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立ち込めるのは

 俺の背後を取ろうとするからだ馬鹿野郎。眉間と喉、それと鳩尾に一発ずつ。更に蹴り上げた上で、背骨が折れる位の蹴りをくれてやった。大鉈の奴は、てめぇで作った大穴で突っ伏している。


 直ぐに動こうとしないのは、なんだ? 現在、新たな命令を受信中ってか? それともアップデートでもしようってのか? 無駄だぜ糞野郎、奴の脳は人間と一緒だ。禍々しい力で体を肥大化させられても、脳を進化させる事は出来ねぇよ。せいぜい、てめぇの下らねぇ無理難題を受信して、混乱させるだけだ。


 ただ、認めなきゃいけないのは奴を覆っている力が強すぎる事だ。今ので少しは禍々しい力が少しは減ると思ったが、まだ足りない様だ。

 ここまで強い力を纏ってる英雄は初めてだ。でも、手古摺ってる訳にはいかねぇよな。だって三つ目のセカイには、こんな化け物がわんさか居るはずだからな。


 俺にとって運が良かったのは、アオジシが上手くやった位か。まぁ元々は英雄だったんだ、歪んでいようがセカイの力を使っていたんだ。記憶は失っても、染みついた経験ってのは体が覚えているはずだ。それでも殆ど瞬殺と変わらない。正直、アオジシがあそこまでやると思わなかった。俺がかっこ悪い真似は出来ねぇな。


 さて、ここからが本気だ。本当はこれ以上アオジシを戦わせたくない。だけど、今回だけは甘えさせてくれ。これが終わったら、上手い飯を食わせてやる。お前が一度も体験した事がない『本物の味』ってやつだ。


 こんな下らねぇ事を考えている間に、アオジシが片腕を無くした英雄に向かって駆けていく。それと同時に大鉈の奴は何事も無かったかの様に起き上がろうとする。

 アオジシと大鉈の奴は、どっちが早いか。そんなのは決まってる、この中じゃ俺が一番速い。大鉈の奴がまだ背を丸めている隙に、俺は走る勢い利用し、更に全身のバネを使い、奴の頭を蹴り抜く。


 最初の攻撃を破壊力で例えるなら、このセカイの一般的な家が周囲数軒を巻き込んで更地になってる程度って所だろう。でも今回の蹴りは、数千人が住む街を消し飛ばす位の力を籠めたつもりだ。

 実際には、蹴りで街を消し飛ばすなんて出来はしないけど、それ位の威力は有ったはずだ。でも、奴は多少横に吹っ飛んだ程度だ。ピンピンしてやがる。

 どうせ最初の攻撃にしたって、奴にとっては押された位にしか感じてねぇんだろうな。感覚ってのが有ればの話しだがよ。


 でも、確信したぜ。最初の攻撃が無駄では無かったってよ。それで次は、その頭を消し飛ばす!


 ☆ ☆ ☆


 俺はひたすらに走った。そして壁を通り過ぎる頃、大鉈の英雄が消えた。勿論タカギもだ。その直ぐ後、ぶつかり合う力が渦になって押し寄せて来た。俺は走るのを止めて両足で踏ん張る。そうじゃなければ、俺の体は彼方まで吹き飛ばされてたはずだ。


 どっちにしたって、とんでもねぇよ。大鉈の英雄は化け物だけど、タカギはそれに輪をかけた化け物だ。タカギの事を少しでも心配したのが間違いだった。俺は本当にただの役立たずで、タカギはあれだけ居た英雄を、独りでも片付けられたんだろうな。


 でも、今はそんな事を考えても仕方ねぇんだよ。やると決めたんだからな。

 

 糞野郎にムカついてるのは確かで、ぶっ殺してやりてぇと思ってもいる。それは俺の中から消えた訳じゃねぇ。でも、俺は未だ足りねぇものだらけで、セカイから多少力を借りる事が出来た所で何も変わってねぇ。


 元は同じ力だとしても、それを歪にして使ってる英雄の方が、俺より何倍も厄介だ。それでも、俺は蚊帳の外に追いやられる訳にはいかねぇんだ。復讐なんて大層なもんじゃねぇし、つまらねぇ意地でしかねぇけどな。今ここで、少しでも追いつかなきゃいけねぇんだ。


 だから、もっと強くなる。


 それに今なら俺にでも、片腕になった奴を始末出来る。こいつをほっといても、タカギは大丈夫なのかもしれない。でも駄目だ。不安は消さなきゃ駄目だ。これは命のやり取りで、少しの油断が死に繋がる。

 そもそも俺は、くたばりぞこないしか相手に出来ねぇんだ。本当に強い奴を相手にしたら、俺には死ぬ事すら選べなくなっちまう。そして俺は渦巻く力の奔流に耐え、再び走り出した。


 体に流れる力を、足に集中させて前に進む。もう少し、後何歩か進めば俺の剣が届く。そんな距離まで近付いた時だった。片腕を無くした英雄は、突然に立ち上がる。そして、俺を見据えると一瞬で俺との距離を縮めた。


 不味い、そう思った時には遅い。片腕を無くした英雄は、残った腕を振り回す。俺の顔を目がけて奴の拳が迫ってくる。俺は咄嗟に剣を消し、両腕に力を集中させて奴の拳を受け止めた。

 さっき消した英雄より、かなり力が弱まっている。思いっきり殴られても大して痛くはねぇ。だけど殴られた勢いで俺は後ろに吹っ飛ばされる。

 大鉈の英雄と同じだ、飛ばされている最中に体勢を立て直す事は出来ない。そして、片腕の英雄は再び残った腕を振り回して俺に迫った。


 隙だらけに見せかけて、奴は俺が近付くのを待っていたんだ。奴にとって相手はタカギでも俺でも良かったんだろう、腕を失った恨みを晴らせればな。まんまと俺は引っ掛かった。

 

 無表情だった片腕の英雄が初めて笑った。俺をやれると思ったんだろう。でもな、セカイの力を全身に巡らせれば、きっと耐えられる。俺は全身に力を行き渡らせた上で、思いっきり体を縮こませた。

 その時、俺と片腕の英雄との間に影が入り込むのが見えた。次の瞬間には、ガキンって大きな音がする。でも、俺は痛みを感じてない。その影が、英雄の拳を防いでくれたんだ。そして俺は、影の正体を知っていた。その影は俺に微笑んで見せた。

 

「アオジシ、久しぶりだな。生きていて何よりだ」

「お前……、クロジシ……」

「ボケっとするなよ」

「あ、あぁ」


 クロジシが突然現れた事で、片腕の奴は警戒したんだろう。少し俺達から距離を取っている。


「お前がやられそうだったら、連れて帰って来いと爺さんに言われていた」

「余計なお世話だ」

「そう言うだろうと思って、ずっと見ていた。強くなったな、アオジシ」

「お前はどうなんだ? 俺の足を引っ張らねぇ位にはなったのか?」

「そうなってると良いんだがな。まぁ、話しはここまでだ。行くぞアオジシ!」

「おう!」


 馬鹿馬鹿しい事だけどよ、クロジシを少し頼もしいと思っちまった。あの時から『成長したのは俺だけじゃ無かったんだ』って思うと、嬉しくなっちまうのも正直な所だ。でも、そうだよな。そんな事を考えている場合じゃねぇよな。

 

 クロジシは槍をぶん回しながら、敢えて腕が有る方に回り込む。片腕を無くした英雄は、クロジシと対峙するしかねぇ。何せ、剣より間合いが遠いんだからな。それに、クロジシは片腕を無くした英雄の全力を受け止めてる。もう、笑っている余裕なんてねぇぞ。


 そして俺は剣を取り出しながら反対側に回り込み、いつでも切れる様に力を溜める。ここからは間違わなければ勝てる。

 クロジシが槍を振り下ろすと、英雄は後ろに飛び退く。飛び退いた先では、俺が剣を振りかざして待ち構えている。まだ、英雄は弱り切ってない。俺が剣を振り下ろせば、もう一度飛び退いて避ける。


 でも、そんな繰り返しは起こらない。当たり前だ、てめぇが相手をしているのは誰だと思ってる。クロジシだぞ。俺より冷静で俺より賢くて、きっと俺より真面目で努力家だ。そんな奴が、俺より弱いはずがねぇ。隙を見逃すはずがねぇ。


 真っ二つに割れた後、英雄は消えていく。俺が最後に見た片腕を無くした英雄の表情は、悔しそうな、嬉しそうな、何だかよくわからない表情だった。

 

 そして、俺は直ぐにタカギの方を見た。相変わらず早くて見えない、相変わらず力が渦巻いている。


「タカギはやはり強いな」

「お前よりもか?」

「当然だ。俺はまだまだ修行が足りない」

「相変らず糞真面目な野郎だ。気持ちわりぃ」

「気持ち悪いは酷いと思うが」

 

 俺達はただの観客になっていた。少しすると、荒れ狂う様に渦巻いていた力の奔流が和らいでいくのを感じた。そして、大鉈の英雄が視界に映った。ただ、立ち止まったんじゃない。

 奴の首から上は消えうせていた。そして、腹に大穴が開いている。俺達は勝ちを確信した。だけど、そこまでだった。

 

 突然、突風が吹き荒れる。空に誰かが浮かんでいるのが見えた。そして俺達は意識を失った。

次回もお楽しみに!

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