一時の休息
まだまだ続きます。
力を使って見ないとわからない。あのドーム状の結界は侵入者を阻むものじゃない、侵入者を撃退させる為の仕掛けだ。
そもそも壁は透明だ、動物の目では捉えられないだろう。その上、周囲に立ち込める煙と同じ成分が多分に含まれてる、不用意に触れると強烈な痛みが待ち構えている。
あの中に居れば、どんな小さい虫ですら二人を害する事は出来ない。問題が有るとすれば、結界は半永久的に存在し得ない所だろう。
何よりも、カナが投げた手榴弾が功を奏したのか、二人の周囲に動物の姿はない。これで少しはあの子達が休めるかもしれない。だが、油断は出来ない。
糞野郎がどんな手で動物達を増やしていたのかは推測できない。でも、無限に増やせる訳じゃない。そんな事は不可能なんだ、物理的にな。
生命はセカイから生まれる、故にセカイから力が枯渇すれば何も生まれなくなる。それはセカイの死だ。『大切な遊び場』を糞野郎が手放すとは思えない。だから永遠に続く事は無い。だけど、糞野郎には常識なんて通用しない。そんな簡単なら、俺はこんな所で戦ってない。今頃は警官を辞めて、安全な仕事をしてるはずだ。
そして、長年に渡って動物達を見て来たからわかる。今の奴等はモドキと一緒だ。それは酷く恐ろしい連想をさせる。
例えばだ、全てのモドキが襲い掛かって来たらどうする? 俺は動物達と同じ様にモドキを殺せるのか? 出来るとも、出来ないとも言えない。あの子達に危険が及ぶ様なら、俺は『人間になれる可能性が有る存在』でさえ、躊躇い無く殺せるだろう。だけど、二度と過ちを犯したく無いのも事実だ。
「らしくねぇな。ったく」
こうやって迷うから失うんだろ。最初の異端って奴が負けたのも、モドキ達の命を引き換えにしたからだろ。必要なのは中途半端な優しさじゃない。中途半端な使命感でもない。ましてや、倫理観だの正義感だの糞の役にも立たない。それこそ、アオジシの様に己を鍛える為に没頭する位が丁度いい。
「尊敬するぜ、アオジシ」
アオジシは知らないだけだ、理解してないだけだ。感情ってのをな。でも、そんなのが邪魔をするなら、今は知らなくていい。俺達は異端と違うんだ。
例え、どんな無様を晒しても、みじめな想いをしても、最後に立っているのが勝者で有り、そいつだけが望みを叶えられる。
俺は警戒を強めながら、散らばって息を潜め動物達を狩った。狩り自体は慣れている。それに、今回は個体数をするのとは違う。問答無用に殺すたけだ、不本意ではあるが。
☆ ☆ ☆
「タカギは案外馬鹿なんだろうな」
あいつの戦いを見ていて、何となくそう思った。俺より強い癖に、俺より早く死ぬんだろと感じた。なんでだろうな。多分、ガキ共に執着してるからだろうな。
俺は既に千を叩き切り、その内の百を消滅させた。切るだけなら剣を当てるだけで済む。剣から俺の力を大量に流しこまねぇと、消滅まではさせられない。かなり疲れるんだ。
だから俺は、雑魚共をぶっ殺しながらタカギの戦い方を真似てみた。あいつの言う『力の根源』ってのも意識してみた。それでも俺は、タカギの速さには追い付けない。タカギの強さに届かない。
それでようやく理解した。生意気にも俺を心配したのは、タカギが俺より強いからだ。当たり前の事かもしれねぇが、明確な差ってやつを理解したんだ。腹が立って仕方ねぇけどよ。
だけどな、これではっきりしたじゃねぇか。俺はあの馬鹿より強くなって、今度は「お前は下がってろ」とでも言ってやる。
英雄だ? 俺もそれだったんだろ? 肝心なのは『力をコントロールする』って事なんだろ? やってやるよ、今度は百じゃなくて千だ、いや全部だ。
「だから力を貸せよ、セカイ。俺に力を寄越せよ! てめぇを守ろうとしてる奴らを殺されたくなけりゃな!」
まぁ、そんな事を口走った所で、力が湧いてくる訳がねぇだろうけどよ。でもな、どうやったらガキ共はあんな事が出来るんだ?
妙な煙が広がったと思ったら、雑魚共が一気に倒れやがった。ガキ共の近くで煙をまともにくらった奴は、溶けちまいやがった。ガキの一人から大きな力を放つと、倒れた奴も消えていきやがった。
それに、あの透明な壁みたいなのは何だ? 煙は一つの場所に留まったりするのか? 一体なんなんだ? 訳がわからねぇ。セカイから力を貰えば、あんな事が出来る様になるのか? それなら尚更だろうが。
「おい! 早く寄越せ! どうせてめぇは持て余してんだろ? 俺がちゃんと使ってやるからよ! ほら、寄越せ!」
☆ ☆ ☆
「お〜、やってるっすね〜」
街道沿いは死骸の山か、元英雄にしては大人しいっすね。タカギの暴れっぷりは凄く怖かったのに、あの人からは怖さを感じないっす。それより、あの子達がやらかした事の方が怖いっすよ。
何で異端って予想外の事をするんすかね。あんなのを使えば、街なんて一瞬で滅ぼせるじゃないっすか。アレが見てるんすよ。大量殺戮兵器の作り方を教えてる様なもんっす。
その辺りは子供だし仕方ないんすかね。どうせあの子達は港でもやらかすんだから、イゴーリかパナケラに対策を考えさせるっす。
あ〜、それにしてもおっかないっすね。それに、溶けてく様子が気色悪いっす。でも、見に来て良かったっす。
ソウマヘの報告が増えたっす。あの子達は私達が考えてる程、弱くは無いっす。でも、英雄と戦える程では無いっす。タカギのお供の方が、多少はマシっす。
ソウマの作戦通りに、英雄を迎え撃つのはタカギとイゴーリになりそうっす。お供がもう少し頑張ってくれたら、私がサポートに入る形で参加させてもいいかもっす。そんな訳で報告っよ。
「はいは〜い、みなさ〜ん。聞こえてるっすか〜、忙しくても耳を傾けるっす」
「リミローラ。寄り道かい?」
「そうっす。でも、面白いものが見れたんす」
流石のソウマも、少しは驚いたみたいっすね。殺戮兵器に関しては、シルビアさんが補足説明をしてくれたっす。育て親は違うっす、予想はしてたみたいっすね。
イゴーリは少し楽しそうっす。ヨルンとヘレイは何だかワクワしてるみたいっす。何ていうか好戦的っす。
「パナケラ、解析を頼めるか?」
「うん、任せて」
「ヘレイ。急ぎ編成を終わらせ、動物達の掃討を頼む」
「仕方ない。任せろ」
「イゴーリは暴れ過ぎるな」
「おい! 何で俺だけ!」
「それは一番の問題児だからじゃないっすか?」
「うるせぇよ! お前に言われたかねぇ!」
「落ち着け。お前は余計な荷物を抱えて、英雄と戦わければならないんだ」
「タカギに言って、そいつをどっかに避難させとけよ!」
「お前なら、それで納得したか?」
「……、しねぇな」
「なら覚悟だけはしておけ」
「わかったよ、面倒くせぇな!」
「それで、子供達は後どの位で港に着く?」
「タカギがかなり数を減らしてるっす。夜明けには着くかもっす」
「そうか。リミローラは引き続き様子を見てくれ」
「見るだけっすよ。手は出さないっす」
「それでいい」
ソウマにはもっと慌てて欲しかったっすけど、驚き要素が弱かったんすかね。まぁ、あの子達が色々とやらかすのは、多分これからっす。あの何でもわかってる様な面が、面白おかしく変わる事を期待したいっすね。
おっ? そろそろカナちゃんが目を覚したっすね。ミサちゃんは大して休んでなさそうっすけど、大丈夫なんすかね?
あの兵器を使えば、港に着くのは難しくなさそうっすけど、あんまり多用はして欲しく無いっす。
どちらにしても、頑張って乗り越えるんすよ。私は手を貸せないっすからね。
次回もお楽しみに。




