死神って言ったって鎌オンリースタイルな訳じゃない。
「いや、包丁のこと聞く前にさ、ま、まずは鎌研だよな!うん!」
言い訳しながら鎌研へと急ぐ 。こんな有り様の鎌を見て彼らが何と言うか少し怖いが、とりあえず実験台への時間を引き伸ばしたかった。
「すみませーん……」
「らっしゃっせぇぇーーーッ!!!」
びっくりして叫ぶのをすんでのところでおさえて、そっと中へ入る。屈強な牛頭鬼や馬頭鬼、なまはげ、山姥が刃物を研いでいるのが見えた。ここの鍛冶場に女人禁制という概念はないらしい…っていうか普通山姥って山にいますよね?!?!
その中にチラホラとバイトの亡者やゴブリンたちがいて、水を汲んできたり、掃除をしたりしている。しかし、そちらもかなり慣た様子。鎌研は新参に厳しかったりするのかもな。
「いらっしゃい、坊っちゃんは死神さんかね?鎌のことで困ったらこの鬼婆に任せておくれな」
出てきたのは鬼婆と言われて疑問を抱かざるを得ない、優しそうなおばあちゃん。白髪をお団子にまとめて、袴を着た和風マダム。見た目も小柄で、糸目だ。
「あ、えっと、鎌が錆びちゃったんで…その…」
「あぁ、研ぎ直しだねぇ……おや、これは」
やばいですよね。知ってました。大変申し訳無い。
「ごめんなさい…こんなになるまで放置しちゃって……ほんとに…」
「中々にやり甲斐がありそうだねぇ。久しぶりに思いっきり研げそうだよ。ちょっくら見てくかい?」
おばあさま………!優しい…酷いとかじゃなくて、やり甲斐ありそうっていう言葉選びよ!俺もいつかはこんなロマンスグレーに…なれねーわ。もう死んでるし。いや、なろうと思えばなれるんだけど。
それにしても。
「見てもいいんですか?!ありがとうございます!!」
非日常な感じだし、このマダムが刃物を研ぐところの想像がつかないので見てみたい。見てみたすぎる!
「よしよし。じゃあこっちにおいで」
俺は鬼婆に続いて鎌研の奥へ入っていった。
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「うおりゃァァァァァァァァァァァア!!」
「………」
たおやかな老婦人が筋骨隆々の鬼婆に変貌した。そうとしか言いようがない。ものすごい勢いで鎌を研いでいる。もしかして、このおばあちゃん、鎌研ぎ研究室の室長?
「ふぅ、いい汗かいたよ。どうだい?坊っちゃん。こっから仕上げだけど、今でも錆はけっこう落ちただろ?」
?!?!すげぇ!ほとんど落ちてる!体感数分でこれだよ!なんか光ってる……
「す、すごいです!ありがとうございます!」
もうそれしか言いようがないよ。こんだけ光ってたら。今の時点で切れ味ヤバそう…
「ただ、今は少し忙しくてねえ。牛頭鬼どもが自分で自分の武器をダメダメにしちまって。うちのモットーは、いい刃物からいい心だからね。従業員優先にしてんのさ」
「な、なるほど……?いい刃物からいい心…」
不思議な言葉だ。流石鎌研。
「とにかく、少し遅くなりそうなんだよ。ごめんねぇ。一週間後に来ておくれ」
「アッ、ハイ…ヨロシクオネガイシマス!」
この感じなら今日で終わるかもしれないと思ったが、錆だけは一刻も早く落とそうということだったのだろう。実験台回避ができなかったショックでカタコトになってしまった。
「じゃあ…ありがとうございました……」
「アザっしたァァーーーッッ!!」
こうして鎌研を後にした俺はアスカと念話をすることにした。
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「ええ…忘れちゃったの?すごい簡単に説明したと思ったんだけど…」
「いや…その…聞いてませんでした…すいません…」
こっから何て言われるかで俺の運命が決まってしまう。任務はあるので使い方は聞かなきゃいけないし、実験台回避を目指そう。
「使い方は簡単!包丁と同じスタイル!」
「あ、はい…その、技とかって…」
「がんば!!」
…アスカは怒ったとき、何も教えてくれないタイプだろうか。
「いやー、僕もそれ試作品で使い方あんまりわかってないんだよねー。どんだけ魔力込めたら爆発するのかとかもわかんなくてさ。頼むよ、実験台!」
「アァァァァァァァ!!」
発狂している間にアスカとの念話が終わってしまった。やり直す気にもなれず、ため息だけが出た。
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「本日の最初のお仕事は…っと。おお、脱獄犯さん。珍しいこった」
あいも変わらずエレベーターには嫌われているので、今日も今日とて転移魔法。中々に慣れてきた。
「……今日、多くね?」
「…多いね」
ミノに言われてリストを見ると、本日のお仕事は、亡くなってる人の魂四十個を取ってくること。二人で一人ずつやってたら終わる気がしない。
「よし、じゃあ訳あり以外は分担にしよう。なんかあったらホーレンソー!」
「絶対報連相の意味わかってないな…報告連絡相談の略語だぞ?野菜じゃないぞ?」
「あーはいはい。わかったよ」
こうして俺とミノは別々の場所に向かった。
「さあて、こんな河原にいたのか。俺にこんなに探させるなんて、罪な子猫ちゃんめ……待って自分で言ってて鳥肌立ってきた」
死んでいる太った男に向かって一人でキザなセリフを吐くなんて、鳥肌の立ちすぎで風邪をひけそうだ。
「でも、これ、どうするんだろう。やっぱ切ればいいのかな?」
ここからは包丁の広告風にご説明しよう。
なんという切れ心地!バターのようになめらかに、力も入れずに切ることができて、いつも使う鎌と同じくらい手に馴染む!これが、モニターになるだけでタダで使えるなんて!しかも、魂を取りやすい!ポイントだけ切れば疲れないし、完璧だ…!
結論から言うと、めっちゃ良かった。脱獄犯さんは警察署の近くに持っていく。はたから見れば迷惑千万だが、死神ならではのサービス精神と、十五歳(+一歳)の考えとして見れば頑張った方だと思う。
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「【四角刈切】!…ダッサ!」
包丁で四角を描いて心臓部に飛ばすとかいう絶妙にダサい技を生み出してしまった。しかし、以外にこれ、効率がとても良いのだ。四角を描くだけで魂が刈れているし、魔力もそんなに減らないのだから。
「さてさて、お次は訳ありさんか。これで二十個目。俺はコンプだな。訳ありレベルは…星ニ。まあ一人でもいけるか」
一家心中で生き残ってしまい、そのあと自殺した父親。こりゃ地界行きですかね。
「お、いたいた。【四角刈切】!」
絶望の黒に染まった魂が出てきた。なんとなく、黒は黒だけど、悲しそうな色だ。
そういやこの人は遺書とかあるんだろうか、と家中探し回ったが、見つからない。でも、リビングのテーブルに請求書がたくさんあるから、お金がなかったとか、そんなとこだろうか。
「遺書がないならしょーがない。ここは共魂記述法を使える死神にバトンタッチだな」
「その必要はないと思うよ」
え、誰?!ミノじゃないよねこの声。
「どちら様でしょーか…」
「申し遅れたね。自分は、嘘違。天使だよ。その魂、地界じゃない方がいいと思ってね」
そこには、茶色い髪と目の少年がいた。天使と言ったが、顔は整っているし、自我もあるし、なめらかに喋る。イブキと同じく、普通の天使とは一線を画すのだろう。
「こっちにも都合と仕事があるんだよ…ってか魂の色見ろよ。一目瞭然だろ?」
黒い魂は地界行き決定の証拠だ。黒は染められた色で、混ざり色はもとから混ざってて、普通の色は染まりきらなかった色。
黒は地界、混ざり色は天国、普通のは判別する機械にかける。これだけ覚えておくと、試験で十点は取れるので、マーカー的なものでなぞりまくってた記憶がある。
そして、いまここにある魂は黒。迷いなく地界行きだ。なのに天使が来て、色々言い始めたということは、今は激ヤバシチュエーションなのだろうか。
こんな時こそ報連相だとミノを呼ぼうとしたが、うまくいかない。外の世界に干渉できなくなったのだろうか。さらにアスカ、イツキ、ツヅリ、カツヒコさん、さらにはミライにまで連絡を試みたが、一つも繋がらなかった。
となると、外の世界に干渉できなくなったというのはあながち間違っていないのかもしれない。転移しようとしたが、それも無理だった。
「ねー、待つの飽きてきた」
「悪かったなオイ!」
もうこれは迎え討つしかない。その前に【光花小結界】で魂を包んでいおいた。
「かかってこいや!太陽に代わっておしおきしてあげるからとっととお空に帰りなさいッ!」
月に、とか、おうちに、とかの方がやる気は起きたかもしれない。




