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タカギの戦い

 拳が繰り出される度に、禍々しい力が俺の心を侵食しようと迫ってくる。拳を往しても、距離を取っても、それは執拗に襲ってくる。攻撃の度に、禍々しい力の勢いは増す。そして悲痛な叫びが俺の中にこだまする。


 お願い、もう止めて。


 怒らないで、悲しまないで、そんな事は望んでない。


 これ以上、命を持って行かないで。


 これ以上、何も奪わないで。


 助けて、助けて。


 それは、例え我が子を奪われても、己の命をすり減らす事になろうと、愛する事を止めなかった悲しい涙。争いは望まない、だけど争わせるしかない。そんな矛盾に苛まれて自身を縛り付けた愚か者が伸ばした弱々しい手。

 俺がその手を掴んでも、きっと喜びはしないだろう。俺以外の奴にしても同じだ。愚か者が希望を託したのは二人の少女だけなんだからな。


 でもよ、そんなに泣かないでくれよ。それも俺の頭ん中でな。気が散って仕方ねぇんだ。それにな、反撃したくなるじゃねぇかよ。


 俺は手前の奴の拳を躱しながら軸足の膝を蹴る。体勢が崩れた所で鳩尾に膝蹴りを食らわせ、更に顎を思いっきり打ち抜く。そして、ふらふらと後退る奴の腹に、全体重を乗せた蹴りを見舞う。

 この位でダウンしてくれるのはチンピラ位なもんだ、英雄には効かねぇ。だけど牽制にはなるんだよ。ほらな、大鉈の奴が姿を消しやがった。


 姿を消した所で、俺がわからないとでも思ったか? そりゃあ、悪手ってもんだ。

 

 俺は敢えて気が付かないふりをする。そして、俺の後頭部を目がけて振り下ろされる大鉈を、正面に転がりながら間一髪で躱す。奴は追撃するべく大鉈を振り上げて迫ってくる。俺は急いで起き上がろうとするが、奴が待ってくれるはずがない。俺を頭から真っ二つにしようと、大鉈が振り下ろされる。


 ただな、ここまでが計算だ。


 俺は立ち上がるんじゃなくて、後ろに飛ぶ。飛んだ先に何が有るかって、そりゃ俺が吹っ飛ばした英雄だ。俺は素早くそいつの後ろに回り込み、背中を思いっきり蹴る。今まさに振り下ろされている大鉈の下に、そいつの体が潜り込む。

 

 ほら、同士討ちの完成だ。


 大鉈は、見事にもう一匹の右肩を切り落としやがった。腕を失った肩からは、もの凄い勢いで瘴気が噴き出している。俺は咄嗟に距離を取る、瘴気に巻き込まれたら流石にヤバいからな。


 何もステゴロで殴り合うのが喧嘩じゃない。幾ら連携しようと、頭を使わない限り俺には勝てない。その大鉈にしたって、もう一匹にしたって、やり様によっては丁度いい道具になるんだ。

 それに、幾ら英雄が不死身の様な存在だからって、多少の傷なら直ぐ塞がる程度だ。取れた腕が直ぐにくっつく訳じゃない。ましてや、あっという間に生えてきたりもしない。


 奴は「もう使い物にならねぇ!」と言いたい所だが、これは俺が望んだ展開じゃない。


 大鉈の奴は慎重になるだろうし、もう一匹は暫く動かず治療に専念するだろう。それだと、もう一匹を壁にし辛くなるどころか、大鉈の奴が邪魔するだろうから消滅させ辛くなる。


 格上の相手が慎重になる程、厄介なもんはねぇ。こっちは隙を突くしかないのに、それが無くなったら手も足も出ねぇ。仮に隙が出来たとしても、そいつは罠の可能性が高い。誘い込まれた次の瞬間には真っ二つになってるはずだ。

 だからといって、一か八かってのは言語道断だろ。力任せにすれば、何でも解決するってもんじゃねぇ。寧ろ逆だ。


 命のやり取りをしてる最中なのにな、絆された結果がこれだ。全く嫌になる。でも、やっちまったもんは仕方ねぇ。

 それと、恐らくだがアオジシは善戦してる。あいつの戦いっぷりを見てる余裕なんて無いし、気配を感じ取っただけだがな。あいつが調子に乗って俺の所に来る前に、気合い入れて大鉈の奴を始末しねぇとな。それに、今回は身から出た錆みたいなもんだしな。


 さてと、どうするか。泣いてねぇで教えてくれや、セカイさんよぉ。まぁ、そんな風に呼びかけた所で、応えちゃくれねぇがな。

 いいさ。端からアドバイスなんて期待しちゃいない。全身から余計な力を抜いて、妙な考えを止めて、初動だけに集中する。それしか、やり様が無いんだしな。でもその前に、ちょっとだけ煽っておくか。


「ほら、来いよ! ただの操り人形風情が、仲間をやられたって何も感じねぇんだろうけどよ」


 かけた言葉に意味は無い。聞こえてはいるだろうが、理解はしていない。考える脳なんて無いんだからな。俺がやったのは、体から少し力を放出させて瘴気を消し飛ばした位だ。でも、それがこいつ等を操ってる糞にとって屈辱になるはずだ。


「陰でコソコソ操るだけで、てめぇは痛みを感じねぇんだろ? 人形遊びに付き合ってやるからよ、さっさとかかって来いよ」

 

 大鉈の奴の中で禍々しい力が膨れ上がる。そいつは体の外に漏れだして、俺に纏わりつこうとしてくる。

 だから無駄なんだ。そんなの使っても、俺は英雄に戻ったりはしない。アオジシにだって通用しない。俺達は人間なんだ。二度とてめぇの人形になんて戻りはしねぇ!


「ビビッてねぇで、かかって来いよ糞野郎!」


 ☆ ☆ ☆


 英雄を消滅させて直ぐに、俺は壁の向こうに目を向けた。取り敢えずタカギは無事だ。でも、英雄は二人とも消滅してねぇ。一人は片腕を無くして蹲ってる。あれはタカギがやったのか? もう一人は大鉈を持っている手を後ろまで振りかぶってる。

 俺に仕掛けて来た時は、そこまで振り上げなかった。要するにタカギは、奴にとってもそれだけの相手って事だろ。


 ただ、俺が見えたのはそこまでだった。大鉈の奴が消えた、それと同時にタカギも消えた。次の瞬間、タカギが居た所に大鉈が降ってきて、地面に馬鹿でかい穴が開く。それだけじゃねぇ、奴は大鉈と一緒に空中へ吹っ飛びやがった。


 何が起きたのかわからない。少なくとも大鉈の奴が、自分から飛び上がった様には見えない。そして奴は空中でジタバタしている、流石に英雄でも空中では体勢を整えられないんだろう。

 その後、奴の体は背中を中心にして、くの字に折れ曲がった。奴の巨体は、自ら開けた穴に落ちていく。

 

「何が起きた……、どうなってる?」


 見えないとか、そういう問題じゃねぇ。今になって、ようやく俺は奴のヤバさが理解出来る。奴は化け物だ。俺の剣じゃ、奴の皮膚を切る事さえ出来ねぇ。それだけ纏ってる気持ち悪いのが濃いんだ。俺がどんな攻撃を仕掛けようと、やつに剣が届く事すらねぇだろう。

 体がでかいってのも、厄介な所だな。俺の三倍は優に有る奴が大鉈を振るんだ、そりゃあ威力も相当だろうよ。


 そんな相手を軽々と空中に飛ばすって、どうしたらそんな事になる? 俺には理解が出来ねぇ。セカイの力を使いこなすと、そんな事も出来る様になるのか?

 いや、そうじゃねぇよな。少なくとも、大鉈の奴は消滅しちゃいねぇんだ。タカギは単に殴る蹴るしただけだろ? それだけで、あんなになるのか?


 これが俺とタカギの差か? でもよ、もし奴より強いのが現れたら、そん時はどうするんだ? 俺は糞の役にも立たねぇぞ。時間稼ぎどころか、足手纏いにすらなれずに殺される。


 タカギは戦いに集中してるから、俺に命令する余裕が無いんだろ。俺は俺で考えなきゃいけねぇ、これからどうするかをな。

 壁の向こうに行ったとしても、タカギの援護は出来ねぇ。やれる事が有ったとしても、片腕を無くした英雄の始末だけだ。だけど、その始末に手こずったら、それこそタカギの足手纏いになっちまう。

 でも、こうやって悩んでる間に、せっかく切り飛ばした片腕が元に戻るかも知れねぇ。それは駄目だ、今は二対一にしちゃいけねぇ。


 くそっ、行くしかねぇ。待ってろタカギ、片方は俺が片付ける。お願いだセカイ、もう一度力を貸してくれ。

次回もお楽しみに!

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