なのだが、この人は新死神の指導係らしい。名前はカツヒコ…やっぱり日本人っぽいな。元日本人しかいない死神界って何???
まぁ言葉が通じるから、英語の成績が答え写しとノート点だけでギリギリ3だった俺にとっては嬉しいことだ。
「今日はお前のバディ候補を連れてきてやったぞ!」
「はぁ…」
「おーい、ミノリ!」
ミノリって誰?…もしかして、女子?
「は、はい…」
…嫌な予感当たったよ。相手女子で喜ぶ奴リアルにはあんまりいないからな。かわいい…でも…KIMAZUI☆
「トウマです…よろしくお願いいたします…?」
「ミノリです。ミノって呼んでくれたら嬉しいです!」
「よろしく…ミノさん…?」
「あ……」
いきなりミノさんがぶっ倒れた。
「えっ?」
慌ててカツヒコさんを見ると
「あー、ミノリは敬称つけて呼ばれると卒倒するんだよな」
「先に言ってください!!!てかなんで!!!」
「そーやって呼ばれると、よそよそしさで傷つき過ぎるらしい」
「何その脆い精神!ミノー!起きてくれー!」
ヤケクソだ。もう。ヤケクソ。当たって爆発しろ。
「ゔ…起きたくない」
「起きてくれ頼むから。
…これ以上さん付けで呼ばれたくなかったら起きてくれ!」
「は、はい!」
女子って怖い。癖強すぎだろ。
「そんな訳で、一人目のバディ候補はこいつだ。初仕事頑張れよー」
「はい!…はい?」
えっ、待って…今日仕事すんの?死神デビュー二日目だよ?予習と実行は違うよ?いや、逆に今見逃したらいつ?って感じでもあるけどさ…
「よろしく…な。ミノ」
「うん!よろしく!さ、魂狩り行こう!」
「おうよ!」
もうどーにでもなーれっ☆ミノに続いて相変わらず燃え盛る道を歩くと、エレベーターが見えた。これに乗るのかな。
「乗車券がいるから、気合いでいくよ!」
エレベーターに乗車券??乗エレベーター券???なんですかそれ?ってそんなことより!!!
「気合い???」
「いや、異界(地界)から地球に一発で行くとなるとちょっと厳しくて」
「気合いで行くほうが難しくない?」
「頑張ればいける」
「信じることにするよ」
いける。大丈夫。気合い。やればできる。どーせ死なない。きっと。必死に自己暗示をして、自分を落ち着かせた。
「手、握っててね」
「あ、うん」
なんか…ちょっと、ドキドキするな…
「さん、に、いち!」
ん?足元が禍々しい…赤い光で…
「出発!」
カッと赤い光が強くなり、思わず目を瞑る。次の瞬間。
「ついた!」
…早くね?エレベーターより、早くね?乗ったことないけどさ。
「さて。今日狩るのは二人。
一緒に行こう!私が最初にお手本を見せるから!」
そんな…青春の一コマみたいに死神の仕事始めないで………。
「そういえば、ミノの階級は?」
「一昨日、見習いを卒業したばっかりの四級だよ!」
泣きそう。なんでそんな状態で自信満々にお手本とか言えるんだよ。
「よし、ついた!」
ここは……。家?普通の。
「ミノ、死神は悪い魂しか取らないはずだよな?」
「いや…その…まぁ、悪いっちゃ悪いってカンジ?うん。いや、悪く…は、ないんだけど」
訳アリなような気がする。そっと窓から忍び込む…必要は無かったわ。すり抜けられたわ。これはこれで犯罪なような気もするが、死んでるからノーカンで。
そんなことを考えながら、どこにでもある一軒家の中を探し回る。
「自殺か、他殺か…」
なんて呟きながらクローゼットを開ける。誰かが倒れていることだけは分かった。それ以上の確認をする前に煙が溢れ出し、咄嗟に床にふせる。…これも必要ないのか。生きてないから。
新聞とか木のクズっぽいものは、燃え尽きて炭になっていた。陶器に入った上でまわりは濡らしてある。
入念というか、なんというか、自分だけで死んだのは一目でわかった。
横たわっている、助からないことの約束された少女。自殺は悪いこととされている。だから、自殺で死んだら地獄に落ちる。単純なことだ。
「……ミノ。見つけた」
自分でも驚くほど陰気な声で、ミノを呼んだ。
「さ、見ててね」
彼女は躊躇うことなく鎌を振るった。スカッと肉体を通り抜け、血は出ない。その代わりに。体からはどす黒い塊が出てきていた。
亡者の、汚れ腐って朽ちかけ、それでもなお文字通り怒りの炎を上げる魂だ。
「これは…やばいね。私、これを地界に運んでくるよ。その間トウマには、遺品整理を頼みたいな」
「遺品整理?それって人間が…」
「えっとね、遺書とか、そういうやつを探して欲しいの。なんかこう、なんで死んじゃったのかのヒントみたいな」
なるほど。自殺のニュースのとき、すぐに遺書からの引用(?)ができるのはそういうことだったのか。
「了解……?」
ガサゴソと引き出しや机の裏、本の間、色んなところを探す。マットレスの下とか…ってこれ、仕事だけどやってること不審者だな。ん……?なんだこれ。紙飛行機?折られたその紙をひらく。
『拝啓、お父さん、お母さん
もしこの手紙を見つけられたなら、
私はもうこの世にいないのでしょう。
私はそれがとても嬉しいです。
どうか、私のことを忘れて、
新しい子供でも養子でも作ってください。
私はお父さんお母さんが嫌いです。
一度でも私に欲しい物を聞いてくれましたか?
一度でも私の気持ちを優先してくれましたか?
そんなこと私の記憶にありません。
あなたたちの「優しさ」は、
私にとっては全然優しくありません。
学校の先生の方が、塾の先生の方が、
よっぽど優しかったです。
そろそろ、最初で最後の反抗をしようと思います。
お前らは私を道具だとしか思ってないし体罰だってなんだって厭わない最低な人間の最下等だ。お前らの子供だということが私のコンプレックスだ。小学生が三時間睡眠でまともに勉強できると思ったのか?だったらお前らは幼稚園児以下のド阿呆だ。私はお前らを許さない。地獄に行こうが天国に行こうが永遠に呪い続けてやる。お盆には帰って、枕元で恨み言を吐いてやる。絶対に許さない。来世でもそのまた来世でも呪い続ける。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い………』
絶句した。小学生の書く手紙ではなかった。真っ赤な文字。絶縁の意思表示。激しすぎる怒りをひしひしと感じた。
それと同時に、遺書を見つけてホッとするのだ。『仕事』が終わったから。『自分』はこれで任務達成だから。
意識まで、人間ではなくなりつつある。実際、死神は人間ではないから。