カフェテリア
並んで歩く。三十半ばの係長はヒールを履いてもボクより背が低い。背丈に年齢は関係ない。だけどふいに意識してしまう。
例えば、学生のころの係長とか。今では禁句だ。小さくて可愛いですね、などと誰が言うのか。想像するのはボクくらいか。
「どっちがいいかな」
緑のトレーの縁をおなかで支えている。食堂はメインの料理が二種類ある。
カルボナーラ。豚肉のソテー。どっちでもいいのだけれど。
「うーん。昨日は何食べました?」
「忘れちゃったわよ。そんなの。早く決めて」
もし係長が昨夜食べたものが豚肉ならば、パスタをすすめよう、と思っていたのに。確かに返事になっていない。やや面倒だとは口にしないでおく。
安いから、たいていは、蕎麦を頼む。
外食するよりも、圧倒的にコスパがいい。
背後で睨みをきかせる係長を放置したまま、
「蕎麦、ください」
声をかけた。誰もいない。
湯切りが白い泡をまとい、ステンレスの流しには水が絶え間ない。蒸気が吹き出しては消えていく。
「蕎麦を。誰か、いませんか」
メインのレーンはどんどん人が入れ替わる。もちろん係長は先にテーブルについているだろう。蕎麦のレーンは動かない。シェフは、どこに。
カウンターから身を乗り出して、厨房を覗く。
刹那に頭が傷んだ。視線を落としてドキリとしたボクは。
「できたよ」
あまりに小さかった。できあがった蕎麦の器を両手で頭の上にかざす姿はあまりにも。
顔の半分を覆うマスク。三角巾からはみ出した白髪。
前に並んでいた社員が受け取り、ボクの番になる。
じっと作業を見つめている。
小さな食堂のおばちゃん。白髪だし、定年後再雇用かも知れない。
こどもが成人して、夫が退職したら。
この人のように、仕事を求めるのか。勝手なボクの考え。
「しけくぅんは本当に繊細だねえ」
クリームのまとわりついたベーコンをフォークでさして係長は大袈裟に肩をすくめる。
ずるずると蕎麦を啜ると漂ってくるチーズの香りと融合する。
「何でも気になっちゃうんだね。ここで働いてるのって、派遣じゃない。うちの社員ならともかく、ご飯つくるだけのおばさんに興味持つなんて面白いよ四家くんは」
「そうでしょうか」
真顔で係長が言うなら、真実に違いない。
そう理解するのが簡単だし、楽でいい。
ボクは周りを気にしすぎているんだ。心のなかで唱えると、まんざらでもない。