死神って言ったっていつも一方的に魂が刈れる訳じゃない。
「それ、整形してから言ったら絵になるかもね」
むかつく…なんだコイツ…
「【四角刈切】!」
出てきた四角は嘘違の髪を掠めた……ってそれだけかよ!そして相変わらずダサい!もうなんか誠に遺憾だよ!
「だいたいなんなんだよお前!いきなり出てきてさぁ!」
「……」
なんとか言えよと思ったそのとき、【死にたてでも分かる!死神による死神の死神のためのマニュアル!〜対天使編〜】のあるコラムページを思い出した。
「ここでクイズだよ!この中で、天使に効くものが入っているのはどーれだ?壱、地界の飲料、弐、天界の回復薬、参、人間界の香水」
「正解は全部、か。…うおぉぉぉぉぉお!」
仕事終わりに飲もうかとリュックに入れていた苦裏夢疎堕をシャカシャカシャカッ!!と勢いよく振る。ちなみに、物騒な当て字なものとそうじゃないものが混在しているのが地界のショッピングモールの特徴だ。
「地界の飲料には、天界で作られた浄化効果のある癒知護や、地界で開発されたドリップジュエルという甘い毒が入っているよ!あ、地界にいる君たちは毒なんて効きやしないから安心して!それにしても、身近なものも対天使用の武器にできるなんて、凝ってるね!」
うろ覚えだと思ってたけど、口に出したら案外いけるもんだな。っていうか持ってるのが苦裏夢疎堕でよかった…強炭酸を振ったときの威力は全世界共通だからな。
思いっきり振りまくって、フタを開ける。ものすごい勢いで苦裏夢疎堕が飛び出して、嘘違の顔面と髪の毛にクリティカルヒットした。
「……ウルトラくせ毛舐めないでよ緩めのテンパ野郎!!!!!天国じゃストレートアイロンは天国主様に作ってもらう以外ないんだよ!!」
えええ。そんなにキレるの?俺だってヘアアイロン勢だし…てか知らねえよ!お前のくせ毛事情なんて!
「この結界!崇光出せないの!わかる?!」
「わかんねえよ!!!!!」
でも好都合!ラッキー!ただ、この包丁の技なんて一つしかないんだけど…ないなら作るってやつ?
「【図形刈切】!やっぱダサい!」
でも【四角刈切】と似たようなイメージだし、大丈夫っしょ!俺、天才かもしれない!なんて思ったりもしたが、実際は天才ではない。
確かにアスカの言うように、イメージだけで魔法を作るのは天才のやることだ。しかし、【四角刈切】が鎌の魔法にある【三角斬撃】の応用で、さらにその応用が【図形刈切】なのだ。
つまり応用の応用。よって天才ではない。千歩譲って努力家ってとこだろう。
ともかく、【図形刈切】で図形を描くと、それが相手にぶつかる。簡易手裏剣とでも例えれば良いのだろうか。
嘘違は接近戦は苦手なのだろうか。あまりこっちに来ない。苦手なら好都合なのだけれど…
「ってうわ!お前動けたの?!」
「逆に君も避けることくらいはできるんだね」
いきなり走ってきてパンチを食らわそうとしてきた嘘違に驚きしかない。ものすごい勢いだし、このまんま避け続けられるのか不安になってくる。
「あ、時間だ」
「へ?」
「ごめん帰るね」
「え?」
急展開についていけない。いきなり何をほざいたかと思ったら、結界を解いて魂をひっつかんで空へ逃げていく嘘違。
「待てよ!【超常星光加速】!」
この前攻略した技を使って嘘違を追いかける。でも、そんなに魔力が残ってる訳じゃないし…そういえば、一回気合いのやつ成功したよね?ものは試しだし、やってみる?
「【超絶上位非現実気合魔水】!!待てやゴラァ!」
大量の水が波になって嘘違へ向かう。少しでも妨害になればいいのだけれど。ついでに火不壊惡零も振ってかけようとしたが、そう上手くはいかず、無駄になっただけだった。
嘘違は気合いの水を難なく抜けて、さらに遠くへ飛んでいく。背中には金属っぽい羽のからくりみたいなものを背負っているのだが、あれが見た目によらず速い。
「おい!待てって!!!」
もう一度魔力を込めたいところだが、そんな余裕はない。
「待てって言ってんだろ…」
体力も魔力も自慢できる量じゃない。あとはフラフラになって落ちるだけだった。リュックを探ったが、こんなことになるなんて思ってなかったし、さっき使っちゃったから、飲み物は入ってないし、ポーション的なやつもない。最悪だ。備えなければ憂いありだ。
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「そっかぁ…そりゃあそんなこと、珍しいどころじゃないくらい珍しいし、想定できるわけないよ。トウマは悪くないよ…」
なんとなく励ましてくれている気はするけど、そうされると情けなくて逆に涙が出てきそう。
「そ、そうだ!火不壊惡零、飲む?」
うう…気を使わせてる気がする。なんか目からぬるい水が出てる気がする。ミノの声のトーン若干低い気がする…
「あ〜、一旦、帰ろっか。疲れてるっしょ」
それはそうなんだけど、実を言うと情けないことにまだ体力が戻ってないんだよね…あと転移できる魔力も。
「ごめん、先帰ってて…」
とりま落ち着こう。落ち着きが足りない。もう顔は温水プールなので、こんな顔を見られたら流石に笑われる。てか笑ってくれないと逆にしんどい。
「じゃあ、背中乗って。どうせ体力尽きましたとかでしょ?」
「それは無理…情けなさすぎて…」
「情けないって…私らバディじゃん」
普通逆だと思うのよ。こういうのは。女子に背負われる男子(絶賛思春期)とか危険極まりないじゃん。せめて少女漫画とかで逆バージョンくらいが…
「よいしょー」
軽々と姫抱っこされてしまった。流石に恥ずい。背負われる時点で恥ずいのに死にそうだよ。死んでるけど。
「お、ちょっといつものツッコミ顔になったじゃん」
「……」
なんかもうすごい、恥ずかしいのと情けないのとでまた泣きそうになってきた。
結局そのまんま地界へ帰った。転移したときまわりに誰もいなかったのか唯一の救いだ。
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「職業名死神、元亡者、志賀実藤真。本来は魂の紛失により見習いに降格となりますが、自我のある天使とのレベルの差が開いている戦いがあったことを考慮し、四級への降格処分となります。これからも天から地までの平和のため課された任務をこなし―――」
最後の方はちょっとショックで聞いていなかった。でも、降格は当然だと思うし、反省しよう。
「そういや明日からは違う仕事なんじゃ…」
気分を変えようと当番表的なものを取り出した。そこには、『地獄での鬼たちのサポート』と書いてあった。
気性の荒い鬼たちのまとめ役やお手伝いをすることが、キチンで落ち込み中の俺にできるのだろうか。また不安になって、ため息をついた。




