ナイフかくれんぼう
「ねえ、和也」
「なによ、さゆき」
「あそぼーっ」
さゆきはそう言いながら微笑んだ。
八月の中旬には、いつものように、蜩の鳴き声はうるさくて、暑さは苦しかった。
今は僕たちは僕の家にいる。僕たち幼馴染で、夏のときでいつもこうやって交互の家に遊びにいく。
「いいよ。なにを?」
「かくれんぼう!」
「二人だけいるのに?」
「いや、わたちたちだけがいるからもっと楽しいよ!」
「ま、さゆきそう言うならあそぼっか」
「でも」
さゆきは人差し指を立てて、話した。
「これは普通のかくれんぼうではないよ」
「普通のかくれんぼうではない?」
「そうだよ」
そして、さゆきはいたずらっぽく口角を上げた。
「わたちたち遊ぶのはナイフかくれんぼうだよ」
「ナイフかくれんぼう?」
「そうそう」
「ルールは?」
「簡単だよ! かくれんぼうと同じだけど誰かを見つけたときにその人をナイフで刺す」
さゆきの表情は暗くなって見えて、彼女が笑った。激しく笑った。その笑い声には意地悪さを感じた。
「え? ナイフで刺す? なに言ってるんだよ、さゆき」
僕は一歩下がったでも同時にさゆきが僕へ一歩踏んだ。そしてさゆきは僕と目を合わせ、口を開いた。
「なんちゃって」
「……さ、さゆきめ、びっくりしたぞ!」
「くくく、だって和也の顔は可愛かったよ! すごく」
「はいはい。で、そのナイフかくれんぼうは嘘だったか」
「いいえ、嘘ではないよ。実は誰かを見つけるときに指ナイフで刺す」
「指ナイフ?」
「そー! こうだよ」
そしてさゆきは僕に近づいて人差し指の先で数度僕の脇腹を弄った。
「や、や、やめてさゆき」
「やめないよ~」
「やめないなら……反撃!」
僕はさゆきより速く彼女の脇腹を弄ってすぐにさゆきを笑わせた。さゆきの弱点は脇腹だから。
「はははやめてやめて! 和也の勝ち和也の勝ち!」
さゆきの諦めついた宣言に僕は誇らしく笑った。彼女は咳払いをして話した。
「じゃあ、あそぼっ! わたしが探す!」
「わかった´」
さゆきの「いーち、にーい、さーん、よーん」リズムで僕は隠れ場所を探しに行った。
「もういいかい?」
「もういいよ!」
さゆきはそれを言って、数える姿勢から振り向いた。僕は隠れ場所として選んだなのは居間にあるでかいソファの後ろで、だ。その位置からさゆきのいる場所見える。その上、玄関と廊下と台所と庭への廊下も見える。
さゆきは廊下を通って台所へ曲がった。彼女の歩の音が家の隅から隅まで響いて、その音は微妙なわくわくを感じさせた。
「どこにいるかな~」
さゆきは歌いそうなトーンでそう言って庭へ出た。僕はくすりと笑ってソファに背中をもたれ掛かって床に座った。
五分後さゆきの歩の音をまた聞こえた。
「和也くん~ どこにいるでしょ~」
先と同じトーンそう言ったが先より明るい声で。さゆきっぽいなと思う途端気づかず口角を上げた。
が、突然、さゆきの歩の音が止んだ。そして蜩の鳴き声以外完全な沈黙が流した。
僕は違和感を感じた。すぐに立って、台所へ視線をやると、鋼製の何かが床に落ちたような音が聞こえた。
僕は歩こうとしたとき庭からさゆきの姿が現れた。右手で白い袋を持っていた。既視感の感覚で僕は戸惑っていた。僕は勇気を出して台所に歩いて、さゆきに声かけた。
「さゆき! それは?」
さゆきは僕を見て言い返した。
「あ! これ? 隣のおばさんがこれを和也の家に持ってくるのを頼まれた。遊び中だったね、ごめんえね」
「いやいやいや、それを頼まれたっていつ?」
「庭に出たときに。おばさんが声かけてきてちょっと世間話もしたね。そのゆえ和也とかくれんぼうを遊んでいたって忘れちゃった、てへ~」
混乱のせいでさゆきの言った台詞を聞いたが意味を理解できなかった。
「和也? どうしたの? 顔色悪いよ?」
「さゆき! 一分くらい前に入ってなかった?」
「え? 今ちょうど入ってきたってば! ねえ、聞いてる?」
僕は考えた。暑さのせいで幻覚をみたのか。それとも、やっぱり、おかしくなってるのか。でも、幻覚で火ではなくて幻聴も聞いた。だってあの鋼製の何かが床に落ちたような音も聞いた。僕は視線を床にやって―
「え? なんでこの包丁が床にあるの?」
さゆきはそう言いながら包丁を持ち上げた。
「落としたの? 和也」
「いや僕……」
そしてそのとき僕は気づいた。その『鋼製の何かが床に落ちたような音』がこの包丁だった。それで、その『鋼製の何かが床に落ちたような音』を聞いたときに、その偽さゆきが『和也くん~ どこにいるでしょ~』と言ったのあとだった。その上、その音が聞いた瞬間にさゆきは入ってきた。すなわち、本物のさゆきが入ったからその偽さゆきが消えたのだ。
でももし。
もしさゆきが、そのときに入ってこなかったら―
――どうなちゃったのだろう。