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死神って言ったって一概にただの殺人犯って訳じゃない。

文の量がかなり多い上にドロドロの百合というヤバイ回ですが、最後まで読んでいただければ幸いです。

昔から、人から気味悪がられていた。

無駄に勉強や運動はできたし、自分で言うのもなんだが、容姿も悪くなかったと思う。

だからこそ、自分のおかしいところに周りは目ざとかった。

―――涙が出ないのだ。叱られても、転んで血が出ても、大好きだった祖父が亡くなっても…

「涙も出ないのね。感情が無いのかしらね」

今は顔も覚えていないおばさんが、葬式のときにそう言って笑っていた。自分だって、出されたお茶を飲んで喋っているだけなのに。

悲しいのに。辛いのに。わかってくれない。それは、幼子にとっては酷過ぎた。塞ぎ込みがちになり、元々少なかった口数も更に減った。


小学校に入っても、そのままだった。その場しのぎの友達はいないこともなかったが、クラス替えのたびに変わっていった。


その子の存在を知ったのは、小学校五年生のときだった。いつも授業の時間、寝ている女の子。ぼさぼさの黒髪には灰色や白が混じっていて、服もいつも同じようなものを着ていた。寝ているから当然のように成績はとても悪かった。


「綴さんは頭がいいから、枕さんに少し教えてあげてくれないかな?とりあえず、算数だけでも…」


先生にそう言われて渋々会ったのが最初だった。

…その顔を初めてまともに見たとき、すごくきれいだと思った。目はいつも長い前髪に隠れている。でも、風で前髪がなびくとひどい隈に囲われている瞳が見える。その色は透き通った銀灰色で、宝石のよう。それでいて、ガラス細工のような儚さがある。

青白い肌と細い体の割に柔らかくふくらんだ胸をまた細い腕で隠していて、臆病そうな感じが庇護欲を掻き立てる。

ハッキリ言おう。すごくエロいと思った。

もちろん面と向かってそんなことは言えないので、黙って向かいのイスに座る。


「まず、この筆算はできる?」


「なにこれ…」


見せたのは、かけ算の筆算の問題。

五年生ならできるはずの問題だった。


「これは?足し算と引き算ならできる?」


「まぁ…うん…」


「じゃあ、九九から始めよっか」


その少女、枕は中々に飲み込みが悪く、その日は二の段も覚えることができなかった。

社会も、理科も、全然だめ。国語は他よりはマシだけれど、だからといって成績やテストの点数が良いわけではなかった。でも、根気よく教えていくと、ゆっくりでもわかってくれた。


数週間後には、生まれてからずっと大親友だったように仲良くつるんでいた。

枕のことは、本当に大好きだった。

何かあるとすぐに、「綴ちゃん、綴ちゃん」とかけ寄ってきて、頼ってくれた。気味悪がられて、近づいてくる人さえ少なかった自分にとって、それは何よりも嬉しく、甘いものだった。

でも、枕がどこかおかしいことには気づいていた。何かあるたびに、少し疑わしげに「本当にいいの?」聞いてくるし、ほんの少しのことで慌てて、謝ってくる。ふざけて「拳で語り合う?」なんて言ったときには、うずくまって震えていた。


それは、彼女を家に招いた日にわかった。

夕方になっても、夜になっても、「帰りたくない」の一点張り。…電話されて迎えに来た枕の両親は、優しそうに見えた。

でも、何度も何度も枕が振り向くのだ。

すぐに分かった。「助けて」の目だった。


少しだけあとをつけて、全てがわかった。

耳をふさぎたくなるような言葉の数々。何か、柔らかい…例えば、人間の体を殴るような音。そして、甲高い、小さな叫び声は、聞き慣れた声だった。


走って家に戻り、母と父に伝えた。

止められて逆上した枕の両親は、半ば投げつけるように枕をこちらへ突き飛ばし、去っていってしまった。次の日には、扉に何かの書類のようなものが挟まれていた。そのときはあまりわからなかったけれど、こちらへ枕を寄越すみたいなことでも書いてあったのだろう。

今考えても、ものすごい偶然だ。まだ自分たちが死んでから数年。そんなに簡単に子供を手離し、他人に寄越すご時世ではなかったはずなのだから。…それほどまでに、彼らにとって、枕はいらない子だったんだろう。でも、自分にとっては、必要な子だった。


それからは、毎日平和に過ごすことができた。枕の家もとてつもない貧乏というわけでもなかったので、毎月多少のお金は送られてきていた。親も特になにか言ったり、枕を差別したりするわけではなかった。

ほぼ毎日勉強を教え続けた甲斐もあって、枕の成績は少しずつ良くなっていった。


中学生になっても、高校生になっても、それは変わらなかった。くっついてきてウザいなんて思うことは一度もなかった。どうしても自分と同じ高校に通いたいと言ったときは、少し心配になったけれど、それくらいだった。


けれど、心も体も成長していく中で、自分が枕に対して抱く感情が激しくなっていくのは不安だった。友達、親友、なんて言葉じゃ足りなかった。今でも、特別な関係ではあるんだろう。でも、それじゃ足りない。枕の、絶対的な一番大事な人になりたい。ドロドロの感情が渦巻き、日に日に大きくなっていった。二つの大好きの、恋の部分が、友達の部分を飲み込んでしまうのではないかと不安で仕方なかった。


そんな中で訪れた、枕の誕生日。ショッピングモールで彼女に買ったのは、二つのパーツで一つになるキーホルダーだった。枕は、『ズッ友』と書かれたやつと、ハートのやつで、すごく迷っていた。枕がハートを選んだとき、何故か嬉しくなった自分がいた。


…帰り道、その後ろ姿はいつもより何倍も輝いて見えた。風が吹いて、すっかり黒くなった髪が揺れて、長いスカートが舞う。それだけのこと。それなのに、なんでこんなにもくすぐったくて、甘くて、もどかしいんだろう。

その時の彼女が、すごくきれいで、なんとなくだけど、今しかない、そう思った。


「枕は、あたしのこと、好き?」


「うん!大好き!綴ちゃんが一番好き!」


屈託のない笑顔でそう言われて、少し言葉に詰まる。


「えっと………それって、友達の好き?」


「ん?多分…そうなのかなぁ」


「あたしは、友達の好きもあるけど、恋愛の好きもある。…嫌、かな?」


「嫌じゃないよ?綴ちゃんとなら、何も怖くないし、嫌じゃない。…枕は、綴ちゃんと話せなかったり、会えなかったりするなら、生きたくもない。だから、枕の、一番特別は、いつも綴ちゃんなの」


少しは覚悟をしていただけに、拍子抜けと安心と心地よさが一気に来た。涙なんて出ないはずなのに、嬉し涙が出そうだった。


「…そっか。なら、あたしと付き合ってって言っても、嫌じゃないの?」


「うん。嬉しい!えっと、改めてよろしく、なのかな?」


「わかんないや。改めてよろしくかな。やっぱり」


すると枕は、ぐっと距離を詰めてきて、頬にキスをしてきた。恥ずかしすぎて、顔が真っ赤になって、笑われた。つられて笑い出す。今日は、人生最高の日だ!心からそう思った。

―――その日が、人生最悪の日になるなんて、誰が考えるだろうか。



「遅いし、もう帰ろっか。ほら!枕!」


少し離れた細い道に立って手をふる。その時だった。


「綴ちゃん!!!!!」


いきなり慌てた顔をして、すごい勢いで走ってきて、ドンっと突き飛ばされた。


「えっ、」


どうしたの、という言葉が、車の急ブレーキ音でかき消された。自分の靴には、赤黒い絵の具玉がついていた。…絵の具だと、信じたくて仕方がなかった。その後のことは覚えていない。気づいたら、両親と一緒にお医者さんの前に座っていた。




「一命は取り留めましたが、かなり容体が悪く、特に脳の損傷が…植物状態になるのも覚悟をしていただいて…」


枕の親は連絡一つも寄越さなかった。両親は自分を一度として責めることはなかった。

枕にも、自分にも、友達は他にいない。結果的に自分を責めてくる相手はおらず、代わりに励ましてくれたり、優しくしてくれる相手もいない。

両親は、自分のことを気にしてはくれていたが…その時期に本音を話すのは少し難しいものだった。


毎日病院に通ったが、心が締め付けられるだけだった。枕は寝ているか、ぼんやり座っているだけだったから。

その人形のように生気のない瞳が、逆にゾクリとするほどきれいで、そんなことを思ってしまう自分にますます嫌気が差す。髪も、最初に会ったときみたいにだんだん白くなっていって、少し健康的になった体も、日に日に痩せていく。

それが、時間が巻き戻っているみたいで辛かった。

――自分と過ごした日々も一緒に消えていっているみたいで、辛くてたまらなかった。


「枕は、綴ちゃんと話せなかったり、会えなかったりするなら、生きたくもない」


その言葉がフラッシュバックして…全てを衝動に委ねた。


そっと点滴の針を抜いて、体に繋がれた管を全部取る。ハートのキーホルダーをくっつけて、枕の体をそっと抱き起こして、窓辺に登った。力の抜けた体は少し重かったが、抱えられないほどでもなかった。その背中と、か細い腰に手を回して、抱きしめる。これを、元の状態の彼女とできたらどれほど良かったことか。

真っ逆さまに落ちていく、その最期。

一抹の不安と、この上ない幸せと…やっぱり、罪悪感を抱えて。


「ずっと一緒に…なんてね」


その呟きを、死後の世界は受け取ってくれなかったけれど。





気づけば、役所みたいな窓口の前に立っていた。


「露無 綴様でございますね?ようこそ、地界へ。どうか、落ち着いてお聞きください。あなた様はすでに亡くなっております」


薄ピンクの小鬼が丁寧な口調で話しかけてきたときには驚いたし、死んだことも理解していたが、それ以上のことに気がついた。


「枕は、どこですか?」


「…?寝るときの枕ですか?」


「友達…です。白っぽい髪で、痩せていて、目は透き通った灰色で、私と同じくらいの女の子。一緒に死んだはずなんです」


「わかりました。問い合わせますので、少々お待ち下さい。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「はい。長雨 枕です」


「………あ、出ました。枕様もお亡くなりになられておりますが、その方は、天界にいるとのことです。天界は、俗に言う天国で、良いことをされた方、悪いことをされていない方がいらっしゃるところですね」


「じゃあ、あたしは悪いこと…したか。したわ」


誰が何を言おうが人殺しなのは間違いない。そういえば、植物状態から戻ることは出来たんだろうか?


「他にも、ご質問があれば、私に答えられる範囲でお答えいたしますが…」


心を読むかのようにそう言われたので、少し恥ずかしくなりながらも聞いてみることにした。


「さっきの枕って子、植物状態…自我がないって言ったらいいのかな?そういう感じだったんだけど、天界に行っても、そういうのは戻らないですか?」


植物状態と言ったときに、小鬼がすごく不思議そうな顔をしたので言い直した。なるほどと頷いた小鬼は、すぐに答えてくれた。


「地界天界共に、基本的にはその人その人をありのままで過ごさせてくれる場所です。生きるための植物状態?なら、亡くなった時点で戻っているはずですよ」


その言葉で心底安堵した。とりあえず枕は無事らしい。


「じゃあ…また会うことって、可能ですか?」


「そうですね…かなり、可能性は低いですが、手段はございます。ここで地獄めぐりをした後、特級死神となれば良いのです。地界の中でも権力のある種族の、しかも最上位ともなれば、閻魔大王に続く地位を与えられます。そうすれば天界への渡航も許されると…他にはございますか?」


「いえ。地獄めぐりをしたら、死神になることはできるんですね?」


「左様でございます。では、これから詳しいな説明に移らせていただきますね。

まずは――」



説明を受けて、地獄へ送り出された。

地獄は中々にすごいものだったけれど、目標があれば耐えられたし、反省を促すための拷問だから、反省や後悔の念があれば多少楽なものだった。今どき釜茹でとか針山とか血の池とかは炎上してしまうとかなんとか…


本当に頑張ったのはその後だ。早くから手柄を立て、階級を上げたい。そして、特級となり天界へ行き、枕と会いたい。

そのためには、魔力と、体力と、学力が必要だった。元から運動神経も頭も良い方だったので、これ幸いと片っ端からつめこんでいくことにした。食事も睡眠も排泄も、基本的にはいらない体だ。多少ハードでも、体は対応してくれた。

ときどき、枕や両親のことを考えて心が対応できないときはあったが、それもしばらくすると慣れてきて、受け入れることができるようになった。

魔法も重要だ。魔力量は努力と才能でそれぞれ変わる。才能の分も、努力の分も、自分のできる限界まで上げたと思う。コントロールも、毎日練習した。

それ以外にも、魔法式や、色々な状況に応じての判断、対応、礼儀作法も完璧にした。


全部全部、これ以上ないくらい頑張った。それこそ、高校受験よりも。そうして臨んだ試験は、実技知識、共に満点だった。やっと安心できた。やっとスタート地点に立てたのだ。

新死神として名前を登録すると、見た目が変化した。真っ黒の髪は、白色でありながらも暖かいオフホワイトに。同じく黒い瞳は、野心と目標に燃えたぎる血のような血赤珊瑚に。流石に自分か疑ったが、白に赤というのは中々に映えて面白いし、少し色合いは違うが、白は枕の髪の色でもあり、嬉しかった。


初任務でも、先輩らしき少年に褒めてもらえたし、中々の好感触。これからも頑張ろうと思った矢先の大掛かりな仕事だ。一段と気合が入っていた。


鉄球を構える。ステッキのように振り回し、首や腹を狙って、やりすぎない程度に叩く。同時に空いた片手で殴って、後ろ回し蹴りもお見舞いして、一気に三人(頭?体?)攻撃できた。その調子、と自分で自分を鼓舞し、飛び上がって数人殴った。周りに味方はいるだろうか…そう思って少し周りを見ようと立ち止まったときだった。


「危ないぞ!」


誰かの声が飛んだ。そして。


ゴン!!!


鈍い音がして、頭に痛みが走る。クラクラする視界と足元を気力で戻して、なんとか後ろを見ると、かなり大柄な牛頭鬼がいた。彼の持っていた棍棒で殴られたのだろう。また、それが振り上げられる。


「二回も食らうかよッ!」


無口頭魔法を展開。攻撃を棒で止める。足で攻撃できるかと思ったが、あちらの力もかなり強い。油断して体制を崩すよりは下手に動かない方がマシだ。もう少しで、魔法が当たってあちらの体制が崩れる。


少しして、その時が来た。少し力の抜けた棍棒を振り払い、牛頭鬼の足の間を通って後ろから、渾身の力で殴る。ドッ…という音を立てて、その牛頭鬼は倒れた。


一度ため息をついてから、啖呵を切る。


「まだまだいるね。かかっておいで!」


全ては、あの子に合うために。

追加設定(今回の話には全く関係ない)。

苦裏夢疎堕クリームソーダ】、

火不壊惡零カフェオレ】は、皆さんの知っているそれではないです。苦裏夢疎堕は甘苦い強炭酸飲料で、飲むと悪夢を見させるナイトメアの能力が一時的に備わります。

火不壊惡零はずっとクソ熱いのに、ラムネみたいな味がします(溶け切った水飴みたいな炭酸飲料(???))。そして一時的に火を吹くことができます。

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