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氷解

 フロントガラスが凍っていた。早く起きてみるものだ。エンジンをかけて暖気する。異方性の結晶が、ガラスのおうとつにこびりついている。


 外からブラシで磨く。表面の硬い雪がぼそり、と崩れる。


 夜道をゆっくり走行して、後続車に煽られながら。ハイビームに目が眩みながら、丘の上の工場から煙が出ている、そこに向かう。


 流れてくる装置、が何なのか詳しくは分からない、をひたすら組み上げていく。猿でもできますから、面接で工場長が説明してくれた。


 猿の握力は凄まじく、例えばゴリラはリンゴを潰せる。雌雄は問わない。チンパンジーに噛まれたら、皮膚を剥ぎ取られる。リスザルの跳躍を、人間に換算したら、誰もが金メダル。


 適当なことを考えていると、ラインが停まった。

 ドキリとして、辺りを伺う。


 リーダーがやってきて、電源盤を調べている。ぞろぞろと人が集まっていく。真似をして近づいてみる。十人ほど揃って、ブレーカーの位置やら配線やらをためつすがめつする。


 明け方も、フロントガラスは凍っていた。


 オデッセイのおやじは、ポットから白湯をかけている。瞬く間に溶けて流れていく氷と湯気のコントラストに見惚れているうちに走り去っていく。


 アパートの裏手で、雪の下に隠れた蕗の薹を見つけた。摘まんで引き抜いて、味噌汁に入れて食べた。苦かったが、不味くはなかった。大家の犬がそこらで糞をしていたことを思い出した。


 吐くつもりはなかったので、水をたくさん飲んだ。小便をして、布団にくるまる。すぐに眠れた。冬は寝つきがいい。


 梅の花が咲くころ、総務から有給消化の通知が届いた。年内に使わなければならないようで、催促のメールが何日も届いた。


 面倒になって、どうせ取得するならば、すべて使ってやろうということで、あっさり辞めた。

 退職金はなかった。がっかりした。


 都市部は家賃がかかるから、田舎に暮らそう。なんとなく発起して、引っ越すことにする。できる限り遠くへ行きたかったが、外国語が喋れないから海外は選択肢から外れた。


 知り合いの不動産に頼んで、住むところを決める。初めての土地。春から娘は小学生の母になる。カレンダーにメモした記録が間違いでなければ間違いない。


 工場はこりごりなので、また営業でもやりたい。でも一度離れたキャリアを復活させるのは難しい。勝手にそう解釈しているだけで、事実は異なるかも知れない。


 ハローワークに顔を見せると、担当がついた。

 年をとっても採用してくれるところはあります、と丁寧に説明してくれる。

 ラーメン屋は夜遅いので断った。夜に働くのもこりごりだった。

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