死神って言ったって魂狩りばっかりしてたり上下関係フリーだったりする訳じゃない。
「えっと…今の階級は…見習いか。一人完全に狩れば級ありに昇格で、四級から一級、それから特級…ってなんかどっかのアニメだな。」
死神は覚えることがたくさんで、とにかく忙しい種族と言われている。
それでもなお、俺がこの職に就いた理由は簡単。
老後に困らないためだ。給料が良く、実力を認められれば、その分待遇も良くなる。なんて素敵な仕事!死神万歳!
なーんて、思ってた俺が馬鹿だった。俺は今、そう痛感している。遡ること数時間前…
「まぁ今日は魂の取り方でも復習しとくか……。確か、ここらに図書館があったはず…。」
流石に死神デビュー当日から人殺しっていうのも気が引けたし、色んな仕事の中では魂を取るなんて序盤なのだ。任務を受けてそれに従うシステムだし、本日はとても暇である。
あと、大した知識も持たず行動だけで行くのは、特にこの職業じゃあ危なすぎるし。
たどり着いた図書館は、驚くほどの蔵書数。一気読みなど出来そうにないし、司書っぽい人でも探していくつか見繕ってもらおう。
「なんてことだ。司書どころかほとんど誰もいない」
すると、図書館から出ていこうとする死神を見つけた。…が。
「お前、見習いか?」
ん?なんかこの人…じゃなくて死神、俺を憐れむような目をした?
「そうですけど……?」
「ここの本はかなり良いものだ。それでいて壊れにくいし、カードを作るだけの人間と変わらないシステムで借りやすい。けれどもな。
【図書館の冷君イツキ】に遭遇したら終わりと思え。いいな?」
「えっと…イツキさん?は、司書の方なんですか?」
「いや。一般の死神だ。死神のなかでも屈指の本好き、とんでもない神経質と完璧主義の持ち主で、嫌いなものは図書館内でうるさいやつだ。見た目は黒髪と茶色の目で普通っぽくも見えるが、その目の下の隈が酷くてな。小柄だが異質だよ。見たらわかる。じゃあな!」
名前を聞く間もなく彼は去っていった。ため息がでる。
「よし!リセットだ!」
そう叫んだのが運の尽きだったのかもしれない。
「お前……。俺のテリトリーを雑音で汚すなよ。」
俺より気持ち下の身長。おかっぱの黒髪に鋭く隈のある茶色の目。間違いなく【イツキ】だろう。視線だけでむちゃくちゃ怖い。ダレカタスケテ…神様……。
ってここ地界だわ。神いねーわ。なんて、ふざけて頭の中でセルフツッコミをしていたら、何故か体がふわりと浮いてしまった。
そして思いっきり締め付けられる。その少年ではなく、空気に。重量操作でもしたのだろうか。あれはたしかめっちゃ難しい魔術で…ゔ…く、苦しい。
「い、イツキさん…ですか?」
「顔も知らないやつに名前を言われるのは不愉快だ」
「さーせん……」
「罰として、俺の書き写し作業を手伝え」
こうして数時間が過ぎ、今に至る。てかコイツ、あくまでも利用者の身でここを仕切ってるのか?!
「手が止まってるぞ」
「あ、はい」
一日で腱鞘炎なるわ!!てかお前もよくそれ続けられるな?!手首とか痛くないの?!
こうして、俺の華々しい死神生活一日目は、紙に文字を書くだけで終わってしまった。