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閑話 過ぎ去りし日

少しだけ昔話です。

「カドア、ミツカ。子供達を守りなさい」

「そんな、エレクラ様……。独りで戦うおつもりですか?」

「嫌です! 私達が盾になります! エレクラ様は子供達を連れて、お逃げ下さい!」

「あなた達では時間稼ぎにもならないわ。タカギの指示に従って逃げなさい! タカギ、頼むわね」

「わかってる、こいつ等は俺が守る」


 ☆ ☆ ☆


 街には色んな人がいた。太っている人、痩せている人、上等な服を着ている人、忙しそうにしている人、男女で連れ立って歩く人達、子供を連れて歩く人達、どの人も幸せそうだった。


 私達を除いて。


 私には両親の記憶が無い。どうやって生まれて来たかもわからない。そして、どうやって生きて来たのかもわからない。私と同じような子は何人もいて、普通の人達が滅多に来ない路地裏に集まって暮らしていた。


 大人達に見つかると棒で叩かれるから、いつも隠れていた。夜は風が吹いて寒いから、身を寄せ合って眠った。普通の人達の邪魔にならない様に、こっそりと食料を探した。何日も食べ物が見つからない事も有った。いつもお腹を空かせていた。


 それが当たり前で、普通の人達が羨ましいとは決して思わなかった。だから私も、いつかは他の子達と同じ様に『段々と元気が無くなって動かなくなる』と思っていた。


 でも、それが間違いだと教えてくれたのは、エレクラ様とカリスト様だった。


 エレクラ様とカリスト様は、色んな所を巡って私と同じ様な子達を探してらっしゃった。そして私達に生きる術を教えて下さった。文字や言葉を教えて下さり、狩りの方法を教えて下さり、植物の育て方を教えて下さった。

 普通の人達がどうやって生活しているかを教えて下さり、色んな仕事が有ると教えて下さった。セカイの成り立ちを教えて下さり、戦い方も教えて下さった。


 普通の人達は心を奪われていると教えて下さった。私達は心を取り戻したと教えて下さった。だから「普通の人達を恨まないで」と仰っていた。私はエレクラ様とカリスト様に感謝しているから、それを信じていた。


 子供達の中には、特別な才能を持ってる子もいた。その子達は、いずれエレクラ様とカリスト様の手助けをするんだと意気込んでいた。でも私は何も持っていなかった。同じ街でいつも一緒に居たミツカもそうだった。私とミツカは、せめて自分の力で生きられる様になろうと頑張った。


 食べる事が出来るのはとても幸せで、寒くて目が覚める事が無いのもやっぱり幸せだった。頑張れば幸せは続くし、私達は大人になれるし、エレクラ様とカリスト様はずっと一緒に居て下さると信じていた。

 でも、カリスト様は英雄によって殺された。それを見ていた私達は、何も出来なかった。そしてカリスト様は、死の間際に英雄の手を握りしめた。


「もういい、苦しまないでくれ。大丈夫だ。君の中に有る英雄の力は、俺が持っていく。君はもう、ただの人間だ」


 英雄はカリスト様の手を握り、ボロボロと涙をこぼしていた。カリスト様は、私達にも言葉を残して下さった。


「人間は弱いんだよ。いつも努力出来る訳じゃない、挫ける時も有る。嫉妬をするし、時に怒りもするんだ。それを単に醜いと打ち捨てないで欲しい。それも心の一つなんだ。だから許してあげて欲しい。他人の心も、自分と同じ様に許してあげて欲しい。俺は君達が築く未来を楽しみにしている」


 カリスト様がお亡くなりになって暫く経ってから、エレクラ様は四つ目のセカイへ戻ると仰った。


「必ず戻って来るからね。それまで元気にしていてね」


 そう言い残して、エレクラ様は四つ目のセカイへお戻りになった。その後、子供達の面倒を見てくれたのは、かつての英雄タカギだった。最初はみんながモヤモヤした気持ちを抱えていた。でも私達は、カリスト様のお言葉通りにタカギを許そうと頑張った。


 それから更に時が経ち、私達の体は大人と変わらない程に成長した。特別な才能持っていた子達は、その才能を伸ばしていった。私とミツカも作物を育てられる様になっていた。

 この時までは平和だった。普通の人達と混じりながら生活をしていても、大きな変化は無かった。だけど、特別な才能を持った子達はそれで満足をしなかった。


「我々はこの街で穏やかな生活を過ごしている。それは誰が与えて下さったのか? エレクラ様とカリスト様だ!」


「エレクラ様とカリスト様の宿願が何だったか思い出して欲しい。我々は亡きカリスト様の想いを継ぐと決意したはずだ」


「元凶を滅ぼす為に、カリスト様の想いに報いる為に、我々は修羅となろう! 首都に向かい、いずれエレクラ様がお戻りになる時を待とう!」


 そう皆に語ったのはソウマだった。それにイゴーリとヘレイが賛同した。パナケラはイゴーリが言うならと、ソウマに賛同した。ヨルンはヘレイが行くなら自分もと賛同した。リミローラは面白そうだとはしゃいんでいた。


 既にまとめ役になっていた彼らに皆が追従した。そして、タカギと道を違える事になった。


 今から思えば、「タカギの力は不要」と切り捨てたソウマの気持ちがわかる。タカギは強すぎる、だから否応なく目に付く。それでは密かに計画を進める事は不可能になる。だから、私達だけで行く必要が有ったんだろう。

 それに、タカギには少なからず世話になった。恩義も感じているし、信用もしている。だから、自分達が失敗した時の保険として、安全な場所に残っていて欲しいとも思っていたんだろう。


 宮殿に潜入してから勇敢な仲間が何人も死んだ。何度も挫けそうになり、その度に私達は互いに励まし合った。ただソウマ達はわかっていた。これ以上、私達が宮殿で出来る事は無いんだと。

 そしてソウマは、イゴーリやリミローラ等の主だった面々だけを残して、生き残った仲間達を各地へ逃がした。私とミツカも、タカギが居る街道都市に戻る様に言われた。でも私は、それを受け入れる事が出来なかった。


 宮殿内に残った仲間達は、「自分達には特別な才能を持っているから戦える」と語る。私はその言葉を呑み込む事が出来ない。

 ソウマ達が生き残ったのは単なる偶然かも知れないし、それ以外が生き残ったのは運が良かっただけかもしれない。才能が有ろうと無かろうと巨大な力の前では無力で、私達には差なんて無い。

 だから、私とミツカは首都に残った。そして、各地に散った仲間達とソウマ達との連絡役になった。


 ソウマ達は優秀だった。それぞれが潜り込んだ場所で、頭角を現していった。その中でも特に優秀なのは、ソウマだった。

 暗殺者の役割を与えられた普通の人達を懐柔しながら、自らの地位を築いていった。そして王に接触し、心を取り戻させた。


 それからはだいぶ楽になったと思う。いつ殺されるかビクビクする事が少なくなったんだから。丁度その頃に、私とミツカの体に少し変化が訪れた。それが、自分達の人生を大きく変える事を、その時の私達は考えもしなかった。

次回もお楽しみに!

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